試験に出るところではないけれど───

|公開日 2017.6.7|最終更新日 2018.5.14

1 私たちの日常生活は契約で成り立っている

私たちの日々の日常生活は、おびただしい数の「契約」で支えられています。
契約というのは「法律行為」ともいい、法律上の強制力をもった約束ということです。

この「法律上の強制力を有する」というのが、契約の恐いところです。

お互いに契約がそのまま実行されれば何の問題も生じません。契約の目的が達成されて、支障なく日常生活を営んでいくことができます。

しかし、相手が約束を守ってくれない、たとえば期日がきたのに代金を支払ってくれない、買った物が送られてこないなど、約束どおりに実行されない場合が少なくありません。

こうした契約上のトラブルは日常茶飯事に起こっていますが、実はこのようなトラブルがあったときにはじめて、契約は本来の威力を発揮して、法律上の強制力を発動します。

つまり、国家権力の一翼を担う裁判所という司法機関が、約束を守らない者に対して有無を言わさず、強制力をもって契約どおりの内容を実現させるのです。

代金を支払わない者には「代金を支払え」という判決を下し、これを無視すれば、財産を差し押さえて競売して代金に代えてしまいます。

このように、法律上の強制力を背後にもっているのが「契約」なのです。私たちはこのような契約に囲まれて日々生活をしています。

2 現代は契約社会──規律しているのは民法

それでは、私たちの日常生活を支えている契約にはどのようなものがあるでしょうか。
ザッと見渡しただけでも次のようなものがあります。

スーパー・コンビニ・家電量販店・書店などでの売買契約
電気・ガス・水道などの供給契約
電鉄・バス・タクシー・航空機・船舶などの運送契約
銀行などの金融機関との預金契約
生命・火災・損害などの保険契約
テレビ・スマホ・インターネットなどのサービス利用契約
映画館・劇場などの入場契約
病院・クリニックなどの診療契約
ホテル・旅館などの宿泊契約
マック・モス・スタバなどでの飲食契約など、実に多種多様です。

そして、これらの契約の起源・母体が民法なのです。
これらの契約は、民法1つだけでは到底カバーしきれないため、民法の原則を受け継ぎながら、それぞれの法律の趣旨で規律(これらを特別法といいます)されています。

3 民法は原則法である

民法はこうした市民生活を原則的・一般的に規律している法律なのですが、上述したように社会生活が発展していく過程では、どうしても民法の原則だけでは適切な規制ができない、原則をそのまま適用したのではかえって不合理である・不平等であるという領域が数多くでてきます。

民法のルールではうまく処理できない局面では、それを処理するための特別のルールを作る必要があります。
こうして作られた特別のルールを民法の「原則法・一般法」に対して、「特別法」といいます。

したがって、特別法は一般法・原則法である民法に優先して適用され(特別法は一般法に優先するとか、特別法は一般法を破るとかいいます)、もし特別法に規定がなかった項目については、もともとの原則を定めた民法が適用されることになるのです。

4 民法は典型的な契約だけを定めた

一般法・原則法としての民法は、最も代表的な契約パターンだけを定めました。つまり、

①贈与  ②売買  ③交換
④消費貸借  ⑤使用貸借  ⑥賃貸借
⑦雇用  ⑧請負  ⑨委任
⑩寄託  ⑪組合  ⑫終身定期金
⑬和解
の13種類で、これらを「典型契約」といいます。

私たちの生活を支える多種多様の契約は、民法の典型契約が社会の必要に応じて発展してきたものですから、この典型契約さえ理解しておけば、ほとんどの契約を理解・運用することができます。
各種の国家試験で民法が必須科目となっている理由もここにあるのです。

5 借地借家法、区分所有法、不動産登記法、宅建業法などは特別法

試験科目である「借地借家法」は、民法の賃貸借の規定では不十分な土地建物の賃借人を保護するための特別法ですし、「区分所有法」は、民法の一物一権主義の例外として、建物の一部に所有権を認めてその法律関係を規律する特別法です。

「不動産登記法」は、民法177条の不動産対抗要件(登記)の細則を定めた特別法、「宅建業法」は、民法の規定だけでは不動産の一般購入者の保護に欠けるため、宅建業者の不動産取引を規制した特別法です。

こうした特別法は、原則法である民法を理解していれば簡単に理解することができます。

民法の賃貸借契約を理解しておけば、借地借家法の借家権・借地権・対抗要件などは苦もなく理解できますし、民法の売買契約で登場する「瑕疵担保責任」を理解しておけば、宅建業法の「瑕疵担保責任」も容易に理解できるのです。

6 民法は、紛争解決の標準マニュアルだ

契約の当事者双方が、その契約を誠実に履行(りこう)すれば、何の問題もなく、契約の目的を達成して平和な生活を営むことができます。

清水の舞台から飛び降りる決心でマンションを買って、希望通りの条件で住むことができれば、大満足でしょう。購入者も販売業者もメデタシメデタシです。

ところが、高価な物だとすすめられて買ったら非常な安物だったとか、怖いお兄さんたちおどされて泣く泣く先祖伝来の土地を売ってしまったとか、1000万円と書くつもりでウッカリ100万円と書いてしまったとか、いろんな異常事態が発生します。

こうした場合、一方は契約は有効だと主張し、他方は無効だと言い、紛争が生じます。
このような異常事態に備えて、あらかじめ「紛争解決の標準マニュアル」を示したルールが、民法(=条文)なのです。

たとえば、
・詐欺や強迫にあって契約した場合の解決マニュアルが、93条~96条
・相手が契約を履行しないときに、一方はどんなことができるかを示したのが、414条
・損害賠償の範囲を定めたのが、416条というふうにです。


民法は、要するに「契約上の紛争解決マニュアル」なんだということをまず認識しておきましょう。



(この項終わり)