|更新日 2019.7.17
|公開日 2017.5.10

【問 1】 事業者Aが雇用している従業員Bが行った不法行為に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aに使用者としての損害賠償責任が発生する場合、Bには被害者に対する不法行為に基づく損害賠償責任は発生しない。

 Bが営業時間中にA所有の自動車を運転して取引先に行く途中に前方不注意で人身事故を発生させても、Aに無断で自動車を運転していた場合、Aに使用者としての損害賠償責任は発生しない。

 Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aに使用者としての損害賠償責任が発生する場合、Aが被害者に対して売買代金債権を有していれば、被害者は不法行為に基づく損害賠償債権で売買代金債務を相殺することができる。

 Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aが使用者としての損害賠償責任を負担した場合、A自身は不法行為を行っていない以上、Aは負担した損害額の2分の1をBに対して求償できる。

(平成18年 問11)


 解説&正解 

 誤り [被用者の不法行為]
使用者Aに、715条に基づく使用者責任が発生する場合には、その前提として、被用者Bについて、709条による不法行為責任が成立している
したがってAの使用者責任が成立しているからといって、被害者に対するBの不法行為責任が免除されることはないのである。

 誤り [事業執行の範囲|外形理論]
被用者Bが、使用者Aに「無断で」運転していても、「営業時間中」に「取引先に行く途中」であれば、事業の執行について生じたものと解され、Aに使用者としての損害賠償責任が発生する。

事業の執行についてとは、被用者の職務行為そのものには属さなくても、行為の外形から判断して、広く被用者の職務の範囲内に属すると認められる場合を含んでおり、必ずしも担当業務を適正に執行する場合だけを指すものではないのである。

 正しい [不法行為債権での相殺]
被害者は、不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権として、使用者に対する売買代金債務と相殺できる。

被害者の損害賠償債権を受働債権にできないとする民法の趣旨は、被害者に現実の弁済を受けさせることにあるから、損害賠償債権を自働債権として相殺することまで禁止するものではないのである。

 誤り [求償権の範囲]
使用者Aが使用者責任を負うとしても、本来の責任は、加害者である被用者B自身にあるのだから、その不法行為責任が免除されるわけではない。
そのため、Aが損害賠償責任を負担した場合には、Bに対して求償できるのであるが、その範囲は必ずしも「損害額の2分の1」には限られない。

※ ただし全額を求償できるものではなく、判例によれば「損害の公平な分担という見地から、信義側上相当と認められる限度」で求償できるとして、使用者の求償権を制限している(最判昭51.7.8)
これは、被用者は企業活動の一部として活動しており、それを通して使用者が多大な利益を上げていることや、企業活動に伴う危険性を考慮したためである。

[正解] 3

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【問 2】 Aに雇用されているBが、勤務中にA所有の乗用車を運転し、営業活動のため得意先に向かっている途中で交通事故を起こし、歩いていたCに危害を加えた場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 BのCに対する損害賠償義務が消滅時効にかかったとしても、AのCに対する損害賠償義務が当然に消滅するものではない。

 Cが即死であった場合には、Cには事故による精神的な損害が発生する余地がないので、AはCの相続人に対して慰謝料についての損害賠償責任を負わない。

 Aの使用者責任が認められてCに対して損害を賠償した場合には、AはBに対して求償することができるので、Bに資力があれば、最終的にはAはCに対して賠償した損害額の全額を常にBから回収することができる。

 Cが幼児である場合には、被害者側に過失があるときでも過失相殺が考慮されないので、AはCに発生した損害の全額を賠償しなければならない。

(平成24年 問9)


 解説&正解 

 正しい [不真正連帯債務の性質]
被用者Bの損害賠償債務が消滅時効にかかっても、使用者Aの損害賠償債務はその影響を受けず、当然に時効消滅するものではない。
被害者に対する使用者・被用者双方の債務は、不真正連帯債務だからである。

 誤り [死者自身の損害賠償請求権]
Cが「即死」の場合でも、使用者AはCの相続人に対して慰謝料賠償責任を負う。

判例は、即死の場合でも、負傷後数時間で死亡した場合でも、財産的損害・精神的損害について、まず被害者・死者自身に損害賠償請求権が発生し、それが相続人に承継されるとしている(最判昭42.11.1)
身体傷害の場合には、被害者自身が損害賠償請求権を取得するのに、最も重大な法益である生命侵害にそれが認められないのは、著しく均衡を欠くというのがその理由である。

 誤り [求償権の範囲]
損害を賠償した使用者Aが、その全額を常に被用者Bから回収できるものではない。
求償の範囲は、信義側上相当と認められる限度であって、使用者の求償権は制限される。Bの「資力」には影響されない。

 誤り [被害者側の過失]
幼児Cのように被害者本人に事理弁識能力がなくても、監督者である父母などの「被害者側」に過失があるときは、過失相殺が認められており(被害者側の過失の法理)、使用者Aが「損害の全額を賠償しなければならない」ものではない。
722条の過失とは、単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく「被害者側の過失」をも包含する趣旨なのである。

[正解] 1

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【問 3】 Aの被用者Bと、Cの被用者Dが、A及びCの事業の執行につき、共同してEに対し不法行為をし、A、B、C及びDが、Eに対し損害賠償債務を負担した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 Aは、Eに対するBとDの加害割合が6対4である場合は、Eの損害全額の賠償請求に対して、損害の6割に相当する金額について賠償の支払をする責任を負う。

 Aが、自己の負担部分を超えて、Eに対し損害を賠償したときは、その超える部分につき、Cに対し、Cの負担部分の限度で求償することができる。

 Aは、Eに対し損害賠償債務を負担したことに基づき損害を被った場合は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、Bに対し、損害の賠償又は求償の請求をすることができる。

 Dが、自己の負担部分を超えて、Eに対し損害を賠償したときは、その超える部分につき、Aに対し、Aの負担部分の限度で求償することができる。

(平成14年 問11)


 解説&正解 

本問は、使用者責任と共同不法行為責任との混合問題です。こういう問題で点差がついてきます。

 誤り [全額の連帯責任]
使用者Aは、加害者「BとDの加害割合が6対4」であっても、被害者Eに対し全額の賠償責任を負わなければならない。
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは共同不法行為として、各人が連帯して損害全額を賠償する責任がある。

被用者Bは、Eに対し損害全額の責任を負い、使用者Aは、その指揮監督下にある被用者Bと一体をなすものとして、Bと同じ内容の責任を負うのである。
加害割合6対4は、内部的な負担部分として考慮されるだけである。

 正しい [負担部分の求償]
使用者Aが、加害者B・Dの過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、他方の使用者Cに対し、Cの負担部分の限度で求償することができる。
各使用者間の求償は、責任分担の公平を図るために認められているからである。

 正しい [使用者の求償権]
問題文は、判旨(最判昭51.7.8)をそのまま記述したもの。

使用者Aが、被用者Bの不法行為により、使用者としての損害賠償責任を負担したことにより損害をこうむった場合は、「損害の公平な分担という見地から、信義則上相当と認められる限度」において、Bに対し、損害の賠償または求償の請求をすることができる。

 正しい [被用者の求償権]
Cの被用者Dが、自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分について、Bの負担部分(=Aの負担部分)の限度で、一方の使用者Aに対し求償することができる。
被害者Eとの関係においては、使用者Aと被用者Bは一体をなすものであり、Aは、Bと同じ内容の責任を負うのである。

[正解] 1


(この項終わり)