|更新日 2020.08.14
|公開日 2020.02.20

【問 1】 A所有の甲土地についてのAB間の売買契約に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 Aは甲土地を「1,000万円で売却する」という意思表示を行ったが当該意思表示はAの真意ではなく、Bもその旨を知っていた。この場合、Bが「1,000万円で購入する」という意思表示をすれば、AB間の売買契約は有効に成立する。

 AB間の売買契約が、AとBとで意を通じた仮装のものであったとしても、Aの売買契約の動機が債権者からの差押えを逃れるというものであることをBが知っていた場合には、AB間の売買契約は有効に成立する。

 Aが第三者Cの強迫によりBとの間で売買契約を締結した場合、Bがその強迫の事実を知っていたか否かにかかわらず、AはAB間の売買契約に関する意思表示を取り消すことができる。

 AB間の売買契約が、Aが泥酔して意思無能力である間になされたものである場合、Aは、酔いから覚めて売買契約を追認するまではいつでも売買契約を取り消すことができ、追認を拒絶すれば、その時点から売買契約は無効となる。
(平成19年問1)

 解説&正解 
【1】 [心裡留保と悪意の相手方]
「Aは……意思表示を行ったが当該意思表示はAの真意ではなく」というのは、心裡留保であり、原則として有効である(表示が真意でなくても表示どおりの効果が生じる)。これは、表示を信じた相手方を保護して取引の安全を図るためである。

しかし相手方が、表意者の意思表示が「真意ではない」ことを知り、または知ることができたとき(つまり、悪意または善意だが過失があるとき)は、もはや保護の必要はないので、意思表示は無効とされる。

相手方Bは、Aの意思表示が真意ではないことを「知っていた」のであるから、Aの意思表示は無効であり、無効の意思表示に対して、Bが「1,000万円で購入する」という意思表示をしても、AB間の売買契約が「有効に成立する」ことはない。
本肢は誤りです。

【2】 [虚偽表示]
「意を通じた仮装」のAB間の売買契約は虚偽表示によるものであって無効である。
「債権者からの差押えを逃れる」ためにしたという虚偽表示の動機は関係がない。
本肢は誤りです。

【3】 [第三者による強迫]
Aは、契約当事者ではない第三者Cの強迫によってBと契約をしている。
第三者による強迫の場合、Aは、相手方Bが、Cの強迫を「知っていたか否かにかかわらず」(善意・悪意に関係なく)、常に契約を取り消すことができる

第三者による強迫の場合でも、通常の強迫と同様、強迫された本人に責任があるとはいえないため、善意の相手方よりも保護されるべきだからである。
本肢は正しい記述です。

【4】 [意思無能力者の行為]
意思無能力の状態でなされた売買契約は、正常な判断能力に基づくものではないためはじめから無効である。
はじめから無効な行為について「追認するまではいつでも売買契約を取り消すことができ」る余地はない。
本肢は誤りです。

[正解] 3

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【問 2】 A所有の甲土地につき、AとBとの間で売買契約が締結された場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 Bは、甲土地は将来地価が高騰すると勝手に思い込んで売買契約を締結したところ、実際には高騰しなかった場合、動機の錯誤を理由に本件売買契約を取り消すことができる。

 Bは、第三者であるCから甲土地がリゾート開発される地域内になるとだまされて売買契約を締結した場合、AがCによる詐欺の事実を知っていたとしても、Bは本件売買契約を詐欺を理由に取り消すことはできない。

 AがBにだまされたとして詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消した後、Bが甲土地をAに返還せずにDに転売してDが所有権移転登記を備えても、AはDから甲土地を取り戻すことができる。

 BがEに甲土地を転売した後に、AがBの強迫を理由にAB間の売買契約を取り消した場合には、EがBによる強迫につき知らなかったときであっても、AはEから甲土地を取り戻すことができる。
(平成23年問1)

 解説&正解 
【1】 [表示されない動機の錯誤]
将来地価が高騰すると「勝手に思い込んで」売買契約を締結したが、実際には「高騰しなかった」のだから、動機に錯誤があったといえる。
しかし「思い込んで」いるだけで、この動機が相手方に表示されなかったときは、法律行為の内容とはならないため錯誤があったとはいえず、錯誤を理由に契約を取り消すことはできない。
本肢は誤りです。

【2】 [第三者詐欺と相手方の悪意]
本肢は、第三者による詐欺である。
この場合は、契約の相手方Aが、Bは第三者Cにだまされているという「詐欺の事実を知っていた」か、または知ることができたときに限って、Bは契約を取り消すことができる
「詐欺の事実を知っていたとしても、……取り消すことはできない」という記述は誤り。

【3】 [取消後の第三者]
詐欺を理由に売買契約が取り消された場合に、その取消し後に、Bから土地所有権を取得したDは、そもそも96条3項によって保護される「第三者」には該当しない

取消し後の場合には、①取消しによるB→Aの所有権復帰と、②取消し後のB→Dへの譲渡とは、二重譲渡と同様の関係が成立し、先に登記を備えた方が完全に権利を取得する(177条)
Dが所有権移転登記を備えた以上、AはDから甲土地を取り戻すことはできない。
本肢は誤りです。

【4】 [強迫と善意の第三者]
Aが、Bの強迫を理由に契約を取り消した場合、その取消しは、強迫を「知らなかった」善意の第三者Eにも対抗できるので、Aは、Eから甲土地を取り戻すことができる。
民法は、強迫の場合は、強迫された本人に何の落ち度もないのであるから、第三者が善意・無過失であっても、本人を優先して保護しているのである。
本肢は正しい記述です。

[正解] 4

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【問 3】 AがBに甲土地を売却した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 甲土地につき売買代金の支払と登記の移転がなされた後、第三者の詐欺を理由に売買契約が取り消された場合、原状回復のため、BはAに登記を移転する義務を、AはBに代金を返還する義務を負い、各義務は同時履行の関係となる。

 Aが甲土地を売却した意思表示に錯誤があったとしても、Aに重大な過失があって取消しを主張することができない場合は、BもAの錯誤を理由として取消しを主張することはできない。

 AB間の売買契約が仮装譲渡であり、その後BがCに甲土地を転売した場合、Cが仮装譲渡の事実を知らなければ、Aは、Cに虚偽表示による無効を対抗することができない。

 Aが第三者の詐欺によってBに甲土地を売却し、その後BがDに甲土地を転売した場合、Bが第三者の詐欺の事実を知らなかったとしても、Dが第三者の詐欺の事実を知っていれば、Aは詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消すことができる。
(平成30年問1)

 解説&正解 
【1】 [原状回復義務]
売買契約が取り消されると、契約の効果もさかのぼって無効となるから(121条)、売主・買主は、互いに契約がなかった状態に戻す原状回復義務を負うことになる。
この場合、買主Bの登記移転義務と売主Aの代金返還義務とは、同時に履行しなければならない同時履行の関係にある。
本肢は正しい記述です。

【2】 [本人に重過失がある錯誤]
[2020.08.14 更新]
錯誤をした本人Aに「重大な過失」がある場合は、本人は取消しを主張できない。
本人を保護するための錯誤取消しも、重過失がある本人までも保護すべきではないということで、この場合には、相手方Bの意図通りの契約が成立するわけだから、BにAの錯誤を理由に取消しを認める必要はないのである。

判例は「錯誤により表意者みずから無効(新民法では取消)を主張しえない場合は、相手方および第三者も無効を主張することができない」として、表意者保護のための取消しの主張を、相手方・第三者が援用することは制度の趣旨に反するとしている(最判昭40.6.4)
本肢は正しい記述です。

【3】 [虚偽表示]
「売買契約が仮装譲渡」というのは、虚偽表示による契約であって、無効である。
この無効は、善意の第三者には対抗できないから、第三者Cが「仮装譲渡の事実を知らなければ」、つまり善意であれば、「Aは、Cに虚偽表示による無効を対抗することはできない」ことになる。
本肢は正しい記述です。

【4】 [第三者の詐欺と転得者]
[2020.08.14 更新]
Aが「第三者の詐欺によって」契約をした場合、Aは無条件に契約を取り消せるのではなく、契約の相手方Bが、Aに対する詐欺があったという事実を知っているか(悪意)、または知ることができた(過失がある)ときに限って取り消すことができる。

したがって「詐欺の事実を知らなかった」善意のBに対しては、Aは詐欺を理由としてAB間の契約を取り消すことはできず、その結果、Bは完全に権利を取得することになる。
そのため、Bからの転得者Dは善意・悪意にかかわらず、Bが取得した完全な権利を承継することができるのである。

この問題に対応した判例はないが、虚偽表示(94条2項)における「転得者」が問題となった事例で、判例(大判昭6.10.24)は「転得者は、前主の地位の承継を主張することもできるので、善意の第三者からの転得者は悪意でも保護される」としている。

善意の第三者には対抗できないが、「悪意の転得者」には対抗できるというように、善意・悪意を相対的に考慮すると法律関係が複雑になり取引の混乱を生じるため、このように理論構成されたわけである。
本肢は誤りです。

[正解] 4

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