|更新日 2019.7.16
|公開日 2017.5.10

【問 1】 借主Aは、B所有の建物について貸主Bとの間で賃貸借契約を締結し、敷金として賃料2ヵ月分に相当する金額をBに対して支払ったが、当該敷金についてBによる賃料債権への充当はされていない。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち正しいものはどれか。

 賃貸借契約が終了した場合、建物明渡しと敷金返還とは同時履行の関係に立たず、Aの建物明渡しはBから敷金の返還された後に行えばよい。

 賃貸借契約期間中にBが建物をCに譲渡した場合で、Cが賃貸人の地位を承継したとき、敷金に関する権利義務は当然にCに承継される。

 賃貸借契約期間中にAがDに対して賃借権を譲渡した場合で、Bがこの賃借権譲渡を承諾したとき、敷金に関する権利義務は当然にDに承継される。

 賃貸借契約が終了した後、Aが建物を明け渡す前に、Bが建物をEに譲渡した場合で、BE間でEに敷金を承継させる旨を合意したとき、敷金に関する権利義務は当然にEに承継される。

(平成15年 問11)


 解説&正解 

 誤り [敷金はいつ返還するのか]
確かに、「建物明渡し」と「敷金返還」とは同時履行の関係にはないが、先に履行しなければならないのは、建物明渡しである。
「敷金の返還された後」に明け渡すのではない。

※ 敷金は、契約期間中に負担する賃借人の賃料債務など一切の債務を担保するために交付される金銭で、契約終了後、建物明渡し完了時に、賃借人の債務を差し引いて残額が返還される。
つまり、敷金返還請求権は、建物明渡しを完了しないと具体的に発生しない権利だから、まず先に建物を明け渡す必要がある。

 正しい [建物譲渡と敷金の承継]
契約期間中に賃貸建物が譲渡され、その所有権の移転に伴い、新所有者Cが賃貸人Bの地位を承継する場合には、賃貸借の従たる法律関係である敷金に関する権利義務もこれに伴い、賃借人Aの承諾がなくとも、未払賃料を控除した残額について、当然にCに承継される。

※ 敷金は、賃借人の賃料債務等の不履行があれば、その弁済として当然これに充当される性質のものだから、建物の所有権移転に伴って、賃貸人たる地位の承継があった場合には、敷金は、未払賃料等の弁済として当然に充当され、その限度で敷金返還請求権は消滅し、残額について新賃貸人に承継されることになる。

敷金

 誤り [賃借権譲渡と敷金の承継]
賃貸人Bの承諾により、適法に賃借権が譲渡されても、敷金に関する権利義務は当然には新賃借人Dに承継されない。

敷金契約は、賃貸借に従たる契約ではあるが、賃貸借とは別個の契約であるから、賃借権譲渡により、旧賃借人Aが賃貸借関係から離脱した以上、(敷金返還請求権をDに譲渡するなど)特段の事情のない限り、Aの敷金で、Dの将来の債務を担保させることは、Aに不利益を与えるからである。

※ 建物譲渡と賃借権譲渡を混同しないように。

敷金

 誤り [契約終了後の建物譲渡と敷金の承継]
契約終了後建物明渡し前に、建物が譲渡された場合、旧所有者Bと新所有者Eとの間で「敷金を承継させる」合意があっても、敷金に関する権利義務は「当然にEに承継される」ものではなく、賃借人Aの承諾が必要である。

Eに承継される敷金返還債務は債務引受となるため、その弁済能力は、Aにとって重大な利害関係を有するからである。

※ そもそも賃貸借は終了しているのであるから、敷金に関する権利義務のみがEに当然に承継されることはない。

[正解] 2

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【問 2】 Aは、自己所有の甲建物(居住用)をBに賃貸し、引渡しも終わり、敷金50万円を受領した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 賃貸借が終了した場合、AがBに対し、社会通念上通常の使用をした場合に生じる通常損耗について原状回復義務を負わせることは、補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているなど、その旨の特約が明確に合意されたときでもすることができない。

 Aが甲建物をCに譲渡し、所有権移転登記を経た場合、Bの承諾がなくとも、敷金が存在する限度において、敷金返還債務はAからCに承継される。

 BがAの承諾を得て賃借権をDに移転する場合、賃借権の移転合意だけでは、敷金返還請求権(敷金が存在する限度に限る。)はBからDに承継されない。

 甲建物の抵当権者がAのBに対する賃料債権につき物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合においても、その賃料が支払われないまま賃貸借契約が終了し、甲建物がBからAに明け渡されたときは、その未払賃料債権は敷金の充当により、その限度で消滅する。

(平成20年 問10)


 解説&正解 

 誤り [通常損耗の原状回復義務]
通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に「具体的に明記」されているなど、その旨の「特約が明確に合意されたとき」であれば、通常損耗について原状回復義務を負わせることができる。

※ 判例(最判平17.12.16)は「賃借人が負担する賃借物の原状回復義務には、特約のない限り、社会通念上通常の使用に伴う通常損耗に係るものは含まれず、その補修費用は賃貸人が負担すべきである。
したがって賃借人に対し、通常損耗について原状回復義務を負わせることは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるため、この義務を認めるためには、少なくとも、補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」としている。

要するに、契約が終わって出て行く賃借人に通常損耗の補修費用を請求するためには、前もってそのことをハッキリさせておくように、ということである。

 正しい [建物譲渡と敷金の承継]
賃貸建物が譲渡されたときは、敷金に関する権利義務関係は、賃借人Bの承諾がなくとも「敷金が存在する限度において」、つまり未払賃料を控除した残額について、当然に新賃貸人Cに承継される。

 正しい [賃借権譲渡と敷金の承継]
賃借人Bが、建物賃借権を適法に譲渡・移転する場合、賃貸人Aに対する敷金返還請求権の承継については、新賃借人Dに敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り、賃借権譲渡の承諾とは別に、そのためだけの合意が必要である。

 正しい [賃料債権差押えと敷金充当]
甲建物の抵当権者が、物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえた場合でも、賃貸借が終了し、建物が明け渡されたときは、未払賃料債権は「敷金の充当により、その限度で消滅する」

※ 判例は、「抵当権者は、物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえる前は、原則として抵当不動産の用益関係に介入できないのであるから、抵当不動産の所有者等(賃貸人など)は、賃貸借契約に付随する契約として敷金契約を締結するか否かを自由に決定することができる
したがって、敷金契約が締結された場合は、賃料債権は敷金の充当を予定した債権になり、このことを抵当権者に主張することができるというべきである」(最判平14.3.28)としている。

[正解] 1


(この項終わり)