|更新日 2023.2.25|公開日 2017.8.06
1|相続制度
相続はいつ開始する?
相続は、人の死亡によって開始します。
たとえ相続人が、被相続人の死亡を知らなくても、そのすべての財産、つまり一切の権利義務が、死亡と同時に当然に相続人に移転します。不動産の移転登記をしたり、預金の名義を変えたりなどの手続きは必要ありません。
ただし、被相続人の一身に専属したもの、たとえば代理権や使用借権などは、相続の対象とはなりません。
被相続人が死亡した瞬間は、家が長男に、土地が長女にというように「具体的」に移転するのではなく、まずは「抽象的」に相続人全員に全体として移転するわけです。
家や土地・預貯金など個別財産について、具体的に権利を取得するのは、遺産分割の手続をしてからです。
念のためですが、「被相続人」というのは死亡した人のことで、その生前の財産・地位が「相続される人」のことをいいます。
相続人の範囲
相続をする者の範囲は、次の4者に限られています。
1 配偶者
2 子(代襲相続あり)
3 直系尊属
4 兄弟姉妹(代襲相続あり)
笑う相続人
この4者に限定したのは、相続人の範囲をあまりに広くして、ある人の死亡を悲しむことなく、ただ遺産の相続を喜ぶ、いわゆる「笑う相続人」を多く生じさせることは、法感情に反するだけでなく弊害を伴うおそれもあるからです。
2|法定相続人と相続分
1 相続順序・相続人・相続分
法定相続分の算出問題では、①まず最初に相続人を確定し、②次に相続分を計算します。
さて、父が死亡して、被相続人となった場合で確認しておきましょう。
配偶者は「常に相続人」となります。子がいてもいなくても、直系尊属がいてもいなくても、常に相続人です。ほかに相続人がいなければ、配偶者1人で全遺産を相続します。
被相続人の生存中に「離婚した元配偶者」は、相続人になれません。「配偶者」として相続人となるのは「被相続人の死亡時」における配偶者です。
相続順序と相続人・相続分は、次のとおりです。これを覚えていないと算出問題は正解できません。
第1順位──子と配偶者
第1順位者の「子がいるとき」は、子と配偶者だけが相続人となります。
「配偶者がいないとき」は、子だけが相続します。
「直系尊属」(第2順位者)、「兄弟姉妹」(第3順位者)が生存していても、これらの者は相続人となることはできません。子には、代襲相続人を含みます。
相続分は次のとおり。
・配偶者 1/2
・子 1/2
子が数人いるときは、1/2を等分します。「子」であれば、親権者の別(離婚後の親権者が異なる場合)、男女の別、実子・養子、嫡出子・非嫡出子に区別はなく、また戸籍の異同、国籍の有無なども、まったく関係がありません。結婚した娘、養子に行った子も含まれます。
被相続人の「死亡時」に、まだ生まれていない胎児も1人の相続人となります。
第2順位──直系尊属と配偶者
第1順位者の「子」がいないときには、配偶者と直系尊属が相続人となります。
第3順位者の「兄弟姉妹」がいても、兄弟姉妹は相続人とはなりません。
相続分は次のとおり。
・配偶者 2/3
・直系尊属 1/3
直系尊属が数人あるときは、1/3を等分します。「配偶者がいないとき」は、直系尊属だけが相続し、兄弟姉妹は相続人とはなりません。
第3順位──兄弟姉妹と配偶者
第1順位者の「子」と第2順位者の「直系尊属」がいないときには、配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。相続分は次のとおり。
・配偶者 3/4
・兄弟姉妹 1/4
兄弟姉妹が数人あるときは、1/4を等分します。「配偶者がいないとき」は、兄弟姉妹がすべてを等分します。なお、父または母を異にする兄弟姉妹の相続分は、父母ともに同じ兄弟姉妹の1/2です。
ちなみに、配偶者の相続分は「1/2→2/3→3/4」と分子・分母が1つずつ増していきます。
相続の順序と相続分は絶対に覚えないとダメだよ。
2 代襲相続
意 味
代襲相続というのは、「子が代わって相続する」ことをいいます。つまり、被相続人の死亡以前に、「相続人となるべき子や兄弟姉妹」が、すでに死亡していたなどの場合に、その者の「子」(直系卑属)が代わって相続することです。
趣 旨
子が代わって相続するのは、親子・夫婦・兄弟姉妹などの親族関係は、現在における「横のつながり」があるだけでなく、将来にわたる「縦のつながり」でもあって、相続制度がその経済的な基礎を与えているからなのです。代襲相続は、その趣旨を受け継いでいるわけです。
代襲原因
次のいずれかに該当していれば、相続人の「子」が代襲相続します。
① 相続人(子・兄弟姉妹)が「相続の開始以前に死亡」していたとき
つまり、被相続人が死亡する以前にすでに死亡していた場合です。
② 相続人が、相続の欠格事由に該当するか廃除によって「相続権を失ったとき」
代襲相続人
代襲相続人になるのは、次のいずれかです。被相続人の直系卑属でない者は、代襲相続はできません。
① 代襲原因が生じた子の「子」(被相続人の孫)
② 代襲原因が生じた兄弟姉妹の「子」
再代襲
再代襲というのは「2代目が代襲する」ことです。「代襲相続人」自身もまた、代襲原因に該当したため代襲相続権を失った場合には、さらに「代襲相続人の子」が代襲相続するのです。
ただし、兄弟姉妹の代襲相続は「その子」に限られており、再代襲は認められません。
代襲相続人の相続分
代襲相続人の法定相続分は、被相続人の子の相続分と同じです。代襲相続人が数人(長男・次男・長女など)あるときは、等分されます。
3 相続欠格事由
「相続人となることができない」欠格事由は5つありますが、重要なのは、被相続人の遺言書を偽造したり、破棄したり、または隠匿することです。被相続人の「遺言書を偽造」すると、相続権を失い、相続人となることはできません。
ただし、相続欠格者の「子」が代襲相続することはできます。
3|持戻し免除の推定
これは、婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する特別措置で、新民法で明文化されました(903条4項)。
意 味
持戻し(もちもどし)というのは一般的に、被相続人から、配偶者・子などに対して遺贈や生前に贈与があった(特別受益といいます)場合、相続が開始したときにこれらを相続財産に含めて(持ち戻して)計算することをいいます。生前の贈与等を「遺産の先渡し」とみるわけです。
反対に「持戻し免除」というのは、こうした贈与等を「相続財産に含めない」ことです。
趣 旨
これは、配偶者の利益を保護するためです。改正前民法では、被相続人が生存中に「配偶者に対して贈与や遺贈」がなされても、原則として「遺産の先渡しを受けたもの」とされ、遺産分割時に「相続財産に持ち戻して」計算されるため、配偶者が最終的に取得する財産額は、結局のところ「贈与等がなかった」と同じになってしまいます。
これでは、配偶者の老後の生活を配慮して贈与等を行った被相続人の意思が、遺産分割の結果に反映されないこととなります。
そこで新民法は、婚姻期間が20年以上である被相続人が、配偶者に「居住建物や敷地を遺贈・贈与」したときは、その部分は、配偶者のために「持戻し(再計算)を免除した」ものと推定することにしました(903条4項)。
これにより、「遺産の先渡しを受けたもの」として取り扱う必要がなくなり、贈与等がされた居住建物や敷地は遺産分割の対象から除外され、配偶者は、改正前民法時における以上の相続分が確保できるようになったわけです。
要 件
ただし、次の要件が必要です。
① 婚姻期間が20年以上の夫婦が「配偶者」に対して行うこと
② 対象は居住用不動産であること
投資用に購入した別荘を贈与してもダメで、免除の推定はされません。
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