|更新日 2023.2.25|公開日 2017.9.16
1|使用貸借の意味
友人同士で音楽CDやアニメの貸し借りをしたり、会社の部下にマーケティングに関する専門書を貸したり、知人から電気工具を借りたりなど、物の貸し借りは日常生活でよく経験することです。
意 味
使用貸借(契約)というのは、貸主が、ある物の引渡しを約し、借主がそれを無償で使用収益して、契約が終了したときに返還することを約することによって成立する契約です。
要するに、無料(タダ)で物の貸し借りをすることです。
ところで、他人の不動産の利用は、今日では、対価を支払って有償(有料)でなされる「賃貸借」がほとんどで、無償(無料)でなされる「使用貸借」は「例外的」なものです。無償なので、実際上は「貸主の厚意」に基づく貸借関係であり、借主は友人・知人・親族など「特別な人間関係」にある人たちです。
※ 試験の出題はすべて「建物」の使用貸借なので、これを中心にポイントを確認しておきましょう。
使用貸借の成立と受取り前の解除
改正前民法では、使用貸借は、借主が「借用物を受け取る」ことで成立する要物契約とされていましたが、新民法は合意だけで成立する諾成契約と改正しました。
合意だけで成立するので、契約が成立すれば、「借用物が引き渡される前」であっても法的拘束力が生じるため、この点で、借主は保護されることになります。
もっとも、軽率に合意してしまった貸主を保護する必要もあるので、借主が「借用物を受け取る前」であれば、貸主は契約を解除することができます。
ただし、書面で契約をしたような場合には、貸主も軽率に契約することは考えられないため、契約を解除することはできません。
2|使用貸借の効力
1 貸主の義務
引渡義務・担保責任
貸主は、契約内容に適合した目的物を借主に引き渡す義務があります。
この場合、貸主は、目的物を特定した時の状態で引き渡すことを約したものと「推定」されます。
この推定が借主によってくつがえされない限り「特定した時の状態」で引き渡せば、目的物に欠陥(建物に雨漏りがしているなど)があっても、負担付などの特段の事情がある場合を除いて、「貸主」が契約不適合責任を問われることはありません。
貸主は、借主の使用収益を妨げてはならない義務を負いますが、賃貸借と違って、修繕などをする義務(積極的義務)はありません。
2 借主の権利
1 使用収益権
借主は、契約または目的物の性質によって定まった用法に従い、目的物を使用収益することができます。
2 費用償還請求権
通常の必要費
通常の必要費は、貸主に対して償還請求できません。
たとえば、借りた建物の「固定資産税分の費用」を負担するというように、借主は、借用物の保管に通常必要な費用を負担しなければならないのです。無料で借りているので「通常の必要費くらいは借主が負担せよ」ということです。
特別の必要費・有益費
これに反し、特別の必要費(災害で破損した建物の修繕費など)とか、有益費(土地の改良費、トイレの水洗化費用など)を借主が支出したときは、所定の基準により費用の償還を請求できます。
この請求は、貸主が「返還を受けた時から」1年以内にする必要があります。
3 借主の義務
1 用法遵守義務
借主は、契約または目的物の性質によって定まった用法に従い、借用物を使用収益しなければなりません。
契約の趣旨に反する使用収益をした場合、たとえば「住居」として借りた部屋を「事務所」に使用したような場合には、用法遵守義務違反(債務不履行)として、貸主は直ちに契約を解除することができ、損害があれば損害賠償を請求できます。
2 善管注意義務
借主は、善良な管理者の注意(善管注意義務)をもって借用物を保管しなければなりません。無償だからといって、善管注意義務よりも軽い「自己の財産におけるのと同一の注意」では足らないのです。
3 無断での使用収益禁止
使用貸借は、貸主の厚意によって借主個人に貸したものなので、借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物を使用収益させることはできません。
借主がこの義務に違反した場合には、貸主は契約を解除できます。賃貸借におけるような「信頼関係破壊の法理」(双方の信頼関係を破壊するような無断使用収益なら解除できる)の適用はありません。
4 返還義務・付属物収去義務
使用貸借が終了したときは、借主は、借用物を「原状に復して」返還しなければなりません。そのため、借用物を受け取った後に付属させた物があるときは、その付属物を収去して貸主に返還する必要があります。
ただし、借用物から分離できない物、または分離に「過分の費用」を要する物については収去義務はなく、そのままの状態で返還してもよいとされます。
5 原状回復義務
また、借用物の受取後に生じた損傷があれば、使用貸借終了時に、その損傷を原状に復する義務を負います。ただし、損傷が借主の帰責事由によらない場合(台風で屋根の一部が損傷したなど)には、損傷の原状回復義務はなく、そのままの状態で借用物を返還することができます。
4 第三者に対する関係
貸主が、借用物を「第三者に賃貸」したり、所有権を「第三者に譲渡」して、第三者が「対抗要件」を取得したときは、借主は、使用貸借上の権利(使用借権)をその第三者に対抗することはできません。
というのも、使用借権は、貸主に対する債権にすぎないので、たとえ借主が「先に建物の引渡し」を受けていても、排他的権利である物権(所有権)を取得した買主には対抗できないのです。
3|使用貸借の終了
使用貸借は、以下の事由によって終了します。
1 法定の終了事由
以下の事由により、当然に終了します。
1 期間の満了
使用貸借の「期間を定めた」場合は、その期間が満了したとき
2 使用目的の終了
期間を定めず、使用収益の「目的を定めた」場合は、借主が目的に従い使用収益を終えたとき
3 借主の死亡
使用貸借は、当事者間の個人的な信頼関係に基づく契約なので、借主が死亡すれば、使用貸借も当然に終了します。「借主の相続人」が、残存期間について使用借権を主張することはできません。
一方、貸主が死亡しても、使用貸借は終了しません。「貸主の相続人」がその地位(借主に使用収益させる義務)を承継するので、期間満了までは、借主の権利は保護されることとなります。
2 契約の解除
以下の場合には、解除の意思表示により使用貸借を終了させることができます。
1 使用収益に足りる期間の経過
期間の定めをしなかったが、「使用収益の目的」を定めていた場合には、その「目的が達成されていなくても」使用収益をするのに足りる期間が経過したときは、貸主は、契約を解除して使用貸借を終了させることができます。
契約期間が不必要に長期にならないよう、貸主の権利を保護するためです。
2 貸主による解除
期間も目的も定めなかったときは、貸主は、いつでも解除できます。
3 借主による解除
借主は、いつでも解除できます。特別な理由は不要です。
3 請求権の期間制限
返還を受けた時から1年以内
契約の本旨に反する使用収益によって生じた損害賠償、および借主が支出した費用の償還は、貸主が「返還を受けた時から」1年以内に請求しなければなりません。
損害賠償請求権の「時効完成の猶予」
なお、損害賠償請求権については、貸主が「返還を受けた時から」1年を経過するまでの間は、時効の完成が猶予され、時効は完成しません。これは、長期間の「使用貸借中」に損害賠償事由が生じた場合、その時から10年が経過すれば、貸主の知らない間に消滅時効が完成して何も請求できなくなることから、貸主を保護するためです。
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