|更新日 2023.3.13|公開日 2017.07.06

1|詐 欺

 詐欺の意味と効果

意 味 詐欺というのは、相手方に「だまされて」契約をすることです。詐欺は、刑法上の詐欺罪などが成立しますが、民法としては、その「契約の効力」が問題となります。

効 果 取り消すことができる
 詐欺によってなされた意思表示・契約は、取り消すことができます。だまされていても、「買うという意思」で「買うと表示している」ので、「意思と表示に不一致はない」のですが、自由な意思形成が侵害されているために「正常な意思表示とはいえない」からです。
 取り消された契約は「はじめから無効であったものとみなされます(121条)

 第三者に対する関係

 善意無過失の第三者には対抗できない  相手方Bが第三者に売却後、AがBの詐欺を理由に契約を取り消せば、契約ははじめから無効とみなされるため、Bははじめから無権利者だったこととなり、その権利を譲り受けた善意無過失の(事情を知らない)第三者も権利を取得できなくなります。これでは、取引の安全を害します
詐欺による取消し
 そこで民法は、詐欺を理由に意思表示を取り消しても、その取消しは「善意無過失の第三者に対抗することができない」として取引の安全を図っているのです(96条3項)。この第三者は「取り消される前」に登場した第三者でなければなりません。

注 意  第三者の意味
 ここでの「第三者」は、詐欺による契約を「前提として新たな利害関係に立った者」をいいます。詐欺による契約が取り消された後に登場した第三者は、「第三者」には該当しません。取り消されれば、その契約はいわば、もう存在しないわけですから、取消し後の第三者は、前提として取引関係には立ってはいないのです。
 この点は、後述する登記との関係で問題となるところですから、十分注意しておきましょう。
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詐欺を理由に契約を取り消しても、この取消しは、善意無過失の第三者には対抗できないよ。

 「第三者の詐欺」の意味と効果

意 味 第三者の詐欺というのは、契約の当事者である相手方ではなく、第三者にだまされて契約をすることです。たとえば、表意者Aが第三者にだまされて、自分の土地を相手方Bに売ったという場合です。

効 果
 相手方が悪意または過失があれば、取り消せる  この場合、Aは、相手方Bが、①第三者による詐欺の事実を知っている悪意のときか、または、②知ることができた(知らないことについて過失がある)ときに限って、意思表示を取り消すことができます。
 契約の相手方が詐欺をしているわけではないので、取消しは、相手方が悪意または過失ある場合に限られるのです。
第三者による詐欺

2|強 迫

 強迫の意味と効果

意 味 強迫というのは、相手方に「おどされて」契約をすることです。たとえば、生命や身体・名誉などを傷つけるとおどされ、恐怖を生じて契約の締結を強制されることです。強迫も、刑法上の脅迫罪等が成立しますが、民法としては「契約の効力」が問題となるわけです。

効 果 取り消すことができる
 強迫によってなされた意思表示は、取り消すことができます。強迫による意思表示も、詐欺と同様に「意思と表示に不一致はない」のですが、自由な意思形成が侵害されているために「正常な意思表示とはいえない」からです。

 第三者に対する関係

 善意無過失の第三者にも対抗できる  強迫を理由とする取消しは、善意無過失の第三者にも対抗することができます強迫された表意者に責められるべき事由はないので、たとえ第三者が善意無過失であっても、表意者を優先して保護しているのです。表意者に「多少とも落ち度がある」詐欺とは、異なる扱いをしています。

 「第三者の強迫」の意味と効果

意 味 契約当事者の相手方ではなく、第三者に強迫されて意思表示をすることです。
効 果
 相手方の善意・悪意に関係なく取り消すことができる  第三者に強迫された表意者は、相手方の善意・悪意に関係なく、強迫を理由として意思表示を取り消すことができます。相手方が悪意のときはもちろん、たとえ善意無過失であっても、表意者はその意思表示を取り消すことができるのです。通常の強迫と同じく、強迫された表意者に非難すべき事由はないからです。



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