|更新日 2023.3.10|公開日 2017.07.04

虚偽表示

 虚偽の契約に効力なし  ふつう、私たちは「うその契約」なんてしませんね。相手方と示し合わせて売買契約をでっち上げる、なんてことします? とくに不動産取引で。
 虚偽表示というのは、相手方と相談して「虚偽契約・架空契約」をでっち上げることです。土地・建物などの不動産取引で「うその契約」をするときは、必然的に私文書・公文書等を偽造・変造することとなり、これは「悪質な犯罪」です。とんでもない連中です。

意 味 うその契約をでっち上げる
 虚偽表示というのは、「相手方と相談」してうその契約をでっち上げることをいいます。債権者からの差押えを免れるために、あるいは税金をごまかすために、「売買の意思がないのに、自分の土地・建物を友人に売却したことにする」というような行為です。

 先述した心裡留保は「本人1人がうそをついて」契約をするのですが、虚偽表示は「当事者双方がうそをついて」契約をするわけです。

 虚偽表示は、「表示」(売るという表示)に対応する「意思」(売る意思)が欠けている「意思と表示が一致しない意思表示」です。こういう契約は有効なのでしょうか。

  試験では「虚偽表示」という用語ではなく、「移転する意思がないのに通謀して」「意を通じた仮装のもの」「仮装譲渡」「虚偽の意思表示」などと書いてあります。こうした記述があれば、ズバリ「虚偽表示」のことです。

 虚偽表示の効果

 虚偽表示によってなされた契約は、はたして有効なのでしょうか。当事者と第三者に分けて確認しましょう。

 効 果 
 当事者間での効果
 虚偽表示は無効である  民法は「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする」としています(94条1項)。虚偽表示は「当事者間」では無効です。「うその契約」を有効とする理由はありません。

注 意  無効とはどういうことか?  
 無効というのは、成立した契約の効力は生じない・法的強制力はないということです。A・Bが虚偽表示によって土地の売買契約をしても無効なので、土地の所有権はBに移転しないで「はじめからAにあった」ということであり、したがってAは土地を引き渡す義務はなく、Bも代金を支払う義務はありません。
 たとえ所有権登記をBに移転していても、その登記は実体を伴わない無効の登記であって、Aは売買契約の無効を主張して、登記の抹消を請求することができます。

 第三者に対する効果
 善意の第三者には無効を対抗できない  ところが、Bが自分に登記があることをいいことに、その土地を第三者Cに売ってしまった場合、Aは「虚偽表示による無効」を主張してCから土地を取り返すことができるでしょうか(ちなみに、Bには刑法上の横領罪などの犯罪が成立します)。

虚偽表示と第三者

 この点について、民法は「虚偽表示による無効は、善意の第三者に対抗することができない」として、善意の第三者を保護しています(94条2項)。仮装譲渡人Aは、善意のCに無効を主張できないため、土地を取り返すことはできません。

重 要 「対抗できない」とは?
 「善意の第三者に対抗できない」という意味は、Aとの通謀によってBが所有者になっていることを「知らない」善意の第三者Cとの関係では、AB間の仮装売買は「有効なものとして扱う」、つまり所有権は、A→B→Cに「有効に移転」しており、Cは「完全に所有権を取得する」ということです。
 善意の第三者Cに対しては、Aは「AB間の契約は虚偽表示により無効だから、土地の所有権はBに移転しておらず、所有権は私にある」ということを主張できないのです。たとえ登記がCに移転していなくても、AもBも、Cに登記がないことを理由に土地の返還を求めることはできません(最判昭44.5.27)
 こうして「善意の第三者に対しては無効の主張を制限した」のです。いうまでもなく、善意の第三者を保護して取引の安全を図るためです。Cは、Bが真実の権利者(所有者)だと信じて取引しているのですから、この信頼を保護しなければ、安全で迅速な取引は実現できません。
 もちろん、AB間では、虚偽表示が無効であることに変わりはないので、AはBに対して虚偽表示の無効を主張して土地の返還を求めることができます。しかし、善意の第三者Cが完全に所有権を取得しているため、結局、返還できないことによる損害賠償をBに請求することになるのです。心裡留保と同様、AもBも自業自得というわけです。

注 意 善意の第三者は厚く保護
 ① 過失があっても保護される  善意の第三者は、仮装譲渡であることを「過失によって知らなかった」としても保護されます。無過失であることを要しません。
 もともと民法では、善意の第三者を保護するには、第三者に過失がないこと(無過失)を必要とするのが原則ですが、虚偽表示の場合は、当事者が積極的に虚偽の法律関係を作り出しているので、その責任は重く、したがって第三者にはそれほど厳しい条件を要求しないで、善意でありさえすれば「過失があっても保護されるべき」とされているのです。
 ② 登記がなくても保護される  善意の第三者が保護されるために、登記は不要です。Cとの関係では、AB間の契約は有効として扱うということなので、所有権は、A→B→Cに「有効に移転」しており、その結果、A・Bは「完全な無権利者」になります。Cは、前主Bから所有権を取得するので、そもそも登記自体、必要ありません。
 したがって、Bにまだ登記が残っていて、Aがその登記を回復した後でも、CはAに対して登記の移転を請求することができます。

 第三者の範囲

 新たに利害関係に立った第三者  「虚偽表示の無効は、善意の第三者に対抗できない」のですが、ここでいう「第三者」は仮装売買などの「虚偽表示を前提として」新たに利害関係に立った者をいいます。仮装譲受人からの「譲受人」、仮装譲受人に対する「抵当権者」、仮装債権の「譲受人」などです。
 いうまでもなく、虚偽表示をした当事者本人やその承継人(当事者の相続人)は、当事者であって「第三者」ではありません。

注 意
 ① 当事者に対しては、第三者が無効を主張してもよく、たとえば、仮装譲渡人Aの債権者は、仮装譲受人Bのもとにある不動産を差し押さえることができます。
 ② 善意の第三者に対しては、他の第三者も無効を主張できません。善意の第三者に対しては、仮装譲渡人Aの債権者も無効を主張できないのです。
 ③ 善意・悪意の時期は、取引当時を基準とします。この時に善意であれば、あとで虚偽表示の事実を知って悪意になっても、善意であることに変わりはありません。

 転得者

 第三者に含まれる  第三者Cからの転得者も「第三者」に含まれます。転得者は善意であれば、直接の第三者と同じように保護されます。前主Cが悪意であっても関係ありません。
虚偽表示における転得者
 また、転得者は悪意であっても、前主Cが善意であれば、この時点でCは確定的に所有権者になっているので善意者の地位を承継した転得者は、「真の権利者」から所有権を取得したこととなり、したがって、Aに対する関係でも「完全な所有権者」となります。Aは、第三者・転得者ともに悪意のときに限り、虚偽表示の無効を主張できるのです。



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