|更新日 2023.3.15|公開日 2017.07.21
1|停止条件
売買や賃貸借などの契約が成立すると、その効力(法的拘束力)は、通常は直ちに生じます。しかし、契約をする際に「条件をつける」ことがよくあります。
「3年以内に海外転勤が決まったら、家と土地を売ってもいいよ(売買)」「志望校に合格したら、海外旅行をプレゼントするよ(贈与)」というような場合です。「転勤が決まったら」「合格したら」というのが条件です。
1 条件の意味と種類
意 味 条件というのは、将来、実現するかどうか不確実な事実をいいます。「転勤」とか「合格」とかは、実現するかどうか「不確実」ですよね。
契約の効力が、不確実な事実の成否にかかっているときに「条件」というわけです。
種 類 停止条件と解除条件
2 停止条件の意味
意 味 効力発生を停止する条件
停止条件というのは、条件とした事実が実現・成就するまで、契約の効力発生を「停止」しておく条件をいいます。
不動産会社が社員全員に「今年宅建士試験に合格したら、祝い金として20万円を支給する」と約束したとします。これは「20万円あげるよ」という贈与契約で、すでに「契約は成立」したのですが、その効力が生じるためには、「合格する」という条件が実現しなければなりません。これを「条件が実現するまでは契約の効力を停止しておく」という意味で、停止条件というわけです。
3 条件成就の効果
遡及しない(不遡及) 停止条件つきの法律行為は「条件が成就した時」から効力を生じます。「将来に向けて効力が生じる」のであって、「法律行為が成立した時」に「さかのぼる」のではありません。ただし合意によって、条件成就の効果を「条件成就以前にさかのぼらせる」ことができます。
4 条件成就が未定の間の期待権の保護
条件の成否が未定の場合、つまり、まだ条件が実現していない段階でも、当事者の一方が、条件成就について利益を有する場合があります。この利益は法的保護に値する利益とされ、期待権といわれます。
「結婚したら新居を贈与される」という約束をした人は、「結婚が実現したら新居がプレゼントされる(新居の所有権を取得できる)」という期待をもっているわけです。
そこで民法は、この期待権を保護するために、次のように対応しています。
利益侵害の禁止
条件成就についての相手方の利益を、一方当事者は侵害することはできません。期待権といっても、れっきとした条件付権利なので、相手方がこの期待権を侵害した場合、たとえば、贈与者がその新居を第三者に売却したときは、権利侵害(期待権侵害)による不法行為として損害賠償責任が生じます。
権利の処分等
期待権であっても「独立した財産権」としての扱いを受けます。一般の権利と同様に、期待権を処分したり、相続することができるわけです。
A所有地について、A・Bが停止条件付売買契約をした後、「条件の成否未定の間」に買主Bが死亡すれば、Bの相続人は「停止条件付売買契約の買主としての地位」を承継(相続)します。
5 故意による条件成就の妨害
条件成就の妨害
条件が成就したものとみなされる 条件が成就することによって不利益を受ける当事者が、故意に、その「条件の成就を妨害した」ときは、相手方は「条件が成就した」とみなすことができます。
たとえば、Aが、土地購入の仲介を不動産業者Bに依頼し、Bの「仲介」で売買が成立したら報酬を支払うと約束したところ、Aが、Bが探してきた相手方と「直接」に談判して売買を成立させた場合には、Bは、Aによる条件成就の妨害があったとして、「条件が成就した」ものとみなし、Aに報酬を請求することができます。
条件成就の誘導
条件は成就しなかったものとみなされる 「条件成就の妨害」とは反対に、条件が成就することによって利益を受ける当事者が、不正に、その「条件を成就させた」ときは、相手方は、その「条件が成就しなかった」とみなすことができます。
⇒ 条件成就とみなされる
・不正に成就
⇒ 条件不成就とみなされる
利益を受ける当事者が「不正に条件を成就させた」ときは、相手方はその条件が「成就しなかったものとみなすことができる」という判例が、明文化されたよ。
2|解除条件
意 味 解除条件は、条件の成就によって契約の効力を消滅させるものです。
不動産会社が、宅建士試験の受験勉強をする社員たちに、毎月奨学金として3万円を給付している場合に、「今年不合格になれば、奨学金を打ち切る(贈与をやめる)」という条件を出せば、「不合格になれば」というのが解除条件となります。
「不合格」という条件が成就することによって、すでに発生している法律効果(毎月3万円の贈与を受ける権利)を消滅させるもので、それまで存続していた「効力が解除される」という意味です。
効 果 解除条件付きの法律行為は、「条件が成就した時」から効力を失います。
3|期 限
債務不履行に関連する「確定期限」や「不確定期限」、相殺・弁済に関連する「期限の利益の放棄」など、期限を理解しておかないと試験問題に正解できないことがあります。
ここで、しっかり確認しておきましょう。
意 味 期限というのは、将来、発生・到来することが確実な事実をいいます。「亡くなる」は、将来到来することが「確実」ですね。その時期がわからない・不確定というだけです。
条件は「成就するかどうかが不確実な事実」であるのに対し、期限は「到来することが確実な事実」である、という点が根本的な相違です。
期限と条件は「表現上」はよく似ています。「A商社に就職できたら……」「B社長が亡くなったら……」というように。「就職できたら」は条件で、「亡くなったら」は期限です。
1 確定期限と不確定期限
期限には「確定期限」と「不確定期限」があります。「来年の4月1日」のように、到来する「時期が確定」できるものを確定期限、「自分が死んだ時」のように、到来することは確実だが「その時期が不確定」なものを不確定期限といいます。
これらの「期限が到来した時」に、債務不履行(履行遅滞)や消滅時効の進行などの問題を生じる点で重要です。
2 期限の利益の意味
意 味 期限の利益は債務者にあり
期限の利益というのは、期限があることによって、その間に当事者が受ける利益をいいます。期限の利益は、債務者にあるものと「推定」されます。契約について期限が設定されているときは、債務者としては「期限まで債務の履行を先延ばしすることができる」という点に「利益」があるわけです。
たとえば、借金の「返済期限が4月末日」という場合、債務者である借主は、「4月末日」という期限が到来するまでは「返済しなくてよい」という利益を有しています。
同じように「令和5年12月末日まで建物を借りる」という場合、債務者である借主は、その期限到来までは「建物を返還しなくてよい」という利益を有しています。
このように「期限の利益は債務者のためにある」とされています。
3 期限の利益の放棄
原 則 放棄できる
期限の利益を有している当事者は、これを放棄することができます。債務者は、「4月末日」までは返さなくてもいいという期限の利益を放棄して、「3月末日」に返済することができるわけです。
ただし、期限の利益が「相手方にも存在する」場合には、放棄によって相手方の利益を害することはできません。たとえば、期限までの利息が定められている貸金債権の貸主には、満期(期限末)までの利息を取得できるという利益があるので、借主が期限の利益を放棄して「期限到来前」に弁済するときは、満期までの利息相当額(損害)を支払う必要があります。
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