|更新日 2023.3.14|公開日 2017.07.07

1|代理制度

 契約をするのは本人でなくてもいい  契約は、普通は自分でしますよね。「本人」が自分で契約して、土地やマンションを買ったり借りたりします。ところが代理では、本人に代わって、他人である「代理人」が買ったり借りたりする契約をして、その結果、「本人」が所有権や賃借権を取得します。
 代理は、「本人」が自分で契約をしないで「代理人」に契約させて、その「契約の効果」を取得するという制度です。

 代理制度の必要性

 私的自治の拡張と補充  代理制度が確立された理由は、主に2つあります。

 人の活動範囲を拡張する
 現代のように取引関係が複雑・高度になり規模が拡大してくると、1人ですべてを処理するには限界があります。信頼できる人を代理人として選び、専門知識・経験を有する代理人が代わって契約をして、その結果「本人が権利義務を取得する」というシステムがあれば、活動範囲は飛躍的に拡張します。
 任意代理人がこの機能を果たします。

 人の活動を補充する
 意思能力が不十分な制限行為能力者が安全に社会生活を営んでいくためには、親権者や成年後見人が代理人となって代わって契約をして、その結果「本人が権利義務を取得する」という仕組みを必要とします。
 法定代理人がこの機能を果たします。

 代理による契約のシステム

 この流れを理解すれば代理はやさしい  代理では、代理人が契約をして、その契約の効果は、すべて直接に本人に帰属します。たとえば代理人が、本人を買主とする建物の売買契約を売主である相手方と締結すれば、売買契約は本人・相手方間で成立します。
 その結果、本人が、建物の所有権・引渡請求権を取得し、代金の支払債務を負担します。相手方は、本人に対して代金支払いを請求し、建物の引渡義務を負担するのです。これが代理のシステムです。
代理の仕組み

2|代理通則

 代理権の意味

意 味 権利義務を生じさせる地位
 代理の本質は、代理人の行為によって「直接に本人に権利義務を生じさせる地位」にあります。代理人のこの地位を代理権といいます。代理と呼ばれますが、純粋な意味の「権利」ではなく、「権利能力」と同じように地位・資格という意味です。

 代理が認められる行為

 意思表示・契約に限る
 代理は、代理人が意思表示をする制度なので意思表示に限って認められます。意思表示ではない「事実行為」や「不法行為」に代理は認められません。ただし、意思表示であっても、婚姻・縁組・認知・遺言など「身分上の行為」にも代理は許されません(代理に親しまない行為)。代理は、代理人自身が自らの判断で意思決定をするものなので、絶対に本人の意思決定を必要とする「身分上の行為」に代理は許されないのです。
 結婚相手を代理人が決めていいなら、世の中どうなります?

 代理権の発生原因

 代理権は次の2パターンによって生じます。

 法定代理 法律の規定で発生
 代理人を置くことが法律で定められている場合です。たとえば、未成年者は父母の親権に服しますが、「民法824条」によって親権者には「代理権」が与えられています。

 任意代理 委任契約により発生
 任意代理は、本人の意思に基づいて、通常は本人と代理人となる者との委任契約によって「代理権」が与えられます。慣例上、本人から代理人に「委任状」が渡されますが、「特別な要式」は必要ではなく、口頭でもかまいません。

 代理権の範囲

 法定代理権 法定されている
 代理権の範囲は法定されています。親権者は「子のために必要な一切の財産管理行為」をする権限を有するとされており、これは「民法824条以下の規定」で法定されています。

 任意代理権 当事者の契約で決まる
 通常は、本人・代理人間の委任契約によって決まります。判例に現れた事例は次の通りです。
 ① 売買契約を締結するための代理権には「登記をする権限」が含まれ、売買不成立の場合に「手付金・内金の返還を受ける権限」が含まれます。
 また、特段の事情がない限り、相手方からその売買契約の「取消しの意思表示を受ける権限」も有します。
 ② 代金取立のための代理権には、売買契約を「合意解除する権限」は含まれません。

 任意代理権の範囲が不明のとき
 3つの管理行為ができる  代理権があることは明らかだが、その範囲が不明な場合や、特に定めなかった場合には、最小限度の権限として、次の3つの「管理行為」だけをすることができます。

 ① 保存行為 現状を維持する
 「家屋を修繕する」「期限の到来した債務を弁済する」などです。保存行為は物や権利の現状を維持する行為なので、代理人が無制限にすることができます。
 ② 利用行為 収益を図る
 「家屋を賃貸して賃料をとる」「金銭を利息付で貸し付ける」などです。「物や権利の性質を変えない範囲」に限ってできます。
 ③ 改良行為 価値を増加させる
 家屋に造作や電気・ガス・水道などの設備を施す」「無利息の貸金を利息付に改める」などです。これも「物や権利の性質を変えない範囲」に限ってできます。
 預金を株式にしたり(利用行為)、田地を宅地にするような改良行為は、物や権利の性質が変わるため、「本人の利益」となる場合でも、することはできません。また、売買などの「処分行為」も認められません。

 顕 名

意 味 A代理人B
 顕名(けんめい)というのは、代理行為であることを明示することです。代理行為をするときに、「本人のためにする」ことを相手方に明示する、つまり「代理人との契約の効果が本人に帰属することを示す」ことです。通常は「A代理人B」のように表示されます。

 顕名のない代理行為
原 則 代理は成立しない
 代理人が顕名しなかったときは、その行為は、代理人が「自分のためにしたものとみなされ」て、代理行為は成立しません。顕名がないときは、相手方は「代理人こそが契約の当事者」と考えるのが通常であり、これを信じた相手方を保護する必要があるからです。

例 外 代理が成立する場合もある
 ただし、顕名がされなかったときでも、次の場合は代理が成立し、本人に効力が生じます。つまり、相手方が、代理人の意思表示が「本人のために」なされていることを、
 ① 知っている(悪意)か、または、
 ② 注意すれば知ることができた(善意だが過失がある)ときです。
 これらの場合は、代理を認めても問題はないからです。

 代理人の行為能力

原 則 制限行為能力者でもよい
 未成年者や被保佐人などの「制限行為能力者」も代理人となることができます。制限行為能力者がした代理行為は、制限行為能力を理由としては取り消すことはできません

 これは、代理行為の効果はすべて本人に帰属するのであって、代理人はその効果を一切受けないため(契約による義務を負担しない)、制限行為能力者が代理をしても不利益を受けることはなく、したがって制限行為能力制度によって保護する必要がないからです。

 本人も、制限行為能力者であることを承知で代理人にしており、制限行為能力者が「判断を誤って」代理行為をしても、そのリスク・危険は選任した本人が負担するだけのことです。制限行為能力者が、単独で行った「代理行為」も完全に有効であり、制限行為能力を理由にその行為を取り消すことはできないのです。

パトモス先生講義中

未成年者が代理人としてした行為は、制限行為能力を理由として取り消すことはできないからね。

 例 外 取消しできる場合がある
 ただし、制限行為能力者Aが「他の制限行為能力者B」の法定代理人として行った行為については、Aの制限行為能力を理由に取り消すことができます。
 たとえば、17歳の未成年者Bの父親Aが「成年被後見人」である場合に、父親Aが、未成年者Bの「法定代理人」としてした行為については、取り消すことができるわけです。制限行為能力者本人(未成年者B)が、制限行為能力者(父親A)の代理によって不利益を受けないようにするためです。

 代理行為(意思表示)の瑕疵

 代理人がだまされたら?  代理では、実際に意思表示をするのは代理人なので、心裡留保や虚偽表示があったかどうか、錯誤や詐欺・強迫があったかどうか、善意か悪意か、過失があったかどうかなどの「代理行為(意思表示)の瑕疵・欠陥」は、すべて代理人について判断されます。
 代理人が相手方と通謀して虚偽表示をすれば無効ですし、また代理人に錯誤があったり、詐欺や強迫を受ければ取り消すことができます。

 代理の効果は、直接本人に帰属するため
 ① 心裡留保・虚偽表示による無効は、本人が主張できるし、
 ② 代理人の錯誤や相手方の詐欺等による意思表示の取消権は、本人が取得します。
 代理人がこれらを行使できるかどうかは「代理権の範囲」の問題です。
 なお「特定の代理行為」が本人の指図によってなされた場合、本人は自分が知っていた事情や過失によって知らなかった事情について、代理人の不知や無過失を主張することができません。

注 意  代理人が詐欺をしたら?
 一方、代理人が、相手方に対して詐欺や強迫を行った場合は、それによって意思表示をするのは相手方なので、相手方は、代理人の詐欺・強迫を理由に意思表示を取り消すことができます。
 また、代理人が代理行為をするについて不法行為をしても、その損害賠償責任は代理人自身について生じ、本人には生じません。不法行為はそもそも意思表示ではなく、不法行為責任は意思表示の効果ではないからです。ただ、本人は、代理人を使用する者として「使用者としての責任」を負うことがあります(不法行為における使用者責任)。

3|復代理

意 味 別人を代理人に選ぶ
 復代理というのは、代理人が「自分の権限内」の行為を行わせるため、別人を選任して「本人の代理人」とすることです。
 代理人によって選任された代理人を復代理人といいます。復代理人は代理人の代理人ではなく本人の代理人なので本人の名で代理行為をし、その効果は本人に帰属します。

 復任権

 復代理人を選任する権限を復任権といい、その範囲は任意代理と法定代理とで異なります。なお、復代理人を選任しても、もとの代理人が代理権を失うものではありません。

 任意代理人の復任権
原 則 復任権はない
 原則として、任意代理人に復任権はありません。任意代理人は、本人の信任に基づいて選任されているので、他人任せにしないで自分で処理すべき自己執行義務があるからです。
 本人からすれば、代理人として最適な「Aを信頼して選任した」のですから、勝手にBを復代理人として選任されては困りますね(利益を害されるおそれがある)。
例 外 2つの例外あり
 ただし、次の場合には選任することができます。
 ① 本人の許諾を得たとき、または
 ② やむを得ない事由があるとき  これは、緊急の事情があって本人の承諾を得る時間もない場合に、代理行為に支障を生じさせないためです。

 法定代理人の復任権
 自由に選任できる  法定代理人は自らの意思で代理人になったわけではないのでいつでも自由に復代理人を選任することができます。本人の許可や特別の事情は必要ありません。

 復代理人の権限

 復代理人は、本人・相手方に対して、代理人の権限の範囲内において、代理人と同一の権利を有し義務を負います。つまり、復代理人は「代理人に対して」委任契約上の義務(相手方から受領した物の引渡義務など)を負うと同時に、「本人に対して」も同一の義務を負担します。

 復代理の効果

効 果 本人に帰属する
 復代理人は本人の代理人なので、復代理人がした代理行為の効果は、直接に本人に帰属します。

 復代理人を選任した代理人の責任

 任意代理人の責任
 債務不履行責任を負う  復代理人が不注意な代理行為をして本人に不利益が生じたときは、代理人は、本人に対して、本人・代理人間の委任契約(事務処理契約)の違反として債務不履行の責任を負います。

 法定代理人の責任 
 「原則」として常に責任  法定代理人は、復代理人の選任・監督に過失があろうとなかろうと、復代理人が本人に損害を与えたときは、常に責任を負います。ただし、やむを得ない事由(病気など)により選任したときは、「例外的」に選任・監督についての責任のみを負います。

4|自己契約・双方代理・権利の濫用

 これらは、代理権の制限に関する事由です。

 自己契約・双方代理

意 味 本人の利益を害する危険
 自己契約というのは、代理人自身が契約の「相手方」となることです。
 たとえば、Aから家屋の売却について代理権を与えられた代理人Bが、同時に家屋売却の買主となるような場合です。代理人が自己のために格安で家屋を買うおそれがあり、本人の利益を害する危険があります。
 また、双方代理というのは、同一人が本人と相手方双方の代理人となることです。売主Aの代理人Bが、同時に買主Cの代理人になって、AC間の売買契約をするような場合です。これも、当事者の利益を害する危険があります。

効 果 無権代理行為とみなされる
 自己契約または双方代理は「代理権を有しない者がした行為」、つまり無権代理行為とみなされ、無権代理に関する規定(113条以下)が適用されます。したがって、当然には本人に対して効力は生じませんが、本人が追認すれば、「完全な代理行為」となります。【無権代理の詳細は後述】

例 外 2つの例外あり
 債務の履行と本人許諾行為  ただし、①債務の履行と、②本人があらかじめ許諾した行為は、自己契約・双方代理にあたるものであっても、代理行為として「本人」に対して効果が帰属します。
 たとえば、「弁済期の到来した代金の支払い」「売買に基づく移転登記申請」などの債務の履行です。これらは、すでに確定している法律関係の決済にすぎず、本人の利益を害することはないからです。判例は「所有権移転に伴う移転登記手続」について、登記権利者・登記義務者双方の代理を認めています(最判昭43.3.8)
 ただし、「弁済期未到来の債務」「時効にかかった債務」「争いある債務」などの履行は、新たな利害関係を伴うので、債務の履行には該当しません。

 利益相反行為

意 味 利益相反行為というのは、本人と代理人の利益が相反する行為のことで、つまりは「本人に不利益を与えるおそれ」が多い行為をいいます。
効 果 無権代理行為とみなされる
 利益相反行為も「代理権を有しない者がした行為」、つまり無権代理行為とみなされ、無権代理に関する規定が適用されます。
例 外 本人が許諾しているとき
 ただし、本人があらかじめ許諾していれば、利益相反行為も有効な代理行為とされます。
判断基準 外形的に判断
 利益相反行為かどうかは、判例によると、代理行為の外形に照らして外形的・客観的に判断すべきであって、代理人の動機・意図をもって判断すべきではないとしています(最判昭42.4.18)
 たとえば、相手方が事前に行為の外形から客観的に判断して、「代理人に利益であり、本人に不利益となる関係にある」とわかる代理行為がこれに該当します。

 代理権の濫用

意 味 代理権の濫用というのは、代理人が、本人のためではなく「自己または第三者の利益を図る目的」で「代理権の範囲内の行為」をすることをいいます。代理人として行為しながら、相手方から受領した金銭を「横領」したような場合です。
効 果 悪意・有過失は無権代理行為
 代理権の濫用がされた場合でも、代理人は、代理権の範囲内で行為をしているので、相手方との関係では、その効果は本人に及びます。
 ただし、「自己または第三者の利益を図る目的」を相手方が知り(悪意)、または、知ることができた(過失)ときは、その行為は「代理権を有しない者がした行為」、つまり無権代理行為とみなされます。したがって、無権代理に関する規定が適用され、本人が追認すれば本人に対して効力を生じ、また「相手方」は催告権・取消権を行使することができ、濫用した「代理人」は履行責任または損害賠償責任を負うこととなります。
 「無権代理行為とみなす」ことで、本人に追認の余地を与え、代理権濫用から生じた危険について相手方の利害と調整したわけです。

パトモス先生講義中

代理権濫用が行われた場合、相手方が代理人の意図を知っているか、知ることができたときには、無権代理行為になるから、本人には効果は及ばないし、無権代理人が責任を負うこととなるんだよ。

無権代理行為とみなされる3つの行為

1 自己契約・双方代理
2 利益相反行為
3 代理権の濫用

5|代理権の消滅

 任意代理・法定代理の消滅原因

 代理権の消滅原因は、①本人または代理人が、死亡したときか、破産手続開始の決定を受けたとき、また、②代理人が後見開始の審判を受けたときです。

 本人の場合
 ① 死 亡  本人が死亡すれば、代理権は消滅します。「本人の相続人」の代理人となるのではありません。ただし「特段の合意」があった場合は、代理権は存続します。
 判例は、預金通帳等を交付して、入院費の支払い・葬儀の施行など、自己の死後の事務処理を委託した契約について、「死後も代理権を終了させない旨の合意を含む」としています(最判平4.9.22)
 ② 破産手続開始の決定を受けた  本人に財産管理能力がなくなったので、そのまま代理人を通じて自由に代理行為をさせることは適切ではないからです。

 代理人の場合
 ① 死 亡  代理人が死亡したときも、代理権は消滅します。「代理人の相続人」が代理人となるのではありません。代理権は相続されないのです。
 ② 破産手続開始の決定を受けた
 財産管理能力がなくなった  代理人が「破産手続開始の決定」を受けたときは、財産管理能力がなくなったため、代理人として不適格だからです。
 ③ 後見開始の審判を受けた
 判断能力を欠く常況になった  すでに代理人となっている者が、その後「後見開始の審判」を受けたときは、判断能力を欠く常況(成年被後見人)となったため、代理人として不適格だからです。

代理権の消滅事由

1 本人または代理人
・死 亡 ・破産手続開始決定
2 さらに代理人
・後見開始の審判

 復代理の消滅原因

 復代理に特有の消滅原因としては、①代理人・復代理人間の授権関係の消滅、②代理人の代理権の消滅があります。



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