|更新日 2023.2.25|公開日 2017.7.18

1|賃貸借の意味・性質・存続期間

意 味 賃料を払って家や土地を借りる
 賃貸借契約というのは、家賃を払ってマンションや事務所を借りる土地代を払って店舗運営のために土地を借りるというように、他人の土地・建物を借りて使用収益し、その対価として賃料(地代や家賃)を支払い、契約が終われば賃借物を返還するという契約です。賃貸マンションに入居している人は、イメージしやすいのではないでしょうか。

性 質 有償・諾成双務契約
 当事者の合意で成立する「諾成契約」ですが、賃料(対価)を支払って借りる、つまり有償契約という点が、無償(無料・ただ)で借りる「使用貸借」と根本的に違います。

存続期間 50年を超えられない 
 賃貸借の存続期間は、50年を超えることができません。契約でこれより長い期間を定めても、50年とされます。
 存続期間は更新できますが、更新の時から、やはり50年を超えることはできません。最長で50年ですから相当長いですね。改正前は「20年」でしたからね。

 これは、太陽光パネル設置のための土地賃借権などに配慮して、存続期間の長期化が図られたり、建物では耐震・防火などの建築技術が発達して耐用年数が飛躍的に伸びたという事情があるのです。

ワンポイント  借地借家法との関係
 建物の賃貸借をしたり、「建物の所有目的」で土地の賃貸借をする場合には、借地借家法が民法に優先して適用されます。
 これは、土地・建物の賃貸借の場合、弱い立場に立たされる(家賃の値上げが嫌なら出て行ってくれ、みたいに生活や経済活動の基盤を失うおそれがある)借主の保護としては、民法では不十分なので(民法は、貸主・借主を「対等の立場」にあるものと想定して契約自由の原則に委ねている)、特別法の借地借家法により、借主をより強く保護しているわけです。
 ただ、借主保護とは関係のない事項は依然として民法の規定が適用されます。
  民法で定める賃貸借 ← 原則規定
  借地借家法の賃貸借 ← 借主保護のための特別規定

2|賃貸人の義務

 賃貸借では、賃貸人(貸主)と賃借人(借主)双方に契約上の義務がありますが、まず、賃貸人の義務から確認しておきましょう。
 賃貸人の主な義務は、3つあります。
 ① 使用収益させる義務
 ② 修繕義務
 ③ 費用償還義務
 以下、確認しておきましょう。

 使用収益させる義務|基本的な義務

 賃貸人は、賃借人に対して賃借物を使用収益させる義務を負います。これこそが、賃貸人の「基本的な義務」です。この義務に基づいて、賃貸人は賃借物を「引き渡すべき義務」を負い、使用収益に必要な「修繕義務」を負い、また第三者が賃借物の使用収益を妨害するときは、その「妨害を排除すべき義務」を負う、などの義務が生じます。

 修繕義務

 賃貸人の修繕義務
 賃貸人は、賃借人に対して賃借物を使用収益させる義務があるので、使用収益に障害が生じれば必要な修繕をする義務を負います。したがって、たとえば、建物が老朽化してきたため、賃貸人が保存に必要な修繕をする場合には、修繕工事のため使用収益に支障が生じても、賃借人は修繕行為を拒むことはできません。
 ただし、修繕が「賃借人の責めに帰すべき事由」によって必要となった場合、たとえば不注意(過失)で窓ガラスを壊したようなときは、賃貸人に修繕義務は生じません。賃借人に帰責事由があるのに、賃貸人に修繕義務を課すのは公平ではないからです。

 賃貸人が修繕義務を履行しない場合は、その程度に応じて、賃借人は賃料支払いを拒むことができますが、全額の支払拒絶はできません。

 なお、賃貸人が、賃借人の意思に反して「保存行為」をしようとする場合に、賃借人は、このために賃借の目的を達成することができなくなるときは「契約を解除」することができます。

 賃借人の修繕権限
 賃借物の「所有権」は賃貸人にあり、その修繕は、所有権に影響を及ぼすため、賃借人が無断で修繕することはできません。
 しかし、次の場合には、賃借人も修繕できるようになりました(607条の2)

 賃貸人が修繕しないとき
 「修繕が必要である旨」を、賃借人が賃貸人に通知し、または賃貸人がその旨を知ったのに、「賃貸人」が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
 この通知は「賃借物が修繕を要するときは……、賃借人は、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない」(615条)という賃借人の通知義務のことです。

 急迫の事情があるとき
 賃貸人による修繕をまっていたのでは、賃借物の損傷が拡大して使用収益ができなくなるおそれがあるからです。

パトモス先生講義中

賃借人も修繕できることが明文化されたよ。

 費用償還義務

 賃貸人は、賃借人が支出した必要費・有益費などの費用を償還しなければなりません。

 必要費|直ちに
 賃借人が支出した修繕費(故障したトイレの修理費など)のように、そもそも「賃貸人が負担すべき」必要費を賃借人が支出したときは、賃貸人に対し「賃貸借の終了前」でも、直ちに費用全額の償還(返還)を請求することができます。

 有益費|賃貸借終了時に
 借家の前の通路をコンクリート舗装するように、賃借人が、賃借物を改良するなどの有益費を支出したときは、賃貸借終了時に、賃借物の「価格の増加」が現存する場合に限り、賃貸人は、その「費用」か「増加額」のどちらかを償還しなければなりません。
 なお賃貸人の請求があれば、裁判所は、償還について「相当の期限を猶予」することができます。

 期間制限|返還時から1年以内
 賃借人が有する必要費・有益費などの費用償還請求権は、賃借物の返還時から1年以内に行使しなければなりません。

3|賃借人の義務

 賃借人の主な義務は、次のとおりです。
 ① 賃料支払義務
 ② 用法義務・保管義務
 ③ 原状回復義務
 ④ 付属物収去義務

 賃料支払義務|義務の核心

 賃借人は、使用収益の対価として賃料を支払わなければなりません。
 賃料支払義務は、賃借人の「義務の核心」をなすものです。なお支払時期は、特約がなければ、後払いです。

 一部滅失等による賃料減額と契約解除

 一部滅失による賃料の当然減額
 「賃借物の一部」が、滅失その他の事由により使用収益できなくなった場合、それが「賃借人の責めに帰することができない事由」(台風などによる損傷)によるものであるときは、賃料は「使用収益ができなくなった部分の割合に応じて」当然に減額されます。
 賃料は、使用収益の対価として日々発生しているので、一部が使用できなくなっ場合には、賃料も当然にその部分の割合に応じて発生しないと考えられるからです。

 一部滅失による契約解除
 一部滅失したために契約目的を達成できない  同様に、「賃借物の一部」が、滅失その他の事由によって使用収益できなくなった場合に、残存部分だけでは「賃借目的を達成できない」ときは、賃借人は契約を解除することができます。目的を達成できないのだから、賃借人に「帰責事由があるかどうか」に関係なく解除が認められます。

パトモス先生講義中

一部滅失による減額は、賃借人に帰責事由があれば認められないけれど、契約解除は、帰責事由があってもできるからね。

 用法義務・保管義務ほか

 用法遵守義務 
 賃借人は、契約や賃借物の性質によって定まった用法に従って、賃借物を使用収益しなければなりません。

 善管注意義務
 また、「賃借物を返還するまで」善良な管理者としての注意をもって賃借物を保管する義務を負います。

 無断譲渡等をしない義務
 賃貸借は、賃貸人と賃借人の相互の信頼関係を基礎とする契約なので無断で「賃借物を転貸」したり、「賃借権を譲渡」することは、原則として許されません。

 原状回復義務

 原状回復義務は、「賃借物の返還時」にその損傷を回復させる問題です。
 賃貸借が終了すれば、賃借人は「賃借物を返還」しなければならず、また、「賃借物に損傷が生じた」場合には、その原状回復義務(元通りの状態に戻して返還する義務)が生じます。

原 則 返還時に損傷を修復する
 賃借物を受け取った後に、これに生じた損傷があれば、賃借人は「賃貸借終了時の賃借物の返還」に際して、その損傷を原状に復する義務を負います。

例 外
 ただし、次の場合にはこの義務はありません。

 通常損耗や経年変化による損傷
 これらは、原状回復の対象外です。
 通常損耗というのは、「社会通念上」通常の使用収益により生じる賃借物の劣化・価値の減少をいいます。「通常損耗」や「経年変化による損傷」は、賃貸借の本質上当然に予定されており、通常は賃料に含まれているので、賃借人に原状回復義務を負わせることはできません。

 したがって、賃借人に「通常損耗についての原状回復義務」を負担させるには、その旨の特約(通常損耗補修特約)が明確に合意されていることが必要です(最判平17.12.16)

 損傷が賃借人の帰責事由でない場合
 損傷が「賃借人の責めに帰することができない事由」によるものであるとき、たとえば、隣家の大樹が折れて賃借建物の屋根を損傷したなどの場合には、賃借人に原状回復義務は生じません。

 付属物の収去義務

 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに「付属させた物」(室内に取り付けたクーラーなど)を収去する義務を負います。
 収去義務は「原状回復義務の一態様」ですが、「損傷に関する原状回復義務」と違って、帰責事由がなくても、賃貸人の収去請求に応じなければなりません。

4|賃借人による妨害停止請求等

 賃借権は債権なので、もともと排他性はありません。しかし判例は、賃借人の賃借権を保護するため対抗要件を備えた「不動産賃借権」(債権)については物権的効力を有するものとして、これを認めており(最判昭30.4.5)新民法もこれを明文化しました(605条の4)
 対抗要件を備えた賃借人には、次の権利が認められています。

 妨害停止請求権
 第三者が、賃借不動産の占有を妨害しているときは、第三者に対して、賃借権に基づき直接に妨害停止を請求することができます(最判昭28.12.18)。ただし「妨害予防請求権」までは認められていません。

 不動産返還請求権
 第三者が、賃借不動産を不法に占有しているときは、第三者に対して、その返還を請求することができます。



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