|更新日 2023.3.16|公開日 2017.07.14

1|物権が存在するワケ

 講座|物権の意味・種類は、一通り目を通すだけでかまいません。大体の意味を把握できればOKです。

 さて「物権」というのは、所有権とか抵当権などのように、「に対する10種類の権利」の「総称」をいいます。

 人が生活を営んで生きていくためには、土地や建物をはじめ、食糧品・衣料品など、いろいろな物資(家電製品、自動車などありとあらゆる財物)を必要とします。しかし、 これらの物資には限りがあるため、これらを直接に利用・消費する権利、すなわち「物に対する権利」を認めて、これを「互いに侵害しない」ようにして物資の利用を安全確実にする制度を必要としたのです。

 これが、「物権」が認められる最大の理由で、「債権」よりもはるかに古くから人類の歴史とともに発展してきました。

2|物権の性質

 物権は、目的物を直接に支配して利益を受ける排他的な権利です。

直接支配性
 物権は、目的物を直接に支配します。どういうことかというと、「権利」というのは、最終的にはその人に満足を与えることが目的なのですが、物権は「権利を実現して満足を得る」ために、他人の意思や行為を必要としないということです。

 物権と対比される債権と比較するとわかりやすいでしょう。債権では、債権者が「権利を実現して満足を得る」ためには、他人=債務者の行為(目的物の引渡し、金銭の支払いなど)を必要とするのに対し、物権ではこうした他人の行為を必要としません。
 これを直接といいます。
 たとえば、土地の「所有権=物権」を有する所有者は、みずから使用したり管理するだけで「満足を得る」ことができます。他人の行為は必要ありません。

 一方、土地の賃借人、つまり賃借権という債権を有する者は、土地の所有者と賃貸借契約を結んで、賃貸人から土地の引渡しを受けて使用収益ができるという「賃貸人=他人」の行為があって「権利を実現」することができます。
 債権は、権利実現のために、必ず他人の行為を必要とするのです。

排他的権利
 物権は、排他的な権利です。排他的というのは、要するに独占的ということで、目的物に1つの物権が成立するときは、同じ内容の物権の成立を認めないということです。
 ある人が甲土地を所有していれば、他人は甲土地を所有できませんし、マンションの555号室に住んでいれば、赤の他人は同じ555号室には住めません。

 一方、債権は同一物・同一人に対して複数成立します。同日同一時刻の演奏者に対する出演契約は、A社、B社、C社で結んでもかまいません。結局は、実際に実現できるのは1社ですから、あとは債務不履行による損害賠償問題になるだけです。

 このように物権は、同一物に対して同一内容の物権が成立することを認めない権利ですから、債権に比べて、他人を排斥する非常に強い権利なのです。

3|物権の効力

 物権が、直接的・排他的な権利であるという性質から、2つの効力が認められます。
 優先的効力と物権的請求権です。

 優先的効力

 いろいろな権利に対して優先する効力をいい、2つの内容があります。

 物権間の優先的効力
 内容の対立する「物権相互」の間では、その優劣は物権成立の時の順序に従います。
 たとえば、すでにAの所有権が成立している物の上に、Bの所有権は成立しません。抵当権は、成立時の前後によって順位が異なり、一番抵当権・二番抵当権のように、先に成立したものが優先します。

 こうした優先的効力は、物権の排他性によるものです。この優先的効力・排他性は、土地・建物などの不動産取引では、登記をすることで完全に確保されます。

 債権に優先する効力
「債権」が成立している目的物に「物権」が成立するときは、物権が優先します。
 たとえば、Aの所有建物をBが賃借=賃借権設定している場合に、Cが売買によりAから建物の「所有権」を取得すれば、賃借人Bは、新所有者Cに対してその「賃借権」を主張できなくなります。「先に」賃借権=債権が成立していても、「後で」成立した所有権=物権が優先します。「売買は賃貸借を破る」のです。

 これは、物権が目的物に対する直接の支配権であるのに対して、債権は「債務者の行為」を介して間接に支配するにすぎない、という差から生じるのです。
 ただし、とくに不動産賃借人を保護する趣旨により、土地・建物の賃借権など一定の債権は、登記や目的物の引渡し等によって「物権に優先する効力」が認められていることは、注意を要します。

 物権的請求権

 物権が何かの事情によって妨害されている場合には、物権者は、その妨害者に対し、妨害を除去するよう請求することができます。
 たとえば、台風で近くの鉄塔が倒壊して庭がふさがれたときには、庭の所有者は鉄塔の所有者に対して「邪魔だから片づけてほしい」と主張することができるわけです。この請求権を物権的請求権といいます。

 物権は、目的物を直接に支配する権利なので、この請求権を認めないと、物権はまったく有名無実となってしまいます。「所有権」が妨害されたときには、物権的請求権として、当然に「所有権に基づく」妨害予防請求権・妨害除去請求権・所有物返還請求権が認められているのです。

 判例は「抵当権」の妨害について、抵当建物が不法占有されている抵当権者は、建物所有者が有する不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使して、直接抵当権者に建物を明け渡すよう求めることができるとしています(最判平11.11.24)

 さらに判例は、「債権」には原則として妨害排除請求権を認めていませんが、対抗要件を備えた不動産賃借権についてはこれを認めています(最判昭30.4.5)

4|物権法定主義

 物権を勝手に作ってはいけない  民法の基本法理の1つに「契約の自由」がありますが、だからといって物権を自由に作ることはできません。物権は、民法その他の特別法で定めるもののほか、創設できないのです(175条)。要するに「勝手に物権をつくるな」ということです。これを物権法定主義といいます。

趣 旨 安全な取引の確保のため
 物権は直接的・排他的な権利であるため第三者に対する影響が大きく、取引当事者によって勝手にいろいろな種類の物権をつくられたり、内容を変更されたのでは混乱してしまい、安全な取引が困難になります。
 そこで、法律であらかじめ物権の種類を限定し、権利内容を定型化しておいて、取引当事者は、この類型の中からどれかを選択できるだけである、という制度にしたのです。物権のメニューがすでに作られていて、ここから選ぶだけなのです。

5|物権の種類と内容

 民法が定めた物権は10種類ですが、宅建士試験に必要なのは9種類です。なかでも所有権抵当権が重要です。

 所有権

所有権の内容
 物資がもっている「一切の価値」を自由に支配する全面的な物権で、物権の中心的存在です。「一切の価値」には3態様があります。
使用=自分で使う
収益=他人に利用させて使用料(家賃とか地代)をとる
処分=売却・譲渡したり、抵当権を設定して「担保」として利用する

 自分の家の「所有権」を有していれば、家族で住むのも、人に貸すのも、売り払うのも、借金の抵当に入れるのも自由自在にできるのです。

 担保物権

 担保物権というのは、債権を担保する、つまり「債務者から確実に弁済を受けられるようにする」ために利用される物権で、4種類あります。

留置権
 パソコンの修理代金を払ってもらうまでパソコンを返さない、返してほしければ「修理代金」を支払えというように、修理業者である債権者が、債務者の所有物を手元に留置して、債務の弁済があるまで返還しない担保物権です。
 債務者の所有物を留置することで債務の弁済(修理代金の支払)を確実にするわけです。

先取特権
 破産した債務者の総財産を処分して、従業員の給料を優先的に支払うというように、債務者の目的物を処分して、その代金から債権の弁済を受ける担保物権です。
 一般債権者より、まず従業員の生活を保護するというように社会政策的な要請から、その成立・内容等が法定されています。

質 権
 お金を借りる債務者からその所有物を預かって借金の弁済を促し、期限までに弁済がないときは所有物を競売して、その売却代金から優先的に弁済を受けるという担保物権です。
 庶民金融の「質屋」(動産質権)がこれに該当します。試験で出題されたのは、ほとんどが「不動産質権」です。

抵当権
 たとえば、債権者が貸金債権の担保として債務者の不動産に抵当権を設定して、期限までに弁済がないときはその不動産を競売して、売却代金から他の債権者に先立って優先的に弁済を受ける担保物権です。
「根抵当権」は、通常の抵当権の性質を大幅に修正した特殊な抵当権です。

 用益物権

 用益物権は、「他人の土地」を使用収益する物権です。

地上権
 土地を借りて、そこにマンションや工場を建てるというように、建物や工作物などを所有する目的で、他人の土地を利用する物権です。
 土地所有者と利用者の「地上権設定契約」で発生します(約定地上権)。抵当権のところで「法定地上権」が出てきます。

永小作権
 時代劇なんかで、田んぼに苗を植えているお百姓が登場しますね。小作人です。地主から田んぼを借りて「耕作」しているんですね。
 永小作権は、他人の土地を借りて「耕作」とか「牧畜」をする物権です。同じく他人の土地を借りるのですが、建物や工作物を建てるのが目的ではなく、「耕作」したり「牧畜」をするのが目的なのです。
 当事者間の「永小作権設定契約」で発生します。

 なお「他人の土地を利用する」という地上権や永小作権の目的は、現在では、債権である賃借権によって実現できるため、他人の土地利用は、圧倒的に賃借権(賃貸借契約)にとって代わられています。

地役権
 道路に出るために隣人の土地を通行するというように、隣同士の土地利用を調節するための物権です。隣人間の土地利用の調節は、所有権の「相隣関係」でも登場しますが、こちらは法律上当然に認められる調整機能ですが、地役権は当事者間の「地役権設定契約」で発生します。
 法令上の制限の「土地区画整理法」で、たまに出題されます。

 担保物権・用益物権などの「所有権以外」の物権は、「所有権」の有する部分的な機能・価値についてのみ「限られた範囲」で物を支配するため、制限物権といわれます。

 占有権

占有権の内容
 占有権は、目的物に対する「事実上の支配状態」があれば、それだけを根拠に成立が認められる物権です。この「事実上の支配状態」を「占有」といい、たとえば、目的物を「使っていたり」「保管していたり」「人に貸していたり」する状態、要するに目的物を所持・管理している状態をいいます。

 事実上の支配状態、つまり「占有」がありさえすれば、それが正当な権利、たとえば所有権や抵当権、不動産賃借権などの本権に基づくかどうかを「一切問わずに」占有権が生じるわけです。
 
趣 旨 社会秩序を維持するため
 本権の有無に関係なく、占有権が認められる最大の趣旨は、事実上の支配状態をそのまま権利=占有権として保護して社会秩序を維持するという点にあります。
 
 現代社会では、たとえ正当な権利があっても、実力行使による自力救済は原則として禁止されています。パソコンを盗んだ犯人に対して、権利者である所有者が「実力行使」をして取り返す自力救済は認められていません。自力救済を認めると、社会秩序は維持できませんね。
 ドロボーに「占有権」が認められるのも、この理由によるのです。法治国家にあっては、訴訟という平和的な「法的手続」で取り返さないといけないのです。

  ちなみに、自力救済は令和3年(2021)12月の[問1]で判決文問題として出題されました。

 パソコンが盗まれた場合、盗んだ者は「所有権=本権はない」が占有権を有し、盗まれた者は「所有権=本権はある」のに占有権がない状態に置かれているわけです。

「占有」は取得時効で問題となるテーマです。

 物権全体を位置づけるとこのようになります。覚える必要はありません。
 イメージできればOKです。

物権の種類

6|物権と債権の対比

物権と債権の対比を簡単に確認しておきましょう。

権利の性質

物 権
・物を直接支配する権利
・排他性あり
・だれに対しても主張できる絶対的権利

債 権
・特定人=債務者に行為を請求する権利
・排他性なし
・特定人=債務者に主張できる相対的権利

権利の種類

物 権
・所有権、地上権、永小作権、地役権
・留置権、先取特権、質権
・抵当権、法定地上権、根抵当権
・占有権

債 権
・売買における代金債権引渡債権
・賃貸借における賃借権賃料債権
・消費貸借における貸金債権
・請負や委任における報酬債権
・解除における原状回復請求権
・債務不履行における損害賠償請求権
・不法行為における損害賠償請求権



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