|公開日 2023.05.01

【問 1】 抵当権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 債権者が抵当権の実行として担保不動産の競売手続をする場合には、被担保債権の弁済期が到来している必要があるが、対象不動産に関して発生した賃料債権に対して物上代位をしようとする場合には、被担保債権の弁済期が到来している必要はない。

 抵当権の対象不動産が借地上の建物であった場合、特段の事情がない限り、抵当権の効力は当該建物のみならず借地権についても及ぶ。

 対象不動産について第三者が不法に占有している場合、抵当権は、抵当権設定者から抵当権者に対して占有を移転させるものではないので、事情にかかわらず抵当権者が当該占有者に対して妨害排除請求をすることはできない。

 抵当権について登記がされた後は、抵当権の順位を変更することはできない。
(平成25年問5)

解説&正解
【1】[物上代位と弁済期*136条1項
 弁済期は債務者の利益のためにあるのだから、債権者が抵当権を実行するためには「被担保債権の弁済期が到来」している必要がある。抵当権と同視できる物上代位を賃料債権に対して行使する場合も同様である。本肢は誤り。

【2】[抵当権の効力の及ぶ範囲]
 建物所有に必要な借地権は、建物所有権に付随しこれと一体となって財産的価値を形成しているから、借地上の建物に抵当権が設定された場合は、特段の事情がない限り、抵当権の効力は借地権にも及ぶ(最判昭40.5.4)。本肢は正しい。

【3】[妨害排除請求権]*最判平11.11.24
 抵当権者は、抵当不動産の所有者に対して、抵当不動産を適切に維持保存するよう求める請求権を有するので、その請求権保全のため必要があるときは、所有者が有する不法占有者への妨害排除請求権を代位行使したり、また優先弁済権の行使が困難となるときは、抵当権に基づいて「妨害排除請求」をすることができる。本肢は誤り。
  また判例は、妨害排除請求権の行使に当たり、抵当権侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが所有者に期待できないときは、抵当権者は、不法占有者に対し、直接自己への明渡しを求めることができる、とする(最判平17.3.10)

【4】[抵当権の順位の変更*374条
 抵当権の登記後でも、各抵当権者の合意によって抵当権の順位を変更することができる。ただし、法律関係が複雑になるのを避けるため、順位の変更は登記をしないと効力を生じない。
 この登記は第三者への対抗要件ではなく、効力発生要件とされる。本肢は誤り。

[正解] 2



【問 2】 物上代位に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。なお、物上代位を行う担保権者は、物上代位の対象とする目的物について、その払渡し又は引渡しの前に差し押さえるものとする。

 Aの抵当権設定登記があるB所有の建物の賃料債権について、Bの一般債権者が差押えをした場合には、Aは当該賃料債権に物上代位することができない。

 Aの抵当権設定登記があるB所有の建物の賃料債権について、Aが当該建物に抵当権を実行していても、当該抵当権が消滅するまでは、Aは当該賃料債権に物上代位することができる。

 Aの抵当権設定登記があるB所有の建物が火災によって焼失してしまった場合、Aは、当該建物に掛けられた火災保険契約に基づく損害保険金請求権に物上代位することができる。

 Aの抵当権設定登記があるB所有の建物について、CがBと賃貸借契約を締結した上でDに転貸していた場合、Aは、CのDに対する転貸賃料債権に当然に物上代位することはできない。(平成24年問7)

解説&正解
【1】[差押えと物上代位の優劣]
 建物の賃料債権について、「一般債権者の差押え」と「抵当権者の物上代位権に基づく差押え」が競合した場合、両者の優劣は、抵当建物賃借人への差押命令の送達と抵当権設定登記先後によって決まる(最判平10.3.26)
 抵当権者Aは先に、Bの所有建物に「抵当権設定登記」をしているので、Bの一般債権者が賃料債権を差し押さえても、Aは賃料債権に物上代位ができる。本肢は誤り。

【2】[物上代位の行使時期]*最判平1.10.27
 判例は「目的不動産に対して抵当権が実行されている場合でも、抵当権が消滅するまでは、賃料債権に抵当権を行使することができる」として、抵当権を実行するとともに、賃料債権への物上代位も認めている。本肢は正しい。

【3】[抵当権の物上代位性]*372条/304条
 抵当権には物上代位性があるから、抵当建物が火災によって焼失したために「火災保険契約に基づく損害保険金請求権」が発生した場合は、この請求権に対して抵当権を行使することができる。本肢は正しい。

【4】[転貸料に対する物上代位]
 建物の抵当権者Aの抵当権設定登記があるB所有の建物について、CがBと賃貸借契約を締結して、さらにCがDに転貸していた場合、Aは、原則として、建物賃借人Cの転借人「Dに対する転貸賃料債権に当然に物上代位することはできない」(最判平12.4.14)
 債務者B(抵当不動産の所有者)は、その抵当不動産をもって債務の履行責任を負担するものであるが、建物転借人Dは、そのような履行責任を負担するものではなく、したがって、自己の「転貸賃料債権」をもって債務の弁済に供すべき立場にはないからである。
 また、物上代位を認めると、転貸借関係における転貸人の利益を不当に害することにもなるからである。本肢は正しい。

[正解] 1



【問 3】 Aは、A所有の甲土地にBから借り入れた 3,000万円の担保として抵当権を設定した。この場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 Aが甲土地に抵当権を設定した当時、甲土地上にA所有の建物があり、当該建物をAがCに売却した後、Bの抵当権が実行されてDが甲土地を競落した場合、DはCに対して、甲土地の明渡しを求めることはできない。

 甲土地上の建物が火災によって焼失してしまったが、当該建物に火災保険が付されていた場合、Bは、甲土地の抵当権に基づき、この火災保険契約に基づく損害保険金を請求することができる。

 AがEから 500万円を借り入れ、これを担保するために甲土地にEを抵当権者とする第2順位の抵当権を設定した場合、BとEが抵当権の順位を変更することに合意すれば、Aの同意がなくても、甲土地の抵当権の順位を変更することができる。

 Bの抵当権設定後、Aが第三者であるFに甲土地を売却した場合、FはBに対して、民法第383条所定の書面を送付して抵当権の消滅を請求することができる。(平成28年問4)

解説&正解
【1】[法定地上権の成立]*388条
 土地と建物の同一所有者Aが、土地に抵当権を設定した後に、建物を第三者Cに売却した場合、その後、土地抵当権が実行されたときには、建物のために法定地上権が成立する。甲土地の競落人Dは、建物譲受人Cに対し甲土地の明渡しを求めることはできない。本肢は正しい。
  A→Cへ建物が売却された時に、通常は、建物のために土地利用権(土地賃借権または地上権)が設定されるが、この利用権は「土地に抵当権を設定した」後であるために、競売により消滅する運命にある。したがって、建物のために法定地上権を認めるべきであり、これを認めても土地の抵当権者に不都合は生じない、というのが判例(大判大12.12.14)

【2】[物上代位]*372条/304条
 抵当権は「甲土地」に設定されているので、その効力は建物には及ばないから、「建物」の焼失により火災保険契約による損害保険金が生じても、甲土地抵当権の物上代位によってこれを請求することはできない。本肢は誤り。

【3】[抵当権の順位の変更]*374条1項
 1番抵当を2番抵当に、2番抵当を1番抵当にするように、抵当権の順位を変更するためには、それぞれの抵当権者の合意が必要であるが、順位の変更は、債務者など抵当権設定者の利害には影響しないので(抵当権者同士の順位が入れ替わるだけ)、債務者等の承諾は不要である。つまり、債務者「Aの同意がなくても」することができるのである。本肢は正しい。

【4】[抵当権消滅請求権者]*379条
 抵当地の第三取得者(買主)Fは、抵当地の抵当権者Bに対して、民法383条の書面(抵当権消滅請求手続書面)を送付して、抵当権の消滅請求をすることができる。本肢は正しい。

[正解] 2



【問 4】 A所有の甲土地にBのCに対する債務を担保するためにCの抵当権(以下この問において「本件抵当権」という。)が設定され、その旨の登記がなされた場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。

 Aから甲土地を買い受けたDが、Cの請求に応じてその代価を弁済したときは、本件抵当権はDのために消滅する。

 Cに対抗することができない賃貸借により甲土地を競売手続の開始前から使用するEは、甲土地の競売における買受人Fの買受けの時から6か月を経過するまでは、甲土地をFに引き渡すことを要しない。

 本件抵当権設定登記後に、甲土地上に乙建物が築造された場合、Cが本件抵当権の実行として競売を申し立てるときには、甲土地とともに乙建物の競売も申し立てなければならない。

 BがAから甲土地を買い受けた場合、Bは抵当不動産の第三取得者として、本件抵当権について、Cに対して抵当権消滅請求をすることができる。(令和4年問4)

解説&正解
【1】[代価弁済と抵当権の消滅]*378条
 物上保証人Aからその抵当不動産を買い受けた第三者Dが、抵当権者Cの請求に応じて「その代価を弁済したとき」は、抵当権はDのために消滅する。本肢は正しい。

【2】[建物使用者と引渡し猶予]*395条
 抵当建物を競売手続の開始前から使用収益している抵当建物使用者は、建物買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは、建物を買受人に引き渡す必要はない。これは、建物使用者保護のためである。
 しかし、明渡し猶予は、土地については適用されない。「甲土地をFに引き渡すことを要しない」との記述は、誤り。

【3】[抵当地と建物の一括競売]*389条1項
 甲土地への抵当権設定後に、建物が築造されたときは、抵当権者Cは「甲土地とともに乙建物」を一括して競売することができる
 「申し立てなければならない」ものではない。一括競売は、抵当権者の権利であって、義務ではないのである。本肢は誤り。

【4】[抵当権消滅請求権者]*379条/380条
 抵当権消滅請求ができるのは、抵当不動産の第三取得者に限られる。主たる債務者Bは、甲土地を買い受けた(買主となった)としても「第三取得者」ではないから、抵当権消滅請求をすることはできない。
 主債務者、保証人は、抵当権消滅請求をすることができないのである。本肢は誤り。

[正解] 1



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