|公開日 2023.05.01

【問 1】 債務者A、B、Cの3名が、令和3年7月1日に、内部的な負担部分の割合は等しいものとして合意した上で、債権者Dに対して 300万円の連帯債務を負った場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。

 DがAに対して裁判上の請求を行ったとしても、特段の合意がなければ、BとCがDに対して負う債務の消滅時効の完成には影響しない。

 BがDに対して 300万円の債権を有している場合、Bが相殺を援用しない間に 300万円の支払の請求を受けたCは、BのDに対する債権で相殺する旨の意思表示をすることができる。

 DがCに対して債務を免除した場合でも、特段の合意がなければ、DはAに対してもBに対しても、弁済期が到来した 300万円全額の支払を請求することができる。

 AとDとの間に更改があったときは、300万円の債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する。(令和3年問2)

解説&正解
【1】[裁判上の請求の相対的効力]*441条
 連帯債務者Aに対して裁判上の請求をしても、その効力(消滅時効の完成猶予の効力など)は相対的なので、他の債務者B・Cの「債務の消滅時効の完成には影響しない」。
 「特段の合意」(他の債務者にも効力が及ぶとするなどの合意)がなければ、B・Cの債務は独自に消滅時効が完成する。本肢は正しい。

【2】[相殺における履行拒絶*439条2項
 債権者Dに対して反対債権を有する債務者Bが「相殺を援用しない」間に、300万円の支払請求を受けた債務者Cは、Bの負担部分(100万円)の限度で、債務の履行を拒むことができる。Bの反対債権で「相殺する」ことはできない。本肢は誤り。
  改正前民法では、A・Cは、Bの「反対債権で相殺できた」のだが、これは行き過ぎとされ、新民法で上記のように改正された。

【3】[免除の相対的効力]*441条
 債務者1人の債務を免除しても、その効力は相対的なので、他の債務者に対しては、免除の効力は生じない。
 債権者Dが、Cに対して債務を免除しても、特段の合意がないのであれば、AとBに対しては、なお「300万円全額の支払を請求をすることができる」。本肢は正しい。

【4】[更改の絶対的効力]*438条
 更改(契約)は、従前の債務を消滅させて、新債務を成立させる契約のこと。旧債務を消滅させるので、他の債務者もまた債務を免れる
 つまり、債務者Aと債権者Dとの間に更改があったときは、Dの 300万円の債権は「全ての連帯債務者の利益のために消滅する」こととなる。本肢は正しい。

[正解] 2



【問 2】 保証に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。なお、保証契約は令和2年4月1日以降に締結されたものとする。

 特定物売買における売主の保証人は、特に反対の意思表示がない限り、売主の債務不履行により契約が解除された場合には、原状回復義務である既払代金の返還義務についても保証する責任がある。

 主たる債務の目的が保証契約の締結後に加重されたときは、保証人の負担も加重され、主たる債務者が時効の利益を放棄すれば、その効力は連帯保証人に及ぶ。

 委託を受けた保証人が主たる債務の弁済期前に債務の弁済をしたが、主たる債務者が当該保証人からの求償に対して、当該弁済日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。

 委託を受けた保証人は、履行の請求を受けた場合だけでなく、履行の請求を受けずに自発的に債務の消滅行為をする場合であっても、あらかじめ主たる債務者に通知をしなければ、同人に対する求償が制限されることがある。(令和2年問7)

解説&正解
【1】[保証債務の範囲|原状回復義務
 売主の保証人は、特に反対の意思表示がない限り、売主の債務不履行により「契約が解除」された場合における原状回復義務についても保証する責任がある。本肢は正しい。
 保証債務は、主債務と同じ範囲で履行責任を負うものなので、主債務を保証するだけではなく、その利息、違約金、債務不履行による損害賠償など、主債務に従たるすべてのものを含むのである(447条1項/最判昭40.6.30)

【2】[主債務と保証人の負担]*448条2項
 保証契約の締結後に、主たる債務の目的が加重されても、保証人にその効力は及ばない。保証債務は、債権者と保証人との保証契約によってすでに定まっており、保証人の意思によらずに不利益を強いることは妥当ではないからである。付従性もこの限りで制限される。前半の記述は誤り。
 また、主たる債務者が時効の利益を放棄しても、その効力は連帯保証人には及ばない。時効を援用するか放棄するかは、当事者の意思に任せられるべきものなので、援用・放棄した本人だけに効力が生じる(相対的効果)
 主たる債務者が時効の利益を放棄しても、その効果は連帯保証人には及ばないので、連帯保証人は時効の利益を援用できる。後半も誤り。以上より、本肢は誤り。

【3】[弁済期前の弁済と求償権]
 委託を受けた保証人(受託保証人)が、主たる債務の弁済期前に保証債務を弁済するなどの債務消滅行為をしたときは、主たる債務者に対して一定の限度で求償権を有するが、主たる債務者が、債権者に対する相殺を主張できる場合には、保証人は債権者に対して、その相殺で主張できた債権を行使することができる(459条の2第1項)
 これにより、主たる債務者の相殺権が保護されるとともに、保証人の求償権を簡易に決済できることとなる。本肢は正しい。

【4】[債務者への通知と求償権]*463条1項
 受託保証人が「あらかじめ主たる債務者に通知」をしないで、弁済などの「債務の消滅行為」をしたときは、債務者への求償が制限されることがある。
 保証人の弁済を知らなかったために、債務者が自ら弁済(二重弁済)したり、反対債権で相殺する機会を失うからである。本肢は正しい。

[正解] 2



【問 3】 AからBとCとが負担部分2分の1として連帯して 1,000万円を借り入れる場合と、DからEが 1,000万円を借り入れ、Fがその借入金返済債務についてEと連帯して保証する場合とに関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。

 Aが、Bに対して債務を免除した場合にはCが、Cに対して債務を免除した場合にはBが、それぞれ 500万円分の債務を免れる。Dが、Eに対して債務を免除した場合にはFが、Fに対して債務を免除した場合にはEが、それぞれ全額の債務を免れる。

 Aが、Bに対して履行を請求した効果はCに及ばず、Cに対して履行を請求した効果はBに及ばない。Dが、Eに対して履行を請求した効果はFに及び、Fに対して履行を請求した効果はEに及ばない。

 Bについて時効が完成した場合にはCが、Cについて時効が完成した場合にはBが、それぞれ 500万円分の債務を免れる。Eについて時効が完成した場合にはFが、Fについて時効が完成した場合にはEが、それぞれ全額の債務を免れる。

 AB間の契約が無効であった場合にはCが、AC間の契約が無効であった場合にはBが、それぞれ 1,000万円の債務を負う。DE間の契約が無効であった場合はFが、DF間の契約が無効であった場合はEが、それぞれ 1,000万円の債務を負う。(平成20年問6)

解説&正解
【1】免除の相対的効力]*458条/441条
 ①連帯債務では、債務者1人の債務が免除されても、その効力は他の債務者には及ばず、債務は免除されない(相対的効力)。「それぞれ 500万円分の債務を免れる」は、誤り。
 ②連帯保証では、主たる債務者Eが免除されれば、保証債務の付従性により、その効力は連帯保証人Fにも及び、債務全額を免除される。しかしFが債務を免除されても、連帯債務の相対的効力により、Eに免除の効力は及ばない。
 Eの債務は、保証の付かない債務となって、なお債務全額を負担することとなる。後半も誤り。以上より、本肢は誤り。

【2】請求の相対的効力]*441条/458条
 ①連帯債務では、債務者の1人に履行の請求をしても相対的効力を有するだけで、他の債務者には効力を生じない。前半は正しい。
 ②連帯保証では、主たる債務者Eに履行の請求をすれば、保証債務の付従性により、連帯保証人Fにも効果が及ぶ。しかしFに履行の請求をしても、連帯債務の相対的効力により、Eには効果は及ばない。後半も正しい。以上より、本肢は正しい。

【3】時効の相対的効力]
 ①連帯債務では、債務者の1人について消滅時効が完成しても相対的効力を有するのみで、他の債務者にはその効力は及ばない。「それぞれ 500万円分の債務を免れる」は、誤り。
 ②連帯保証では、主たる債務者Eについて時効が完成すればその債務は消滅するので、保証債務の付従性により、連帯保証人Fの債務も消滅する。しかし、Fの債務が時効完成しても、連帯債務の相対的効力により、Eの主たる債務は保証の付かない債務となってそのまま存続する。「それぞれ全額の債務を免れる」は誤り。本肢は誤り。

【4】無効の相対的効力]*437条
 ①連帯債務では、債務者の1人について生じた無効は、当人だけに効力を生じ、他の債務者には影響がない。AB間の契約が無効でも、AC間の契約は完全に有効だから、Cは 1,000万円の債務を負い、またAC間の契約が無効でも、Bが 1,000万円の債務を負う。前半は正しい。
 ②連帯保証では、主たる債務が無効のときは、保証債務の付従性により、それを担保する保証債務も無効となる。DE間の契約が無効であれば、連帯保証も成立せず、Fが「1,000万円の債務を負う」ことはなく、記述は誤り。
 また、DF間の保証契約が無効のときは、連帯債務の相対的効力により、DE間の契約はその影響を受けず有効であって、Eは保証の付かない「1,000万円の債務を負う」こととなる。この記述は正しい。以上より、本肢は誤り。

[正解] 2



宅建民法 厳選過去問|テーマ一覧