|公開日 2023.05.01
【問 1】 代理に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
1 売買契約を締結する権限を与えられた代理人は、特段の事情がない限り、相手方からその売買契約を取り消す旨の意思表示を受領する権限を有する。
2 委任による代理人は、本人の許諾を得たときのほか、やむを得ない事由があるときにも、復代理人を選任することができる。
3 復代理人が委任事務を処理するに当たり金銭を受領し、これを代理人に引き渡したときは、特段の事情がない限り、代理人に対する受領物引渡義務は消滅するが、本人に対する受領物引渡義務は消滅しない。
4 夫婦の一方は、個別に代理権の授権がなくとも、日常家事に関する事項について、他の一方を代理して法律行為をすることができる。(平成29年問1)
解説&正解
【1】[代理権の範囲]*最判昭34.2.13
代理は
本人のために意思表示をなし、また意思表示を受領して本人に直接に権利義務を取得させる制度なので、特段の事情がない限り、売買契約締結の代理人が、相手方から「契約を取り消す旨の意思表示を
受領する権限を有する」のは、当然なのである。本肢は正しい。
【2】[任意代理人の復任権]*104条
委任による代理人(任意代理人)は、本人の信任に基づくものだから、原則として他人を復代理人として選任することはできない。ただし「本人の許諾を得たとき」または「やむを得ない事由があるとき」(急病など急迫な事情があるときなど)に限って復代理人を選任することができる。本肢は正しい。
【3】[復代理人の義務]*106条2項
復代理人は、本人に対して、その権限の範囲内において、代理人と同一の権利を有し義務を負うから、その代理行為も代理人の代理行為と同一の効果を生じることになる。
したがって、復代理人が「金銭を受領」したときは、原則として、本人に対しても代理人に対しても、金銭の引渡義務を負い、復代理人が代理人に金銭を引き渡したときは、代理人に対する受領物引渡義務は消滅し、それとともに、本人に対する受領物引渡義務も消滅する。
結局は、本人に受領物を引き渡すという同一目的を有しているからである。本肢は誤り。
【4】[夫婦間の日常家事代理権]*761条
夫婦は、食料購入・家賃支払など「日常家事に関する事項」については、「個別の代理権の授権がなくとも」、相互に他の一方を代理して法律行為をすることができる。本肢は正しい。
[正解] 3
【問 2】 AはBの代理人として、B所有の甲土地をCに売り渡す売買契約をCと締結した。しかし、Aは甲土地を売り渡す代理権は有していなかった。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
1 BがCに対し、Aは甲土地の売却に関する代理人であると表示していた場合、Aに甲土地を売り渡す具体的な代理権はないことをCが過失により知らなかったときは、BC間の本件売買契約は有効となる。
2 BがAに対し、甲土地に抵当権を設定する代理権を与えているが、Aの売買契約締結行為は権限外の行為となる場合、甲土地を売り渡す具体的な代理権がAにあるとCが信ずべき正当な理由があるときは、BC間の本件売買契約は有効となる。
3 Bが本件売買契約を追認しない間は、Cはこの契約を取り消すことができる。ただし、Cが契約の時において、Aに甲土地を売り渡す具体的な代理権がないことを知っていた場合は取り消せない。
4 Bが本件売買契約を追認しない場合、Aは、Cの選択に従い、Cに対して契約履行又は損害賠償の責任を負う。ただし、Cが契約の時において、Aに甲土地を売り渡す具体的な代理権はないことを知っていた場合は責任を負わない。(平成18年問2)
解説&正解
【1】[代理権授与表示の表見代理]*109条
本肢は、「売却に関する
代理人であると表示」した
代理権授与表示の表見代理であり、
代理権を授与したという表示を信頼した相手方を保護するものである。そのため、相手方は
善意無過失であることを要する。
相手方Cが、Aに代理権がないことを知っていた
悪意であったり、「
過失により知らなかったとき」には、この表見代理は成立せず、売買契約は有効とはならない。本肢は誤り。
【2】[権限外の行為の表見代理]*110条
本肢は、「抵当権設定」の代理権の範囲を越えて「売買契約」を締結した権限外の行為の表見代理である。
代理人Aが権限外の行為をした場合でも、相手方Cが、Aにその代理権があると「信ずべき正当な理由があるとき」、つまり善意無過失のときは表見代理が成立し、BC間の売買契約は有効となる。本肢は正しい。
【3】[無権代理の相手方の取消権]*115条
「甲土地を売り渡す代理権は有していなかった」売買契約は無権代理なので、本人Bがこれを追認しない間は、相手方Cは取り消すことができるが、「Aに代理権がないことを知っていた(悪意)」場合には取消しできない。
悪意の相手方に取消権を認める必要はないからである。本肢は正しい。
【4】[無権代理人の責任]*117条
本人Bが、無権代理による売買契約を追認しない場合は、一定の例外事由を除いて、無権代理人Aは、相手方Cの選択に従い、履行責任または損害賠償責任を負う。
ただし、Cが契約時に、Aに売買の「具体的な代理権はないことを知っていた(悪意)」場合は、Aは責任を負わない。本肢は正しい。
[正解] 1
【問 3】 AがBの代理人として行った行為に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。なお、いずれの行為もBの追認はないものとし、令和3年7月1日以降になされたものとする。
1 AがBの代理人として第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合、相手方Cがその目的を知っていたとしても、AC間の法律行為の効果はBに帰属する。
2 BがAに代理権を与えていないにもかかわらず代理権を与えた旨をCに表示し、Aが当該代理権の範囲内の行為をした場合、CがAに代理権がないことを知っていたとしても、Bはその責任を負わなければならない。
3 AがBから何ら代理権を与えられていないにもかかわらずBの代理人と詐称してCとの間で法律行為をし、CがAにBの代理権があると信じた場合であっても、原則としてその法律行為の効果はBに帰属しない。
4 BがAに与えた代理権が消滅した後にAが行った代理権の範囲内の行為について、相手方Cが過失によって代理権消滅の事実を知らなかった場合でも、Bはその責任を負わなければならない。(令和3年12月問5)
解説&正解
【1】[代理権の濫用の効果]*107条
代理人が「
自己または
第三者の利益を図る目的で
代理権の範囲内の行為をした」場合は、
代理権の濫用にあたる。
この場合でも、相手方Cが「その目的を
知っていた」り、または
知ることができたとき、つまり、
悪意または過失があるときは、無権代理とみなされるので、「AC間の法律行為の効果はB(本人)に帰属する」ことはない。本肢は誤り。
【2】[代理権授与表示の表見代理]*109条
本人Bが「Aに代理権を与えていない」のに、相手方Cに対して、Aに「代理権を与えた旨を表示」し、Aが「代理権の範囲内の行為」をすれば、代理権授与の表示による表見代理が問題となる。この場合、相手方Cが、Aに代理権が与えられていないことを「知っていた」り、または過失によって知らなかったときは、表見代理は成立せず、Bはその責任を負うことはない。本肢は誤り。
【3】[無権代理]*113条
「何ら代理権を与えられていない」者が代理行為をすれば、無権代理である。無権代理行為は、相手方Cが、無権代理人Aに「代理権があると信じた」善意の場合でも、本人Bに対してどのような効果も生じない。
Bとしては、その行為を追認するか追認拒絶をするかである。本肢は正しい。
【4】[代理権消滅後の表見代理]*112条
本人が与えていた「代理権が消滅した後」に、なお代理人として「代理権の範囲内の行為をした」場合には、代理権消滅後の表見代理が問題となる。
この場合、本人Bは、代理権消滅について過失なく知らなかった善意無過失の相手方Cに対しては、責任を負わなければならないが、Cが「過失によって」知らなかったのであれば、Bは責任を負わない。本肢は誤り。
[正解] 3
【問 4】 Aが、所有する甲土地の売却に関する代理権をBに授与し、BがCとの間で、Aを売主、Cを買主とする甲土地の売買契約(以下この問において「本件契約」という。)を締結した場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
1 Bが売買代金を着服する意図で本件契約を締結し、Cが本件契約の締結時点でこのことを知っていた場合であっても、本件契約の効果はAに帰属する。
2 AがBに代理権を授与するより前にBが補助開始の審判を受けていた場合、Bは有効に代理権を取得することができない。
3 BがCの代理人にもなって本件契約を成立させた場合、Aの許諾の有無にかかわらず、本件契約は無効となる。
4 AがBに代理権を授与した後にBが後見開始の審判を受け、その後に本件契約が締結された場合、Bによる本件契約の締結は無権代理行為となる。(平成30年問2)
解説&正解
【1】[代理権の濫用の効果]*107条
代理人が「売買代金を
着服する意図」で契約するというように、
自己または第三者の利益を図る目的で行った代理行為は、
代理権の濫用である。
この場合、相手方が、代理人の目的を
知っていたり、または知らないことに
過失があるときは、
無権代理とみなされるので、当然には本人に責任が及ぶことはない。
相手方Cは、代理人Bの
着服の意図を「知っていた」のであるから無権代理とみなされるため、契約の効果が本人「Aに帰属する」ことはない。本肢は誤り。
【2】[代理人の行為能力]*102条
代理人は、行為能力者であることを要しないから、すでに「補助開始の審判を受けていた」被補助人であっても、「有効に代理権を取得する」ことができる。本肢は誤り。
【3】[双方代理の効果]*108条1項但書
Aの代理人Bが、同時にCの代理人にもなった双方代理は、無権代理とみなされるので、当然には本人に効果が及ぶことはない。
しかし、当事者双方の許諾があれば、有効な代理行為となるので「Aの許諾の有無にかかわらず……無効となる」との記述は誤り。
【4】[代理権消滅後の代理行為]*111条1項
すでに代理権を授与された代理人が「後見開始の審判を受けた」ときは、代理権は消滅する。そして、代理権消滅後に締結された契約は「無権代理行為となる」。本肢は正しい。
[正解] 4
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