|公開日 2023.05.01

【問 1】 AがBに対してA所有の甲建物を令和3年7月1日に①売却した場合と②賃貸した場合についての次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 ①と②の契約が解除された場合、①ではBは甲建物を使用収益した利益をAに償還する必要があるのに対し、②では将来に向かって解除の効力が生じるのでAは解除までの期間の賃料をBに返還する必要はない。

 ①ではBはAの承諾を得ずにCに甲建物を賃貸することができ、②ではBはAの承諾を得なければ甲建物をCに転貸することはできない。

 甲建物をDが不法占拠している場合、①ではBは甲建物の所有権移転登記を備えていなければ所有権をDに対抗できず、②ではBは甲建物につき賃借権の登記を備えていれば賃借権をDに対抗することができる。

 ①と②の契約締結後、甲建物の引渡し前に、甲建物がEの放火で全焼した場合、①ではBはAに対する売買代金の支払を拒むことができ、②ではBとAとの間の賃貸借契約は終了する。(令和3年12月問9)

解説&正解
【1】[契約解除の効果]*最判昭51.2.13
 契約が解除された場合、①売買により買主に移転した所有権は、遡及的に売主に復帰するので、原状回復義務の内容として、買主は、解除されるまでの間に目的物を使用したことによる利益も売主に償還する義務を負う。
 ②賃貸借のような継続的契約関係では、解除の効果は将来に向かってのみ生じる(遡及効はない)ので、「解除までの期間の賃料」を返還する必要はない。本肢は正しい。

【2】[賃貸・転貸に対する承諾]*612条1項
 ①売買では、買主は甲建物の所有権を有しているので、売主の「承諾を得ずに」自由にその建物を賃貸できる。一方、②賃貸借では、賃借人は、賃貸人の「承諾を得なければ」甲建物を転貸することはできない。本肢は正しい。

【3】[妨害停止請求]*605条の4
 ①売買では、甲建物の所有者Bは、所有権移転登記を備えていなくても、不法占拠者Dに所有権を対抗することができる。記述は誤り。
 ②賃貸借では、賃借人Bは、甲建物につき「賃借権の登記(対抗要件)を備えていれば」、Dに対して賃借権に基づき妨害停止請求をすることができる。この記述は正しい。以上より、本肢は誤り。

【4】引渡し前の履行不能]*616条の2
 契約締結後、甲建物の引渡し前に、第三者の「放火で全焼」するなど、当事者双方の帰責事由によらずに履行不能となった場合には、
 ①売買では、買主B(債権者)は、売買代金の支払いを拒むことができる(536条1項/危険負担の問題)
 ②賃貸借では、賃借物(甲建物)を使用収益できなくなったため、賃貸借は終了する。以上より、本肢は正しい。

[正解] 3



【問 2】 AがBに甲建物を月額10万円で賃貸し、BがAの承諾を得て甲建物をCに適法に月額15万円で転貸している場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 Aは、Bの賃料の不払いを理由に甲建物の賃貸借契約を解除するには、Cに対して、賃料支払の催告をして甲建物の賃料を支払う機会を与えなければならない。

 BがAに対して甲建物の賃料を支払期日になっても支払わない場合、AはCに対して、賃料10万円をAに直接支払うよう請求することができる。

 AがBの債務不履行を理由に甲建物の賃貸借契約を解除した場合、CのBに対する賃料の不払いがなくても、AはCに対して、甲建物の明渡しを求めることができる。

 AがBとの間で甲建物の賃貸借契約を合意解除した場合、AはCに対して、Bとの合意解除に基づいて、当然には甲建物の明渡しを求めることができない。 (平成28年問8)

解説&正解
【1】[契約解除と転借人]*最判昭37.3.29
 賃貸人「Aの承諾を得て」適法な転貸借をした場合、Aが、賃借人Bの賃料不払い(債務不履行)を理由に契約を解除するには、Bに対して「賃料支払の催告」をすれば足りる。転借人Cに「甲建物の賃料を支払う機会を与えなければならない」ものではない。本肢は誤り。

【2】[適法な転貸借の効果]*613条1項
 適法な転貸借の場合、転借人は、賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して直接に転貸借による債務を負うので、賃借人Bが支払期日に賃料を支払わない場合には、賃貸人Aは転借人Cに対して「賃料10万円」をAに直接支払うよう請求できる。本肢は正しい。

【3】[解除と転貸借]*最判昭36.12.21
 適法な転貸借でも、賃借人Bの債務不履行によって賃貸借が解除されれば、Bは、転貸人としての債務が履行不能となるため、賃貸借の終了と同時に転貸借も終了する。
 したがって「CのBに対する賃料の不払いがなくても」、AはCに対して「甲建物の明渡しを求めることができる」。本肢は正しい。

【4】合意解除と転貸借の終了]*613条3項
 適法な転貸借があった後に、賃貸借がA・Bで合意解除されても、この解除は転借人に対抗することはできず、転貸借は終了しない
 承諾を与えて転貸借を認めていながら、合意解除して転借人の権利を消滅させることは許されないからである。「当然には甲建物の明渡しを求めることができない」のである。本肢は正しい。

[正解] 1



【問 3】 AはBにA所有の甲建物を令和2年7月1日に賃貸し、BはAの承諾を得てCに適法に甲建物を転貸し、Cが甲建物に居住している場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 Aは、Bとの間の賃貸借契約を合意解除した場合、解除の当時Bの債務不履行による解除権を有していたとしても、合意解除したことをもってCに対抗することはできない。

 Cの用法違反によって甲建物に損害が生じた場合、AはBに対して、甲建物の返還を受けた時から1年以内に損害賠償を請求しなければならない。

 AがDに甲建物を売却した場合、AD間で特段の合意をしない限り、賃貸人の地位はDに移転する。

 BがAに約定の賃料を支払わない場合、Cは、Bの債務の範囲を限度として、Aに対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負い、Bに賃料を前払いしたことをもってAに対抗することはできない。 (令和2年12月問6)

解説&正解
【1】[合意解除と債務不履行]*613条3項
 適法な転貸借があった場合は、賃貸借が合意解除されても、この解除をもって転借人に対抗することはできない。
 しかし、解除の当時、賃貸人Aが「賃借人Bの債務不履行による解除権を有していた」ときは、合意解除をもって転貸人Cに対抗することができる。賃借人に債務不履行があるのに解除できないとすることは、賃貸人の解除権を不当に奪うこととなるからである。本肢は誤り。

【2】[損害賠償請求請の期間制限]*600条
 転借人Cによる転借物の用法違反によって甲建物に損害が生じた場合、賃貸人Aは、賃借人Bに対して損害賠償請求ができる。この請求は、賃借物の「返還を受けた時から1年以内」にしなければならない。本肢は正しい。

【3】[賃貸人たる地位の移転]*605条の2
 甲建物が売却された場合に、甲建物の賃借権が対抗要件を備えているときは、賃貸人Aと譲受人Dとの間で「特段の合意(Aに賃貸人たる地位を留保したままにするとの合意)をしない限り」、Aの「賃貸人の地位」は当然にDに移転する。本肢は正しい。
  転借人Cが「甲建物に居住している(引渡しがある)」ことで、賃借人Bの甲建物賃借権は対抗要件を備えていることになる(借地借家31条)

【4】[転借人の直接履行義務]*613条1項
 適法な転貸借の場合、転借人Cは、賃借人「Bの債務の範囲を限度」に、賃貸人Aに対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う立場にあるので、Bが、Aに賃料を支払わないときは、CはAに賃料を支払わなければならず、「Bに賃料を前払いしたことをもってAに対抗することはできない」。本肢は正しい。

[正解] 1



【問 4】 建物の賃貸借契約が期間満了により終了した場合における次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。なお、賃貸借契約は、令和2年7月1日付けで締結され、原状回復義務について特段の合意はないものとする。

 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合、通常の使用及び収益によって生じた損耗も含めてその損傷を原状に復する義務を負う。

 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合、賃借人の帰責事由の有無にかかわらず、その損傷を原状に復する義務を負う。

 賃借人から敷金の返還請求を受けた賃貸人は、賃貸物の返還を受けるまでは、これを拒むことができる。

 賃借人は、未払賃料債務がある場合、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てるよう請求することができる。 (令和2年問4)

解説&正解
【1】[原状回復義務]*最判平17.12.16
 賃借人は「賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷」があれば、契約終了時における賃借物の返還に際して「その損傷を原状に復する義務(原状回復義務)を負う」。
 ただし「通常の使用及び収益によって生じた」通常損耗については原状回復義務はなく、その義務を負うためには特約が必要である。
 本問では「特段の合意はない」ので、「損耗も含めて……義務を負う」は誤り。

【2】[原状回復義務]*621条ただし書
 賃借人は「賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合」は、契約終了時に、損傷の原状回復義務を負う。しかし、損傷について賃借人に帰責事由がないときは、この義務は生じない。
 原状回復義務は「賃借人の帰責事由の有無にかかわる」のである。本肢は誤り。

【3】[敷金返還債務]*最判昭49.9.2
 賃貸人の「敷金返還債務」と賃借人の「賃貸物の返還」とは同時履行の関係にはなく、賃借人が先に賃貸物を返還しなければならない。
 敷金返還請求権は、契約終了後、賃貸物明渡し完了時に発生するので、明渡しが先履行となる。したがって、賃貸人は「賃貸物の返還を受けるまでは」敷金の返還を拒むことができる。本肢は正しい。

【4】[敷金による弁済の充当]*622条の2
 賃借人が賃料債務等を履行しないときは、「賃貸人」は敷金をその債務の弁済に充てることができるが、「賃借人」は敷金を未払賃料などの債務の弁済に充てるよう請求することはできない。これを認めると、賃借人は賃料の支払いを怠るおそれもあり、賃貸人が担保を失うこととなるからである。本肢は誤り。

[正解] 3



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