|公開日 2017.6.16

【平成8年 問3】の問題です。

【問 題】 Aの所有する土地について、AB間で、代金全額が支払われたときに所有権がAからBに移転する旨約定して締結された売買契約に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 AからBへの所有権移転登記が完了していない場合は、BがAに代金全額を支払った後であっても、契約の定めにかかわらず、Bは、Aに対して所有権の移転を主張することができない。

 BがAに代金全額を支払った後、AがBへの所有権移転登記を完了する前に死亡し、CがAを相続した場合、Bは、Cに対して所有権の移転を主張することができる。

 Aが、Bとの売買契約締結前に、Dとの間で本件土地を売却する契約を締結してDから代金全額を受領していた場合、AからDへの所有権移転登記が完了していなくても、Bは、Aから所有権を取得することはできない。

 EがAからこの土地を賃借して、建物を建てその登記をしている場合、BがAに代金全額を支払った後であれば、AからBへの所有権移転登記が完了していなくても、Bは、Eに対して所有権の移転を主張することができる。


[解説&正解]
この頃の問題は基本的な出題が多く、練習にはもってこいです。


【選択肢1】
(Aの所有する土地について、AB間で、代金全額が支払われたときに所有権がAからBに移転する旨約定して締結された売買契約において)、AからBへの所有権移転登記が完了していない場合は、BがAに代金全額を支払った後であっても、契約の定めにかかわらず、Bは、Aに対して所有権の移転を主張することができない。

(解 説)
民法上、A→Bへの所有権移転などの物権変動は、当事者AB間の契約だけで効力を生じ、また特約がない限り、所有権はこの契約のときに移転します。

本肢のように「代金全額が支払われたときに所有権が移転する」旨の約定がある場合には、買主Bが、約定どおり「代金全額を支払った」以上、所有権はBに移転しています。
したがってBは、「所有権移転登記が完了していない」場合でも、それとは関係なく、Aに対し当然に所有権の移転を主張することができます。
本肢は誤った記述です。

※ 176条は「物権の設定および移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と定めています。
これは、AとBが土地の売買契約をすれば、それだけで所有権が移転するということです。所有権が移転するために、代金支払いや物件引渡し、登記などは不要なのです。

しかし、代金も支払わず、登記も移転していないのに所有権が移転するというのは、取引の常識に反しますので、実際の取引界では、代金1/2の支払いと同時に所有権が移転するとか、登記手続と同時に移転するというように、特約で所有権移転時期を定めるのが通常です。

[テーマ] 所有権の移転時期
[条 文] 176条

………………………………………

【選択肢2】
(Aの所有する土地について、AB間で、代金全額が支払われたときに所有権がAからBに移転する旨約定して締結された売買契約において)、BがAに代金全額を支払った後、AがBへの所有権移転登記を完了する前に死亡し、CがAを相続した場合、Bは、Cに対して所有権の移転を主張することができる。

(解 説)
買主Bが「代金全額を支払った」以上、A所有地の所有権はBに移転していますから、Bは登記がなくても、売主Aの相続人Cに対して所有権移転を主張することができます。

不動産に関する物権変動は、その登記をしなければ第三者に対抗できないのですが、この「第三者」というのは、「物権変動の当事者およびその包括承継人」以外の者をいいます。
相続人Cは、被相続人Aの包括承継人として、契約当事者であるAの売主としての地位を承継しますから、そもそも「第三者」にはあたらないのです。
買主は、あたかも売主に対してと同様に、その相続人に対して所有権移転を主張することができます。
本肢は正しい記述です。

[テーマ] 177条の第三者の範囲――相続人
[条 文] 177条

………………………………………

【選択肢3】
(Aの所有する土地について、AB間で、代金全額が支払われたときに所有権がAからBに移転する旨約定して締結された売買契約において)、Aが、Bとの売買契約締結前に、Dとの間で本件土地を売却する契約を締結してDから代金全額を受領していた場合、AからDへの所有権移転登記が完了していなくても、Bは、Aから所有権を取得することはできない。

(解 説)
本肢は、A→D、A→Bへの典型的な二重譲渡の問題です。

対抗要件

177条は「不動産に関する物権変動は、その登記をしなければ第三者に対抗することができない」と定めていますが、この趣旨は、不動産物権変動は、その登記をしなければ、同一不動産について権利を主張する第三者に対抗することができないということです。

いいかえれば、不動産の二重譲渡があった場合、その権利関係の優劣は、登記の先後で決まるということなのです。

したがって、Dは、たとえ代金全額を支払っていても、「所有権移転登記が完了していない」のであれば、第三者Bに所有権取得を対抗できず、一方、Bは、Dより先に登記を備えてしまえば、Aから完全に所有権を取得することができます。
本肢は誤った記述です。

[テーマ] 二重譲渡と登記
[条 文] 177条

………………………………………

【選択肢4】
(Aの所有する土地について、AB間で、代金全額が支払われたときに所有権がAからBに移転する旨約定して締結された売買契約において)、EがAからこの土地を賃借して、建物を建てその登記をしている場合、BがAに代金全額を支払った後であれば、AからBへの所有権移転登記が完了していなくても、Bは、Eに対して所有権の移転を主張することができる。

(解 説)
Bが「代金全額を支払った」以上、約定どおり、土地所有権はBに移転していますが、所有権移転登記をしていませんから、第三者に対して土地所有権を対抗することはできません。

一方、A所有地の賃借人Eは、賃借地上に登記ある建物を所有しており、これをもって土地賃借権を第三者に対抗できますので(借地借家法10条1項)、結局Bは、対抗要件を備えたEに対して所有権の移転を主張することはできないのです(したがってまた、その賃貸人たる地位も主張できません)。
本肢は誤った記述です。

借地借家法が出てきますので、ちょっと難しかったかもしれませんね。
借地借家法による対抗要件はよく出題されますので、ここで確認しておきましょう。

[テーマ] 土地賃借権の対抗要件──建物登記
[条 文] 借地借家法10条1項
[判 例] 最判昭49.3.19

以上より、正解は[2]

………………………………………

[しっかり読んでおこう重要条文]

*176条(物権の設定および移転)
物権の設定および移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

*177条(不動産に関する物権変動の対抗要件)
不動産に関する物権の得喪および変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従い、その登記をしなければ第三者に対抗することができない

*借地借家法10条(借地権の対抗力)
1 借地権(土地賃借権、地上権)は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる



(この項終わり)