|公開日 2017.06.12
|更新日 2018.10.23


【平成21 問1】の問題です。

【問 題】 民法第95条本文は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。」と定めている。これに関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 意思表示をなすに当たり、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

 表意者自身において、その意思表示に瑕疵(かし)を認めず、民法第95条に基づく意思表示の無効を主張する意思がない場合は、第三者がその意思表示の無効を主張することはできない。

 意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容とし、かつ、その旨を相手方に明示的に表示した場合は、法律行為の要素となる。

 意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容としたが、その旨を相手方に黙示的に表示したにとどまる場合は、法律行為の要素とならない。


[解説&正解]

【選択肢1】
(民法第95条本文は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」と定めている)が、意思表示をなすに当たり、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

(解 説)
錯誤というのは、表意者の勘違い(錯誤)による意思表示を無効として、表意者を保護する制度ですが、すべての錯誤について無効とするのではなく、「法律行為の要素」に錯誤があったときに無効とされます。

しかしこの無効も、「表意者に重大な過失があったとき」は、表意者は、自らその無効を主張することができません。
不注意な錯誤を排除する趣旨ですね。
したがって、正しい記述です。

重大な過失というのは、ほんの少し注意すれば錯誤に陥らなかった程度の注意力をいいますが、この程度の注意もしなかった表意者は保護に値しないので、無効の主張を制限して相手方の利益(取引の安全)を保護しているわけです。

[テーマ] 要素の錯誤と重過失
[条 文] 95条

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【選択肢2】
(民法第95条本文は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」と定めている)が、表意者自身において、その意思表示に瑕疵(かし)を認めず、民法第95条に基づく意思表示の無効を主張する意思がない場合は、第三者がその意思表示の無効を主張することはできない。

(解 説)
そもそも錯誤による契約を無効としたのは、重大な勘違いをした表意者を保護するためですが、表意者自身が、錯誤による無効を主張する意思がない以上、原則として、自己の意思表示を有効として扱う意思と考えられ、したがって相手方や第三者から無効を主張することは許されないのです。

95条ただし書きには、『表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない』とありますので、表意者以外の者であれば主張できるかのように読めますね。

しかし、ただし書きの趣旨は、表意者に重過失があるときは表意者を保護する必要がないと考えているわけですから、相手方や第三者からも無効を主張することは許されない、結局、だれも無効を主張できないと解されているのです。

したがって、正しい記述です。少し難しいですね。

[テーマ] 第三者が無効を主張できるか
[判 例] 最判昭40.9.10

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【選択肢3】
(民法第95条本文は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」と定めている)が、意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容とし、かつ、その旨を相手方に明示的に表示した場合は、法律行為の要素となる。

(解 説)
動機の錯誤の問題ですね。
そもそも契約に至った動機は、本来相手方には表示されないものであるために、後になって相手方も知らなかった動機の錯誤をもちだして意思表示の無効を認めると、相手方は安心して取引をすることができず、取引の安全を害することになります。
相手方にしてみれば、「いまさらそんなことを言われても……」というわけです。

動機の錯誤について判例は、意思表示の動機に錯誤があっても、その動機が相手方に表示されなかったときは、法律行為の要素に錯誤があったものとはいえないとしています。

いいかえれば、動機が表示されて、相手方にもわかるように「意思表示の内容として表示」され、かつ、その旨を相手方に明示的に表示した場合に、法律行為の要素に錯誤があったとして無効となることがあるのです。
動機の表示・非表示(隠された動機と表示された動機)を区別して、相手方の利益との調和を図ったんですね。
本肢は正しい記述です。

※ たとえば、「A不動産」と表示して「A不動産」を買った場合には錯誤はありませんが、「課税物件ではない」と勘違いして「A不動産」を購入した後に、実は「課税物件だった」という場合には、動機に錯誤があったことになります。

[テーマ] 動機の錯誤は錯誤といえるか
[判 例] 最判昭29.11.26

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【選択肢4】
(民法第95条本文は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」と定めている)が、意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容としたが、その旨を相手方に黙示的に表示したにとどまる場合は、法律行為の要素とならない。

(解 説)
比較的新しいこの判例では、動機を意思表示の内容とした場合、その動機が「黙示的に表示」されているときであっても、法律行為の内容となることを妨げるものではないとしています。
本肢は誤った記述です。

[テーマ] 動機が錯誤になる場合
[判 例] 最判平1.9.14

以上より、正解は[4]

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[しっかり読んでおこう重要条文]

*95条(錯誤)
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない


(この項終わり)