|公開日 2017.06.15
|更新日 2018.10.23


【平成8年 問2】の問題です。

【問 題】 Aが、Bの代理人として、Cとの間でB所有の土地の売買契約を締結した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 AがBから土地売買の代理権を与えられていた場合で、所有権移転登記の申請についてCの同意があったとき、Aは、B及びC双方の代理人として登記の申請をすることができる。

 AがBから抵当権設定の代理権を与えられ、土地の登記識別情報、実印、印鑑証明書の交付を受けていた場合で、CがBC間の売買契約についてAに代理権ありと過失なく信じたとき、Cは、Bに対して土地の引渡しを求めることができる。

 Aが、Bから土地売買の代理権を与えられ、CをだましてBC間の売買契約を締結した場合は、Bが詐欺の事実を知っていたと否とにかかわらず、Cは、Bに対して売買契約を取り消すことができる。

 Aが、Bから土地売買の委任状を受領した後、破産手続開始の決定を受けたのに、Cに当該委任状を示して売買契約を締結した場合、Cは、Aが破産手続開始の決定を受けたことを知っていたときでも、Bに対して土地の引渡しを求めることができる。


[解説&正解]
代理について正確に理解しているかどうか、広い範囲からいろいろな知識が問われている総合的な問題です。

【選択肢1】
(Aが、Bの代理人として、Cとの間でB所有の土地の売買契約を締結した場合において)、AがBから土地売買の代理権を与えられており、所有権移転登記の申請についてCの同意があったときは、Aは、B及びC双方の代理人として登記の申請をすることができる。

(解 説)
本肢は双方代理についての出題ですが、どの点が双方代理なのかピンとこないかもしれませんね。図を書いてみましょう。

双方代理

同一人が当事者双方(B・C)の代理人となる双方代理は、事実上代理人1人が契約することとなり、これは当事者双方の利益を害するおそれがあるため禁止されています。これが原則。ただし『本人があらかじめ許諾した行為』については、例外的に双方代理が認められています(無権代理とはならない)。

さて、所有権移転登記の申請について、相手方「Cの同意」はあるのですが、本人Bの同意はどうでしょう。
この点は、土地売買の代理権にはもともと登記申請の権限も含まれているので、Bの同意は当然にあるわけです。
したがって代理人Aは、B・C双方の代理人として登記申請することができます。
本肢は正しい記述です。

[テーマ] 双方代理と登記申請
[条 文] 108条
[判 例] 最判昭43.3.8

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【選択肢2】
(Aが、Bの代理人として、Cとの間でB所有の土地の売買契約を締結した場合において)、AがBから抵当権設定の代理権を与えられ、土地の登記識別情報、実印、印鑑証明書の交付を受けていて、CがBC間の売買契約についてAに代理権ありと過失なく信じたときは、Cは、Bに対して土地の引渡しを求めることができる。

(解 説)
「抵当権設定」の代理権しかない代理人Aに、「売買契約」の代理権あり(権限外)と相手方Cが「過失なく信じたとき」(善意・無過失のとき)には、この権限外の行為についてBC間に表見代理が成立し、有効な代理行為となります。
したがって、Cは、本人Bに対して土地の引渡しを求めることができます。
本肢は正しい記述です。

[テーマ] 権限外の行為の表見代理
[条 文] 110条

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【選択肢3】
(Aが、Bの代理人として、Cとの間でB所有の土地の売買契約を締結した場合において)、Aが、Bから土地売買の代理権を与えられ、CをだましてBC間の売買契約を締結したときは、Bが詐欺の事実を知っていたと否とにかかわらず、Cは、Bに対して売買契約を取り消すことができる。

(解 説)
代理人が詐欺を受けたのではなく、代理人が詐欺をした場合の問題で、「第三者の詐欺」と混同しやすいですね。

代理人は、本人のために行為をする地位にあるので、そもそも第三者とはいえず、代理人のした詐欺は、いわゆる第三者の詐欺とはなりません。

いいかえれば、代理人Aの詐欺=本人Bの詐欺といえるため、相手方Cは常に、つまり代理人による詐欺の事実を本人が「知っていたと否とにかかわらず」、代理人の詐欺を理由に売買契約を取り消すことができます。
本肢は正しい記述です。

※ 第三者の詐欺の場合とは違い、「Bが詐欺の事実を知っているとき(悪意)に限って、相手方Cは意思表示を取り消すことができる」ということにはならないのです。
ちょっと、ややこしいですね。

[テーマ] 代理人による詐欺
[条 文] 96条1項

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【選択肢4】
(Aが、Bの代理人として、Cとの間でB所有の土地の売買契約を締結した場合において)、Aが、Bから土地売買の委任状を受領した後、破産手続開始の決定を受けたのに、Cに当該委任状を示して売買契約を締結した場合、Cは、Aが破産手続開始の決定を受けたことを知っていたときでも、Bに対して土地の引渡しを求めることができる。

(解 説)
本肢は、代理権消滅後に行われた代理行為に関する問題です

代理人が「破産手続開始の決定」を受けると、代理権は消滅します。
代理権が消滅したのに、かつての代理人が代理行為をしたときはどうなるのでしょうか。

代理権消滅後の行為であっても、代理権消滅について相手方Cが善意・無過失のときは、表見代理が成立し、有効な代理行為となります。
本肢の場合、Cは、Aが破産手続開始の決定を受けたことを「知っていた」、つまり悪意なので表見代理は成立せず、Bに土地引渡しを求めることはできません。
本肢は誤った記述です。

※ 表見代理は取引の相手方を保護する制度なのですが、相手方が保護されるためには、善意・無過失であることが原則です。
表見代理制度に限らず、民法によって保護されるためには、原則として善意かつ無過失であることが要件とされている点に注意しましょう。

[テーマ] 代理権消滅後の表見代理
[条 文] 111条1項2号、112条

以上より、正解は[4]

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[しっかり読んでおこう重要条文]

*108条(自己契約、双方代理)
同一の法律行為については、相手方の代理人となり、または当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行および本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

*110条(権限外の行為の表見代理)
代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときは、代理権を与えた者はその責任を負う。

*111条(代理権の消滅事由)
1 代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人の死亡
二 代理人の死亡、または代理人が破産手続開始の決定あるいは後見開始の審判を受けたこと。

*112条(代理権消滅後の表見代理)
代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。


(この項終わり)