|公開日 2017.7.15

[今回のテーマ]
よく出題される物権変動と登記の論点について確認しておきましょう。

1 取消による物権変動と登記

1 取消前の第三者──登記ではなく、取消の効果の問題である

Aが「制限行為能力」や「強迫」を理由に売買を取り消した場合、登記がCに移転していても、Aは登記なしに、取消の効果を第三者Cに主張できます。

そもそも、取消によって生じる物権変動をあらかじめ登記させることは不可能ですし、また、登記がないと対抗できないとすると、制限行為能力や強迫を理由とする取消は、意味がなくなるからです。

ただし、Aが「詐欺」を理由に取り消した場合には、その取消は善意の第三者に対抗できないため(96条3項)、Cが善意であれば、Cには取消の効果を対抗できません。

これは登記の問題ではなく、取消の効果(善意の第三者保護)の問題なのです。
ただ、善意の第三者Cが保護されるためには、登記を必要とするかという点について、判例は、登記のない善意の第三者を保護しました(最判昭44.5.27)。

2 取消後の第三者──登記の問題で、登記の先後で決まる

この場合は登記の問題で、権利取得の優劣は登記の先後で決まります。
Aが、AB間の売買を取り消した後は、その登記がなければ、取消後に所有権を取得した第三者Cに対抗できません。

契約が取り消された場合には──、
 ① 取消によるB→Aの所有権復帰と、
 ② 取消後のB→Cへの譲渡とは、
二重譲渡の関係が成立し、先に登記を備えた方が優先します。

  取消と登記

2 契約の解除と登記

解除の場合にも、取消と類似した問題が生じます。

1 解除前の第三者──解除の遡及効の問題である

  解除と登記

Aが、Bの債務不履行を理由にAB間の契約を解除しても、Aは、解除による所有権復帰を第三者Cに対抗できません。

たとえば、買主Bの代金不払いを理由に契約が解除されると、解除の効果として、契約は「はじめにさかのぼって」消滅しますので(解除の遡及効)、契約は最初から存在しなかったのと同じ状態に戻ります。

そうすると、解除前に権利を取得した第三者Cも、はじめから権利を取得しなかったこととなって、まったく責任がないのに権利を失うことになります。

そこで民法は、解除をしても「第三者の権利を害することはできない」(545条1項但書)と定めて解除の遡及効を制限し、第三者を保護したのです。
この場合、判例は、Cには「対抗要件として登記が必要」としており、これは確定した判例です(最判昭58.7.5)。

2 解除後の第三者──登記の問題で、登記の先後で決まる

Aの解除後に、第三者Cが現れた場合──、
 ① 解除によるB→Aの所有権復帰と、
 ② 解除後のB→Cへの所有権移転とは、
二重譲渡と同様に、その優劣は登記の先後で決定されます(最判昭35.11.29)。

Aは契約を解除しても、解除による所有権復帰の登記をしない間に、解除後のCが先に登記を備えてしまえば、Cに所有権を対抗できません。

3 時効と登記

1 所有者との関係──当事者間の問題である

A所有地の占有者Bが、時効取得の要件を満たせば、Bは登記がなくても、原権利者Aに対して、所有権取得を主張して移転登記の請求ができます。
Aは物権変動の「当事者」であって、「第三者」ではないからです。

2 時効完成前の第三者──当事者間の問題である

Bの取得時効完成前に、土地がA→Cに譲渡され移転登記もなされた場合で、その後、Bの時効が完成した場合にも、Bは、登記なくしてCに対抗できます。


Cは、時効による物権変動の「当事者」であって、やはり「第三者」ではないからです。当事者の交代にすぎず、Cに登記があってもなくても、関係ありません。

3 時効完成後の第三者──登記の問題で、登記の先後で決まる

Bの取得時効完成後に、A→Cの譲渡があった場合には、
 ① 時効取得者Bと
 ② 時効完成後の第三者Cとは、
二重譲渡と同様に、その優劣は登記の先後によって決まり、先に登記を備えた方が完全な所有者となります。

Bは、所有権を時効取得しても、その登記をしなければ、時効完成後に登記を備えた第三者Cに所有権を対抗できません。

4 相続による物権変動と登記

A・Bが、共有持分各1/2で共同相続した場合で、Aが単独相続の登記をし、これを第三者Cに譲渡して移転登記もすませたという場合、Bは、自分の1/2の持分をCに対抗するために、登記が必要でしょうか。

Bに登記は不要です。

Aが勝手に単独名義で登記しても、Aの登記は、Bの持分に関する限り「無権利の登記」であって、登記に公信力がない結果、Cも、Bの持分に関する限り、その権利を取得することはできません。

一方、Aからその「共有持分」を譲り受けたCは、その譲渡について登記がない限り、共有者Bに対して、共有持分の取得を対抗できません。
したがって、共有物の分割請求ができないことになります。

Aが、自己の「共有持分」をCに譲渡した場合、一方の共有者Bは、177条の「第三者」にあたるのです。

5 物権変動の無効と登記

1 契約が法令違反や公序良俗違反のため無効である場合

はじめから物権変動が生じることはないので、無効の行為を通じて第三者Cが登記を備えても、真の権利者Aは、登記なしにCに対抗できます。

2 錯誤によって無効となる場合

そもそも、物権は移転していないのですから、物権の「復帰」ということはありえず、したがって、無効主張の時期に関係なく、表意者Aは登記なしに第三者Cに対抗できます。

3 虚偽表示によって無効となる場合

Aは、虚偽表示の無効をもって、善意の第三者Cに対抗できない結果、Cは、Bから完全に所有権を取得します。Cに登記は必要ありません。

6 ポイントまとめ

1 ポイントまとめ

1 取消と登記
① 「制限行為能力」や「強迫」を理由に取り消した場合
取消の効果は、登記がなくても、取消し前の第三者に対抗できる。
取消後の第三者との優劣は、登記で決まる。
② 「詐欺」による取消の場合
取消の効果は、善意の第三者に対抗できない。
取消後の第三者との優劣は、登記で決まる。

2 解除と登記
① 解除前の第三者
登記を備えた第三者に対して、解除による物権復帰を対抗できない。
登記を備えない第三者に対抗するためには、解除権者は、物権復帰の登記を必要とする。
② 解除後の第三者──登記で決まる。

3 時効と登記
① 時効完成前の第三者
時効取得者は、登記なくして、時効完成前に権利者となった第三者に対抗できる。第三者の登記の有無は関係ない。
② 時効完成後の第三者──登記で決まる。

4 相続と登記
① 相続により物権を取得した者は、登記なくして、自己の相続分を第三者に対抗できる。
② 遺産分割による持分を対抗するためには、登記を必要とする。

5 無効と登記
① 「法令違反」「公序良俗違反」「錯誤」により無効の場合
はじめから物権変動は生じないから、無効の行為を通じて第三者が登記を備えても、権利者は登記なくして、その第三者に対抗できる。
② 「虚偽表示」により無効の場合
虚偽表示の無効は、善意の第三者に対抗できない結果、第三者は、登記がなくても完全に所有権を取得する。


(この項終わり)