|公開日 2017.7.14

[今回のテーマ]
■取得時効、消滅時効の成立要件
■占有の諸形態

1 取得時効

取得時効の対象となる権利としては、所有権が最も重要です。
ほかに、地上権、永小作権、地役権などの用益物権(他人の土地を利用する物権)も時効によって取得されます。

また、債権である不動産賃借権の取得時効も認められています(最判昭43.10.8)。

1 所有権の取得時効の要件──占有

所有権の取得時効は、一定の要件を備えた占有が一定期間継続することによって完成します。次のような占有であることが必要です。

1 占有が自主占有であること
占有というのは、ある物がその人の事実上の支配下・管理下にあると認められることです。

所有権を時効取得するための占有は、所有の意思をもってする占有、つまり、所有者としてする占有であることが必要です。
これを自主占有といいます。
所有者として使用したり耕作したり、あるいは他人に貸して地代を取っているなどの場合がこれにあたります。

借主のように、他人の所有権を認めつつ物を支配する占有(他主占有といいます)は、いくら長期間継続しても、所有権を時効取得することはありません。

所有の意思があるかどうかは、本人の主観的な意思とは関係なく、占有の態様・種類によって客観的に決まります。
たとえば、賃借人が占有するときは、賃借の意思はあっても所有の意思はないので、賃借人が賃借権に基づいて土地を20年間占有しても、時効によって所有権を取得することはできません。

2 占有が平穏・公然であること
暴力で奪った占有であったり、密かに取得した占有でないことが必要です。

3 占有が継続すること
占有は、時効期間中継続することが必要です。
占有者が任意に占有を中止したり、他人に占有を奪われたときは、時効は中断します。
ただし、他人に奪われても、直ちに「占有回収の訴え」によって占有を回復すれば、占有状態は継続します。

4 占有の承継(占有の選択)
占有は、売買、贈与、相続等によって承継されますから、前占有者の占有と自己の占有との関係が問題となります。
民法は次のように定めました。

占有を承継した者は、その選択に従い──
① 「自己の占有」だけを主張してもいいし、または、
② 「自己の占有」に加えて、「前占有者の占有」をあわせて主張してもかまいません。ただし、この場合には、前占有者の瑕疵(悪意や過失)もともに承継することになります。

占有の選択ができるのは、承継人は、一方で前占有者の占有を継続するという面と、他方で自ら新しく占有を取得する、という2つの面をもっているからです。
たとえば、前占有者が悪意で8年占有した後、これを譲り受けて善意で11年占有した者は、19年間の占有を主張できるし、あるいは11年間の占有を主張することもできるのです。
ただし、19年を主張するときは、前占有者の悪意という瑕疵を伴った占有となります。

・占有の選択は、売買、贈与などのような特定承継だけでなく、相続のような包括承継にも認められます。
つまり、相続人が善意であれば、被相続人(前占有者)の悪意占有と切り離して、自分の善意占有だけを主張できます。

・悪意で占有を始めた者から、売買等によって占有を承継した者が、承継時に善意であれば、その時から善意の占有となります。

・占有の承継人が善意無過失であるかどうかは、 前占有者の占有開始の時点において判断されます。
したがって、前占有者が善意無過失であれば、悪意の承継人もまた、善意無過失とされます。

2 所有権の取得時効の要件──時効期間

取得時効の時効期間は、占有開始時に──
1 善意かつ無過失のときは10年(善意占有)
2 悪意または善意有過失のときは20年(悪意占有)です。

善意とは、占有物が自分の所有に属すると信じることであり、無過失とは、善意であることについて過失がないことです。
※ 不動産取引で、登記簿を調査しないのは過失とされます。

占有者の善意無過失は、占有開始時において判断されますので、この時に善意無過失であれば、「のちに悪意に変わっても」善意占有のままで、悪意占有に変わることはありません。

たとえば、A所有地の占有者Bが、この土地を自己所有のものと過失なく信じて占有を開始したところ、3年後に実はA所有のものであることを知ったとしても、Bは、占有開始時から10年間の善意占有で、土地所有権を時効取得できます。

3 取得時効の効果──原始取得である

時効が完成し、援用されると、占有者は時効期間の最初にさかのぼって所有権を取得します。その結果、本来の権利者は、自己の権利を喪失します。

権利者から時効取得者へ権利が移転するのではない、つまり承継取得ではないのです。新権利者は、前権利者のもとで存在した制限に一切拘束されません。
これを権利の原始取得といいます。

4 所有権の取得時効と登記

物権変動の「対抗要件」として問題となるところですから、物権編で学習します。

2 消滅時効

1 消滅時効にかかる権利

消滅時効にかかる権利で、重要なのは債権です。
物権では、地上権・永小作権・地役権が消滅時効にかかり、また、抵当権は「一定の関係者の範囲」で、独自に消滅時効にかかります。

なお、所有権は消滅時効にかかりません。
そのため所有権に基づく「物権的請求権」も消滅時効にかかりません。
所有権絶対の思想の表れです。

※ 物権的請求権というのは、たとえば土地が不法に占拠された場合、土地の所有者は、不法占拠者に対して、所有権を主張するとともに、所有権に基づく妨害排除請求権を行使できますが、この請求権のことをいいます。

2 債権の消滅時効の起算点

消滅時効は「権利を行使できるのにこれを行使しない」という状態が一定期間継続することによって完成しますから、消滅時効の起算点は、権利を行使できる時から進行します。

債権についていえば、「債務の履行を求めることができる時」から進行することになります。具体的には──、

1 確定期限の定めがあるとき  → 確定期限到来の時から進行

2 不確定期限の定めがあるとき → 不確定期限到来の時から進行
期限の到来を債権者が知っていなくても、関係なく進行します。
時効における事実状態は客観的なものであり、債権者の知・不知という主観によって左右されることはないのです。
この点は、後で学習する履行遅滞とは異なることに注意してください。

3 期限の定めがないとき → 債権成立の時から進行
債権者は、いつでも履行を請求できるからです。
ただし、返済期限を定めない消費貸借の場合、たとえば、金銭貸借の場合には、貸主は相当の期間を定めて返還を求める(権利を行使する)ことができるとされていますから、消滅時効は、消費貸借契約成立の時から相当の期間を経過した時から進行します。

4 停止条件が付されているとき → 条件成就の時から進行

3 消滅時効期間

1 債権は、原則10年で消滅します。
ただし、債権の種類により、これより短い短期消滅時効にかかる債権もあります。短期間で決済する取引慣行を考慮したのです。

2 債権以外の財産権は、20年です。

3 条文とポイントまとめ

1 条文の確認

■162条(所有権の取得時効)
1 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ過失がなかったときは、その所有権を取得する。

■166条(消滅時効の進行)
1 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。

■167条(債権等の消滅時効)
1 債権は、10年間行使しないときは、消滅する。
2 債権または所有権以外の財産権は、20年間行使しないときは、消滅する。

■174条の2(判決で確定した権利の消滅時効)
1 確定判決によって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10年とする。

■187条(占有の承継)
1 占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、または自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
2 前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。

2 ポイントまとめ

1 所有権の取得時効
自主占有でなければ、所有権を時効取得することはできない。

2 占有者の善意無過失
占有者の善意無過失は、占有開始時において判断される。
この時に善意無過失であれば、のちに悪意に変わっても善意占有のままで、悪意占有に変わることはない。

3 占有の承継その1
売買、相続などによって占有を承継した者は、
① 自己の占有だけを主張してもいいし、または、
② 自己の占有に、前占有者の占有をあわせて主張してもよい。
 この場合には、前占有者の瑕疵(悪意や過失)も承継する。

4 占有の承継その2
占有の承継人が善意無過失であるかどうかは、前占有者の占有開始の時点において判断される。前占有者が善意無過失であれば、承継人が悪意であっても、善意無過失を承継する。

5 消滅時効
所有権は消滅時効にかからない。所有権に基づく物権的請求権も消滅時効にかからない。

6 債権の消滅時効の起算点
① 確定期限の定めがある債権  → 期限到来の時から進行
② 不確定期限の定めがある債権 → 期限到来の時から進行
③ 期限の定めがない債権    → 債権成立の時から進行
ただし、返済期限を定めない消費貸借の場合、消滅時効は、消費貸借成立の時から相当の期間を経過した時から進行する。
④ 停止条件が付されている債権 → 条件成就の時から進行


(この項終わり)