|公開日 2017.9.29

[今回のテーマ]
■事業執行の範囲
■使用者と被用者の責任の関係
■被用者に対する求償権

1 使用者責任の内容

使用者責任については、715条1項で次のように定めていますので、まずこれを読んでみましょう。

「ある事業のために他人(被用者)を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
 ただし、使用者が被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」

これは、使用者が被用者の活動によって利益をあげる関係にあることに着目して、「利益の存するところに損失をも帰せしめる」という見地から、被用者が使用者の事業活動を行うについて他人に損害を加えた場合には、使用者も被用者と同じ内容の責任を負うべきだとしたのです。

1 事業執行の範囲──外形理論

使用者責任については、その根拠についていろいろ議論がありますが、要するに、事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について、第三者に加えた損害の賠償責任を負わなければならないというものです。

「事業の執行について」というのは、被用者の職務行為そのものには属さなくても、「行為の外形から判断して、広く被用者の職務の範囲内に属する」ものと認められる場合を含み、必ずしも担当業務を適正に執行する場合だけを指すものではありません(最判昭40.11.30)。

被用者が、使用者に「無断」で運転していたときでも、事業の執行について生じたものと解され、使用者に損害賠償責任が発生することになります。

2 被用者の不法行為

使用者に、715条に基づく使用者責任が成立するためには、その前提として、被用者自身について709条による不法行為が成立することが要件です。

使用者は、被用者の起こした不法行為について、使用者としての責任を負うものですから、被用者の不法行為責任が成立しない場合には、そもそも使用者の使用者責任は成立しないのです。

3 使用者と被用者の責任の関係──不真正連帯債務

使用者責任が成立する場合には、常に被用者にも不法行為が成立しており、この場合、使用者と被用者の双方が、被害者に対して全額の賠償義務を負うことになります。

使用者が責任を負うからといって、「被用者が自己の不法行為責任を免れるものではない」のです。そして、どちらかが賠償金を支払えば、その限りで免責されますので、両者の賠償債務は「連帯債務」の関係にあります。

ただし、この「連帯債務」は、民法が定めている真正の「連帯債務」ではなく、「不真正」連帯債務とされています。

不真正連帯債務    
民法が定める「連帯債務」では、債務者の1人に対して請求したり、1人について消滅時効が完成したり、相殺、免除などの事由が生じたときには、ほかの連帯債務者にも同じようにその効力が生じました(絶対的効力)。

これらの絶対的事由を不法行為の場合にもそのまま適用してしまうと、その分、債権としての効力が弱くなり、被害者(債権者)にとっては不利に働いてしまいます。

しかし、そもそも不法行為者に有利な地位を認める理由はないのですから、とくに不法行為などの「被害者を確実に救済する」必要がある場合には、損害賠償債権の効力を強め、弁済に相当する事由以外には、絶対的効力を認めない連帯債務(いわば相対的効力の連帯債務)が必要だと考えられたのです。

民法が定めている真正の連帯債務ではないという意味で、これを「不真正連帯債務」と呼びます。

したがって、「被用者」の損害賠償債務が消滅時効にかかったときでも、「使用者」の損害賠償債務はその影響を受けず、時効消滅することはありませんから、被害者の権利をより強く保護することができるというわけです。

4 使用者責任の免責

使用者は、被用者の不法行為について、常に責任を負うわけではありません。
使用者について、次の事由があるときは免責されます。

 ① 被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき、または、
 ② 相当の注意をしても損害が生じたこと

これらを証明すれば、責任を負わなくてもいいのです。

5 被害者の方に悪意・重過失があったら?

事業の執行についてにつき被用者に職務権限がないことを、被害者が知っていたとき、または重大な過失によって知らなかったときは、使用者は使用者責任を負いません。

この点について、【判例】は次のようにいっています。
「行為の外形からみて事業の範囲内と認められる場合でも、その行為が被用者の職務権限内において適法に行なわれたものでなく、かつ、相手方(被害者)がこの事情を知りながら、または、重大な過失によりこの事情を知らないで、当該取引をしたときは、その行為にもとづく損害は、715条にいう『被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害』とはいえない」(最判昭42.11.2)。

6 被用者に対する求償権

従業員が、業務遂行中に第三者に不法行為による損害を与えた場合には、使用者は、その損害を賠償しなければなりませんが、その従業員に対して求償することができます。

使用者が使用者責任を負うとしても、本来の不法行為責任は、加害者である被用者自身にあり、その責任が免除されるわけではないのです。

ただし、損害賠償の全額を求償できるものではありません。
この点について、【判例】は「損害の公平な分担という見地から、信義側上相当と認められる限度で求償できる」として、使用者の求償権を制限しています。

被用者は企業活動の一部として活動しており、それを通して使用者が多大な利益を上げていることや、企業活動に伴う危険性などを考慮したのです。

ところで、被用者に求償するためには、被用者は重過失であることを要するでしょうか。

使用者責任は、被用者の不法行為を基礎として成立していますから、被用者に不法行為の成立要件としての故意・過失があればよく、その過失は重過失である必要はありません。
被用者に故意または重大な過失がなくても、過失(軽過失)があれば、使用者は、被用者に求償することができます。

2 条文とポイントまとめ

1 ポイントまとめ

1 事業執行の範囲──外形理論
使用者責任が成立するには、被用者が「事業の執行について」損害を加えた場合でなければならない。事業の執行についてというのは、被用者の職務行為そのものには属さないが、その行為の外形から判断して、あたかも被用者の職務の範囲内に属するものと認められる場合を含む。

2 不真正連帯債務
使用者と被用者は、いずれも被害者に対して全額の賠償義務を負う関係に立つが、双方は不真正連帯債務を負うから、弁済に相当する事由以外(時効や相殺など)は互いに影響を及ぼさない。

3 使用者責任の免責
使用者は、被用者の選任・監督につき相当の注意をしたこと、または、相当の注意をしても損害が生じたことを証明すれば責任を免れる。

4 使用者の求償権──被用者の故意・過失
被用者に求償するためには、被用者に故意または過失があればよく、その過失は、重過失である必要はない。

5 使用者の求償権の範囲
被用者に対する求償権は、損害の公平な分担という見地から、信義則上相当と認められる限度に制限される。

6 被害者の悪意・重過失
被用者の行為が職務権限外であることを、被害者が知っているか、または、重大な過失によって知らなかったときは、使用者責任を負わない。 

2 条文の確認

■715条(使用者等の責任)
1 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者または監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない


(この項終わり)