|公開日 2017.7.3

今回のテーマは、心裡留保です。
心裡留保は「しんりりゅうほ」と読みます。
民法は今から121年前の明治29年にできた法律ですが、昔の学者はこういう言葉を普通に使っていたんですね。

さて何が問題かというと、「心裡留保による契約は有効なのか無効なのか」ということです。ここでその理由を正確に理解しておきましょう。

1 心裡留保による契約は有効か

1 心裡留保の意味

心裡留保という用語自体は条文には存在しません。
該当する条文(93条)にはこう書いてあります。
「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。」

真意ではないことを知ってする意思表示」、これが心裡留保です。
意思表示をする表意者自身が「自分の真意ではないと知りながらする意思表示」で、真意を「心の裡(うち)に留保」(=心裡留保)して、「真意とは別なことを表示する」という意味です。

試験でも「心裡留保」という用語は使われずに、「その意思表示は真意ではない」とか、「売る意思がないのに売買契約をした」とか、「自分の真意ではないと認識しながら売却の意思表示を行った」というように使われています。
条文の字句どおりに出題されていることに注意しておきましょう。

心裡留保は、日常的に使われている用語ではありませんが、内容は簡単です。
自分が真意と違う表示をする、つまり「うそを言う」わけです。

たとえば、自分が、意思(真意)がない、本当はそうは思っていないにもかかわらず、持っている新品の20万円のマックPCを5万円で売ってやろう、と言います。

そういう意思表示を受けた相手が、これは安い、じゃあ買うよ、とこう言った場合に、いや実は5万円で売るつもりで言ったんじゃない、あれはうそだから意思表示は効力がない、無効だ、あなたが承諾しても契約は成立しない──そういう主張ができるのか、できないのかが問題なのです。

 心裡留保

2 効果その1──原則は有効

先ほどの93条にはこう書いてありましたね。
「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。」

「効力を妨げられない」というのは、表意者の表示どおりの効果を生じる、つまり有効ということです。

表意者が、自分の真意でないことを知って行った意思表示は有効とされ、表示どおりの効果が生じます。
「売ろう」という表示は有効ですから、これに対して「買う」と承諾して結んだ売買契約も有効となるわけです。「冗談だから、あの話はなかったことにしよう」とは言えないのです。
買主としてはこのほうが断然いいですよね。

「真意ではない」のにどうして有効なのでしょうか?

心裡留保では「表示」に対応する「真意」が存在しないのですから、意思表示としては無効のはずですが、民法がこれを有効としたのは、「表示」を信じた相手方を保護して取引の安全を図ったのです。

契約が成立した後に、都合が悪くなれば「あれはうそだった、冗談だった」という主張を認めて無効としたのでは、相手方は「表示」を信頼して取引することができませんからね。
学者はこれを「嘘つきを保護する必要なし」といいます。

※ 「表示」を信頼した相手方(あるいは第三者)を保護して「取引の安全を図る」という考え方が、実は資本主義経済を支え発展させてきた原動力といえる理論なのです。

3 効果その2──例外的に無効

93条は続いて「ただし、相手方が表意者の真意を知り、または知ることができたときは、その意思表示は、無効とする」と定めています。

相手方が、表意者の真意を「知っているとき」は無効、つまり、Aは5万円で売る意思はないんだ、ということをBが知っているのであれば、無効とされます。
事情を知っている場合には、とくにBを保護する必要はないわけですから、無効としても問題はないのです。

また相手方が、表意者の真意を「知ることができたとき」も無効とされます。
「知ることができた」というのは、普通の社会一般人がする程度の注意をしていれば、本当は売ろうとは思っていない、20万円もする新品のマックPCを5万円で売るなんてうそなんだ、ということを知ることができたという意味です。

それなのにうっかり本当だと信じてしまった場合をいいます。
こうしたあまりにも不注意すぎるBは保護する必要はありませんから、無効としたんですね。

結局のところ、心裡留保は、相手方が善意無過失のときに限り有効となります。


■条文を確認しておこう

*93条(心裡留保)
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない(=有効)。
ただし、相手方が表意者の真意を知りまたは知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

■ポイントまとめ

(原則)心裡留保は有効である。
(例外)ただし、相手方が悪意のとき、または善意有過失のときは、無効。

■民法用語

[善意、悪意]
非常に重要な用語です。日常用語でいう善良な心とか道徳心のことではありません。
善意とは「その事情を知らなかったこと」
悪意とは「その事情を知っていたこと」をいいます。

そして、「知らなかったけれども、それは不注意だった。もう少し注意すれば知ることができた」ということを「善意だが過失があった=善意有過失」といい、「知らなかったけれども、不注意はなかった。相当の注意をしても知ることはできなかった」ということを「善意だが過失はなかった=善意無過失」といいます。

民法は、これらの「主観的な事情」に応じて異なった扱いをしますので注意が必要です。善意は保護して、悪意は保護しないというのが、民法の基本的な態度です。


(この項終わり)