|公開日 2017.7.5

[今回のテーマ]
■錯誤ある契約は有効? 無効? 取り消せる?
■要素の錯誤って?
■動機の錯誤は、錯誤といえるの?

1 うっかりミスった契約は有効か

1 錯誤の意味と効果

錯誤というのは、要するに「勘違い」「思い違い」ということです。
値段や数量を間違ったり、人違いなどによって意思表示や契約をすることです。
勘違いなんて、けっこう日常茶飯事ではありませんか?

はたして、思い違いによって「売る」「買う」などの意思表示をした場合に、その意思表示・契約は有効なのでしょうか。それがここでの論点です。

錯誤も、心裡留保や虚偽表示と同じように、「意思(真意)」と「表示」が一致していませんが、心裡留保や虚偽表示ではこの不一致を表意者本人が知っているのに対し、錯誤の場合は、この不一致を表意者本人が知らないことです。

錯誤には、人についての錯誤(人違い)、物の性質・数量・価格等についての錯誤など、いろいろな種類・パターンがありますが、試験で重要なのは「要素の錯誤」と「動機の錯誤」です。

2 要素に錯誤があったら?


 錯誤

AはBに売るつもりが、人違いでDに土地を売ってしまったという場合、Aとしては、契約を「無効にしてほしい」ところですが、簡単に無効にすると、相手方Dが困ります。Dは銀行と相談して資金計画を立てたのかもしれません。

Aは人違いと「知らずに」契約したのですから、落度があるとはいえ、Aを保護する必要もありますが、同時にDの立場も考える必要があります。

問題解決の標準マニュアルである条文はどのように対応しているでしょうか。

95条は「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」としています。

単純に無効とするのではなく、法律行為(契約)の「要素に錯誤」があった場合だけ、意思表示を無効としているのです。

法律行為の要素というのは、法律行為の「重要な部分」をいい、要素の錯誤というのは、この重要部分についてその「錯誤がなかったら、本人も一般人もその意思表示はしなかっただろう」と考えられるほどの錯誤をいいます。

価格とか面積とか数量など、契約の重要な部分に錯誤がある場合に、その契約を有効として本人に効力を及ぼすのは気の毒ですから、ここは本人保護のために無効としたのです。

しかし、ささいな部分に錯誤があった場合にまで、無効の主張を認めて本人を保護したのでは、相手方は安心して取引できませんから、「要素」という制限を設けて、表意者本人と相手方の利益のバランスを図ったというわけです。

3 表意者に重大な過失があったら?

ただし、たとえ「要素の錯誤」であっても、表意者に重大な過失(重過失)があるとき、つまり著しく注意を欠くときは、表意者は自身の錯誤を主張することができません。

95条後半では「ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない」とクギを刺しています。

もともと錯誤の制度は、錯誤した表意者本人を保護する制度なのですが、取引の相手方を犠牲にしてまで、あまりに不注意な重過失の表意者を保護する必要はないからです。
「重過失がない」ことを要件とすることによって、相手方の利益とのバランスをとったんですね。

したがって、表意者が錯誤無効を主張するには、
 ① 要素の錯誤であること
 ② 重大な過失がないこと
の2要件が必要となります。

*重過失と軽過失
重過失というのは、一般人として普通に払うべき注意を著しく欠くこと、つまり「わずかな注意さえも払わなかった」ことをいいます。
一般人として相当程度の注意義務を果たした過失(軽過失)とは区別されます。

民法で過失というときは軽過失のことで、軽過失について責任を負うというのが民法の原則です(過失責任主義)。

4 動機の錯誤は錯誤なの?──いまさらそんなことを言われても

 
 「内心に秘められた動機」と「相手方に表示された動機」

動機の錯誤というのは、その意思表示をするに至った「動機」とか「理由」に錯誤がある場合です。たとえば、新幹線が開通する予定地と誤信し、値上がりを期待して土地を買ったところ、開通予定地ではなかったというような場合です。

「新幹線開通予定地だから」「かならず値上がりするから」という「動機」で、土地を買うのです。
この場合、「この土地を買う」という「意思」で、「この土地を買う」と「表示」したのですから、「意思」と「表示」の不一致はなく、したがって、意思表示自体に錯誤は生じていないのです。
意思表示をする動機に錯誤があったからといって、問題はないように思えるのです。

しかも通常は、意思表示をするに至った「動機」は、内心に秘められていて表示されない場合が多いために、内心の動機に錯誤があるからといって常に無効を認めてしまうと、相手方に予想外の損害を与え取引の安全を害します。
「いまさらそんなことを言われても……」というわけです。

ところが、実際上も判例上も問題となるのは、圧倒的に「動機の錯誤」が多いのです。この点を軽視して、「動機の錯誤にすぎない」「意思表示自体に錯誤はない」とするのは、あまりに不当ではないかと考えられるようになり、その結果、一つの解決策が考え出されました。

つまり、動機が「表示」された場合には、動機も法律行為の内容になり、したがって「錯誤として扱う」ことができるということにしたのです。

動機が相手方に表示されているのであれば、相手方も法律行為の内容として認識しているわけですから、利益を不当に害されることもないので、錯誤を認めても問題はないのですね。
契約書作成などの交渉段階において、「予定地だから買う」という「動機が表示」されていれば、実際にはそうでなかった場合に、錯誤を理由に意思表示が無効となりえます。

したがって、相手方に表示されなかった動機は、法律行為の要素の錯誤となる余地はなくなります。
「動機の錯誤は、表示された場合にのみ錯誤となりうる」のです。

なお判例は、動機を意思表示の内容とした場合、その動機が「黙示的に表示」されているときであってもよいとしています(最判平1.9.14)。

※ 動機の錯誤で問題とする「動機」というのは、主に「物の性質や状態」について評価を誤ったという種類のものをいいます。
「靴をなくしたから」新しいのを買うというような動機は、ここでいう動機ではありませんから、表示の有無に関係なく錯誤は成立しません。後で、靴が見つかったから錯誤だ、とはいえないわけです。

5 もう一歩前進してみよう

 相手方や第三者のほうから無効を主張できるか

この点に関する判例をみておきましょう。

1 表意者に重過失があって無効を主張できないときは、相手方も第三者も無効を主張できません。
錯誤無効の主張は、表意者保護のためですから、表意者が無効を主張できない以上、相手方等が無効を援用するのは、制度の趣旨に反するのです(最判昭40.6.4)。

2 表意者自身が、意思表示に何らの瑕疵も認めず、錯誤を理由として意思表示の「無効を主張する意思がないとき」は、相手方・第三者も無効を主張できません(最判昭40.9.10)。

3 表意者が「錯誤を認めているとき」は、表意者が無効を主張する意思がなくても、相手方・第三者は意思表示の無効を主張できます(最判昭45.3.26)。

* 2と3は、表意者が、錯誤があることを認めているか、認めていないかの違いです。

2 条文とポイントまとめ

1 条文の確認

*95条(錯誤)
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない

2 ポイントまとめ

1 法律行為の要素に錯誤がある意思表示は、無効である。
2 要素の錯誤であっても、表意者に重過失があるときは、表意者みずからは、その無効を主張できない。
3 動機の錯誤は、動機が表示された場合には意思表示の内容となり、したがって、法律行為の要素の錯誤となりうる。
4 動機の表示は、黙示的であってもよい。


(この項終わり)