|公開日 2017.7.10

[今回のテーマ]
■狭義の無権代理
■表見代理との関係
■相続と無権代理

1 狭義の無権代理

狭義の無権代理というのは、まったく代理権のない者が、代理行為を行う場合です。
いわば、本人の知らないところで、代理人と称する者が代理行為をしたわけで、さすがに本人にそのまま責任を負わせることはできません。

「表見代理」とはならない「狭義の無権代理」では、本人を犠牲にしてまで相手方の利益を優先させることは適切ではないので、当然には本人に対してどのような効果も生じません。まず、ここを押さえましょう。

ところで、無権代理行為は、いまだ効果を生じない状態、つまり「有効とも無効とも確定しない状態」にあります。この未確定状態を「確定」できるのは、「本人」と「相手方」です。

そのため──、
 ・本人には、追認権、追認拒絶権
 ・相手方には、催告権、取消権が与えられています。

本人が追認すれば有効なものとして確定し、追認を拒絶すれば無効なものとして確定します。相手方が取り消せば、無効なものとして確定します。

本人、相手方、無権代理人の立場は、次のようになります。

1 本人は何ができるか──追認権、追認拒絶権

本人は、無権代理行為によってどのような法律効果も受けませんが、これを追認して、代理権があってなされたと同様の効果を生じさせることもできます。
無権代理行為といっても、全部が全部、本人に不利益なものとは限らないからです。

たとえば、息子が親の代理人と称して、親の土地を売却した場合に、意外と高く売れたので、親がこの無権代理行為を追認する場合などです。

 追認はだれにする?
追認をする相手方は、無権代理人でも、相手方でもかまいません。

 追認したらどうなる?
無権代理行為は、有効か無効か未確定の状態にありますが、本人が追認すると、契約の時にさかのぼって効力を生じ、はじめから有効な代理行為として確定します。

 追認を拒絶したらどうなる?
勝手に代理行為をされたのですから、本人としては追認を拒絶して、無権代理の効果が自分に及ばないようにすることができます。
追認を拒絶すれば、無権代理行為は、無効なものとして確定します。

2 相手方は何ができるか──催告権と取消権で救済

相手方は、本人の「追認」があれば、無権代理行為は本人に対して効力を生じ、「追認がなければ」効力を生じないという不安定な状態におかれます。
そこで、こうした相手方を救済するため、相手方に催告権と取消権が与えられています。

 催告権──どっちか早く決めてくれ!
本人に対して、相当の期間を定めて、その期間内に「無権代理行為を追認するかどうか」を確答するよう催告ができます。
この催告に対し、本人が確答しないときは、追認を拒絶したものとみなされ、無権代理行為は無効なものとして確定します。

この催告権は、無権代理人に権限がないことを知っていた悪意の相手方にもある、ということに注意してください。悪意であっても、最小限、催告権による保護は与えてもいいとされたのです。

 取消権──こんな契約、こっちからさよならだ
本人が追認すると、無権代理行為は有効な代理行為として確定します。
したがって、取消は、必ず本人の追認がない間にする必要があります。

相手方は善意・無過失であっても、本人が無権代理行為を追認してしまえば、もう取り消すことができなくなります。そして、取消もまた無権代理行為を確定的に無効にする行為ですから、取消があると、本人はもう追認できなくなるのです。
ただし、相手方が悪意のとき、つまり、無権代理であることを知っていたときは、この取消権はありません。

3 無権代理人の責任──こいつが一番悪い!

無権代理人には重い責任が課せられています。けしからん奴ですから、当然でしょう。
これは、代理制度に対する社会的信用の維持と取引の安全確保を図るために認められた特別の責任です。

その内容は、無権代理人が、代理権を証明できず、かつ、本人の追認がないときは、善意・無過失の相手方は、無権代理人に対して、契約の履行請求または損害賠償請求をすることができる、というものです。
次の1~3が要件、4が責任の内容です。

1 本人が追認しないこと──本人が追認すれば、相手方は期待どおりの効果を収めることができますから、無権代理人の責任は問われません。

2 相手方が善意・無過失であること──代理人と称する者の代理権がないことを知らず、かつ、知らないことについて過失がないこと。

3 無権代理人が行為能力者であること──制限行為能力者に重い責任を負わせるのは、適当とはいえないでしょう(※ 代理人は制限行為能力者でもよい、ということと混同しないように)。

4 責任の内容──無権代理人は、相手方の選択に従って、履行責任か損害賠償責任を負います。
履行責任というのは、その無権代理行為が、無権代理人自身と相手方との間に成立したのと同じ責任を負うということです。
損害賠償の範囲は、履行の代わりとなる全損害に及びます。

4 表見代理と狭義の無権代理の関係

表見代理が成立する場合にも、相手方は無権代理人の責任を選択して追及することができます。
判例はこの点について、両者は互いに独立した制度であり、相手方は、表見代理の主張をしないで、直ちに無権代理人に対し117条の責任を追及することができ、無権代理人は表見代理の成立要件を主張立証して自己の責任を免れることはできない、としています(最判昭62.7.7)。

つまり、相手方は自由に──、
1 本人に表見代理の主張をすることもできますし、これを主張せずに、
2 無権代理人に履行責任または損害賠償責任を追及することができるわけです。
表見代理も無権代理の一種ですから、表見代理の規定と狭義の無権代理の規定が競合的に適用されるのです。

2 相続と無権代理行為

相続によって、無権代理人の地位と本人の地位が同一人に帰属した場合の問題です。

1 本人死亡の場合

たとえば、本人Aの子Bが無権代理人として、Aの財産を処分した後に、Aの死亡によってこれを相続したような場合です。

  無権代理|本人を相続

1 単独相続
本人が死亡して、無権代理人が本人を単独相続する(または他の相続人が相続放棄して単独相続となる)場合について、判例は「本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上に地位を生じたもの」として、当然に有効になるとしています(最判昭40.6.18)。

無権代理人には、①相続による本人としての資格と、②無権代理人としての資格が併存しており、相手方から「本人の資格」での追認を求められたときには、「信義則上」追認を拒絶できないのです。

というのも、無権代理として「本人に効果が帰属する」として行為した以上、同一人がいまさら無権代理であったとして追認を拒絶することは矛盾する行為だからです。

2 共同相続
無権代理人が他の相続人と共同相続した場合について、判例は「無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するのであって、全員が共同して行使する必要があるとして、共同の追認がない限り、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効とはなるものではない」としています(最判平5.1.21)。

2 無権代理人死亡の場合

たとえば、Aの子Bが無権代理人として、Aの財産を処分した後に、無権代理人Bが死亡し、本人AがBを相続したような場合です。

  無権代理人を相続

本人が無権代理人を相続した場合、本人が自分の資格で被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、信義則に反するところはなく、相続によって無権代理行為が当然に有効となるものではありません。
しかし、本人は、追認を拒絶できる地位にあるからといっても、相続により無権代理人の責任も承継しますから、相手方が善意・無過失であれば、本人に対して、①履行請求か、②損害賠償請求をすることができます(最判昭48.7.3)。

追認拒絶できる地位にあることを理由に、この責任を免れることはできないのです。

3 条文とポイントまとめ

1 条文の確認

■113条(無権代理)
1 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2 追認またはその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

■114条(無権代理の相手方の催告権)
113条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。
この場合に、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。

■115条(無権代理の相手方の取消権)
代理権を有しない者がした契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができる。
ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りでない。

■116条(無権代理行為の追認)
追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

■117条(無権代理人の責任)
1 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行または損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、もしくは過失によって知らなかったとき、または他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

2 ポイントまとめ

 狭義の無権代理について、本人には、追認権または追認拒絶権、相手方には、催告権および取消権が与えられている。

 無権代理行為は、本人が追認すると、契約の時にさかのぼって効力を生じ、はじめから有効な代理行為として確定する。

 追認を拒絶すれば、無権代理行為は、無効なものとして確定する。

 相手方は、本人に対して、相当の期間を定めて、無権代理行為を追認するかどうかを確答するよう催告ができる。確答がないときは、追認拒絶とみなされ、無権代理行為は無効なものとして確定する。

 本人が追認をしない間は、善意・無過失の相手方は、無権代理行為を取り消すことができる。

 悪意の相手方には、取消権はない。

 無権代理人が代理権を証明できず、かつ、本人の追認がないときは、善意・無過失の相手方は、無権代理人に対して、契約の履行請求または損害賠償請求をすることができる。

 相手方は、本人に表見代理の主張をすることもできるし、これを主張せずに、無権代理人に履行責任または損害賠償責任を追及することができる。

 本人が死亡して、無権代理人が単独相続した場合、無権代理人は、信義則上、追認を拒絶できない。

10 無権代理人が死亡して、本人が相続した場合、本人に対して、履行請求か損害賠償請求をすることができる。


(この項終わり)