|公開日 2017.7.12

[今回のテーマ]
■時効制度の存在意義を理解しよう
■時効の効果の起算点

1 時効の意味

「貸した10万円そろそろ返してほしいんだけど……」
「えっ! いつ借りたっけ?」
「10年前だけど……」
「10年前? そんなの時効、時効」

人の土地に家を建てて自分の土地のように堂々と使っていれば、10年あるいは20年経つと、時効によって自分のものとして所有権を取得することになります。

また、借金の返済期限がきているのに、涼しい顔をして返さず、貸した方も請求しないままに10年過ぎると、借金は時効によって消滅します。
うまく逃げ回った者が得をするような気がしますね。

時効は「一定の事実状態が継続した場合」に、たとえば、ある人が所有者であるような事実状態とか、借金をしていないなどのような事実状態が継続した場合に、この事実状態が「真実の権利関係」と一致しているかどうかを問わずに(はたして真実の所有者であるかどうか、本当に借金をしていないかどうかということに関係なく)、「継続した事実状態」をそのまま「権利関係」と認めて、真の所有者や債権があっても、その主張を許さないという制度なのです。

簡単にいえば、所有権や債権など一定の権利について、占有(家を建てて住むなど)とか権利不行使という事実状態が一定期間継続した場合に、この事実状態に即して「新たな権利関係を形成する制度」なのです。

時効には、
1 事実上権利者であるような状態を継続する者に権利を取得させる取得時効
2 権利不行使の状態を継続する者の権利を消滅させる消滅時効
の2つがあります。

2 時効制度が存在するワケ──悪用もやむをえない?

時効は「真実の権利関係よりも事実関係を優先させる制度」ですが、どうしてこんな制度があるのでしょうか? 真実の権利関係を無視していいのでしょうか?
時効は、いわば不道徳を法が認めることになり、不合理な制度ではないかという疑問が出てきますね。

時効制度が認められる理由は、主に3つあります。

1 法律関係の安定を図る──主に取得時効

長期間継続した事実状態をもとの真実の権利関係に引き戻すことは、その事実状態の上に築き上げられた今までの法律関係をすべてくつがえすことになり、法律関係の安定を妨げることになります。
むしろ、そのまま尊重した方が正当だと考えられる場合があるのです。

2 立証の困難を除去する──主に消滅時効

借金は10年前に返済したということを、後日になって証明するのは非常に困難です。
立証の困難を救済するために、時効によって新たな法律関係を認め、これを法定証拠として裁判をするのが適切な場合があります。
もし時効制度がなかったとしたら、領収書は永久保存しなければなりませんね。

3 権利の上に眠る者は保護に値しない──主に消滅時効

権利を有しながら長期間それを行使しない者は、「権利の上に眠っている者」として、法の保護を受けるに値しないとされます。

時効制度を悪用して、多額の借金をすべて帳消しにしてやろうとする人が出てくるのは、やむをえないことです。どのような制度も悪用する人を根絶することはできません。
悪用による弊害よりも、時効による意義がより大きければ、やはり制度として定着させておくことが望ましいのです。

時効制度は、ローマ時代から今日まで2000年以上にわたって存在してきました。
やはり合理的な存在理由があって、時効制度を認めないと困るからなのです。

3 時効の効果──起算日にさかのぼる

時効が完成すると、その効果として権利を取得したり、権利が消滅しますが、この効果は時効期間の最初の時、つまり、起算日にさかのぼります。
この効力を遡及効(そきゅうこう)といいます。

そもそも時効は、一定期間継続した事実状態をそのまま権利として保護する制度ですから、これは当然ですね。遡及効を認めなければ趣旨が一貫しないわけです。

20年間所有者として使用してきた土地を時効取得する者は、20年前の最初から所有者となるのであって、20年後にはじめて所有者となるのではありません。
したがって、時効によって取得された権利を時効期間中に侵害した者は、原権利者に対してではなく、時効取得者に対して不法行為責任を負うことになります。

 時効制度

B時点で時効が完成すれば、占有が始まったA時点から所有者になるのであって、B時点から所有者になるのではありません。
これが、時効の効力が起算日にさかのぼるということです。

※ 遡及効
法律効果が最初(起算点)にさかのぼって生じることをいいます。
法的安定性を害することになるために、原則として認められませんが、民法では各所に出てきます。

民法が遡及効を認めたのは、それぞれに理由があります。
主なものをあげておきましょう。

・無権代理行為の追認(116条)
別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生じます。

・取消(121条)
取り消された行為は、はじめから無効であったものとみなされます。

・時効(144条)
時効の効力は、その起算日にさかのぼります。

・相殺(506条2項)
双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生じます。

・契約解除の効果(545条1項)
解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負うことになります。


(この項終わり)