|公開日 2017.7.12

[今回のテーマ]
■時効の援用権者
■時効利益の放棄

1 時効の援用と援用権者

1 時効の援用

時効の援用というのは、時効によって利益を受ける者が、「時効の利益を受ける」という意思を表示して、時効の成立を主張することです。

たとえば、裁判で、債務の返済を求められた債務者が「消滅時効が完成しているので、債権者の請求棄却を求める」というように、実際に時効の利益を受けようとすることです。

時効による権利の取得・消滅が完全な効力を生じるためには、この援用(主張)がなければなりません。
つまり、「時効によって所有権を取得した」とか、「時効によって借金は消滅した」というふうに時効を援用しないと、権利の取得・消滅という効果は生じないのです。

援用するかしないかは、時効によって利益を受ける者の「自由な意思」に任せられているのです。
借金が時効によってなくなったのに、「いや、払います」というように、時効によって利益を受けることをいさぎよしとしない人に、時効の効果を押しつけることは適切ではないからです。その人の道徳心を尊重したのです。

このように時効は、当事者が援用しなければ、裁判所も職権によって時効による権利の変動を考慮して裁判をすることはできません。
 

2 時効の援用権者

時効を援用できる者は、時効によって所有権を取得した者や債務を免れた者のような「当事者」のほか、時効により「直接に利益を受ける者」です。

「時効により直接に利益を受ける者」は、次のとおりです。

1 取得時効

① 地上権者、抵当権者
たとえば、Aの所有地を時効によって取得するBから、地上権、抵当権などの設定を受けたCは、Bの取得時効の援用権があります。
Bが取得時効を援用しない場合、Bは所有権を取得しませんが、Cは独自にBの取得時効を援用して、Aの所有地上に、地上権、抵当権などを有することになります。

② なお、「建物の賃借人」については次のような判例があります。
「Xの甲土地上に乙建物を所有するAから乙建物を賃借しているBは、Aの甲土地に対する所有権の取得時効を援用できない(最判昭44.7.15)」。

2 消滅時効

① 連帯債務者
連帯債務者の1人Aについて消滅時効が完成すると、他の連帯債務者B・Cも、Aの負担部分について債務を免れますから(439条)、「直接の当事者」として援用権があります。

② 保証人、連帯保証人
保証人は、主たる債務の消滅時効を援用できます(大判大4.7.13)。
連帯保証人も、自己の債務について消滅時効が中断された場合でも、主たる債務の消滅時効を援用できます(大判昭7.6.21)。

※ 金銭債権というのは、売買代金の支払いや、貸した金銭の返済を求めるというように、「金銭の支払い」を求める債権のことです。

③ 物上保証人
物上保証人は、その担保する被担保債権の消滅時効を援用することができます(最判昭42.10.27)。

物上保証人というのは、他人の債務のために自分の不動産の上に抵当権などの担保権を負担する者をいいます。
親が、子の借金のために、自分の土地に抵当権を設定するような場合です。

子が借金(債務)を返済できないときは、物上保証人である親は、自己の不動産が競売されることを覚悟しなければなりません。
つまり、借金があるか消滅しているかは、親にとって重大な利益を有しており、時効により直接に利益を受ける立場にあるといえますので、子の借金の消滅時効について、援用権を有します。

※ 物上保証人は、債務者の債務が弁済されないときは抵当権が実行され、自分の財産が競売されるという点で「責任」は負うのですが、自分で「債務」を負担するものではありません(債務なき責任)。
そのため、債権者は物上保証人に対して、訴えを起こしたり、その一般財産に対して執行することはできず、この点で保証人とは異なっています。

④ 抵当不動産の第三取得者
抵当権のついた不動産を取得した第三取得者は、抵当権が担保している債務の消滅時効を援用して、抵当権を消滅させることができます(最判昭48.12.14)。

債務が消滅すれば、それを担保する抵当権も附従性により当然に消滅します(担保物権の附従性)ので、抵当不動産の第三取得者は、時効によって直接に利益を受ける立場にあるのです。
 時効の援用

⑤ 後順位抵当権者
なお、判例は、後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できないとしています(最判平11.10.21)。

2 時効利益の放棄──あらかじめ放棄できるか

146条は、「時効の利益は、あらかじめ放棄することができない」と規定しています。
 
時効の利益を放棄するというのは、「時効の利益を受けない」という意思を表示することですが、時効制度は、民法が定めた公的な法秩序ですから、時効完成前に事前放棄を認めると、時効によって消滅する権利は存在しなくなり、時効制度そのものを否定することになるからです。

実際上も、債権者が債務者を強制して時効の利益を放棄させるような弊害も予想されますので、時効利益の放棄は、すでに完成した時効についてだけ認められます。

なお、判例は、時効完成後に債務者により債務の承認がなされた場合には、時効完成の「知・不知にかかわらず」、債務者は消滅時効の援用権を失うとしています(最判昭41.4.20)。
債務の承認により、債権者は弁済に対する正当な期待をもち、債務の存在も明らかになるからとされています。

3 条文とポイントまとめ

1 条文の確認

■145条(時効の援用)
時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

■146条(時効の利益の放棄)
時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。

2 ポイントまとめ

1 時効の援用権者
 ① 地上権者、抵当権者
 ② 連帯債務者、保証人、連帯保証人
 ③ 物上保証人
 ④ 抵当不動産の第三取得者

2 時効利益の放棄
 ① 時効完成前に、時効の利益を放棄することはできない。
 ② 時効完成後の債務承認は、債務者の知・不知に関係なく、援用権を失う。


(この項終わり)