|公開日 2017.7.8

[今回のテーマ]
■表見代理の3つのタイプ
■表見代理の要件とその効果

1 無権代理の2つの類型──表見代理と狭義の無権代理

無権代理というのは、代理権がないのに「代理行為として行われた行為」をいいます。
代理権がない状態で行われたわけですから、本人に対して効果が生じることはありません。

また「代理意思」をもってなされた行為ですから、代理人に対しても効果を生じません。
結局、無権代理行為は代理行為とはならず、「無効となるべき性質」のものなのです。

したがって、相手方としては、無権代理人に対して「不法行為責任」を追及するほかありません。しかし、無権代理行為をすべて「不法行為」として処理することは、代理権がないことを知らないで取引した相手方の保護としては、決して十分ではありません。

代理権があるかどうか、その範囲はどこまでかなどについて、相手方としては、簡単にかつ正確に知ることはむつかしい場合が多いからです。
そこで、民法は、無権代理行為を当然には「無効」と決めつけずに、次の2つのパターンに分けました。

(1)本人と無権代理人との間に、代理権の存在を信じさせるだけの特別な事情がある場合には、通常の代理行為(有権代理)として、本人に責任を負わせることにした。
(2)そうでない場合には、無効として、無権代理人に特別の責任を負わせることにした。

(1)を表見代理、(2)を狭義の無権代理(第13回で解説)といいます。

2 表見代理

表見代理の制度は、いわゆる「権利外観法理」によって根拠づけられています。
つまり、「権利(ここでは代理権)は不存在であるが、外観上はあたかも権利が存在しているかのようにみえる場合において、その存在を信じて取引関係に立った者はその信頼において保護され、信頼どおりの効果が生ずべきだ」という考え方です。

しかし反面では、これにより不利益を受ける者(ここでは本人)は、無条件にその責任を負担すべきいわれはないわけですから、「責任を負わされても仕方がないという帰責事由」が存在する場合に限られます。

表見代理では、この信頼と帰責があいまって特別の責任が認められているのです。

民法は表見代理について、3か条を用意していますが、これらは代理権存在の外観に対する本人のかかわり方(特別な事情)の違いによるものです。
本人と無権代理人との間に、代理権の存在を信じさせるだけの「特別な事情」は次の3通りがあります。

(1)代理権授与の表示による表見代理(代理権の存在を推測させる)

(2)権限外の行為の表見代理(もともと一定の代理権はある)

(3)代理権消滅後の表見代理(かつて代理権があった)

これらの表見代理は、取引の相手方保護のために「真実な代理行為」として扱われ、代理権が存在したのと同様の責任を本人に負わせるものです。
本人は、その行為が「代理権なく行われた」ことを理由にして無権代理であることを主張できず、通常の代理行為と同じように、その効果(権利の取得、義務の負担)を受けることになります。

たとえば──、
(1)本人Aが、相手方Cに対して、Bに代理権を与えた旨を表示した場合、「実際には代理権を与えていなかった」としても、Cが善意・無過失のときは、表見代理が成立し、AC間の契約は有効となります。

(2)代理人が「抵当権設定」の代理権の範囲を越えて「売買契約」を締結したような場合、相手方が善意・無過失あれば、表見代理が成立し、有効な代理行為となります。

(3)代理人が破産手続開始の決定を受ければ、代理権は消滅しますが、その消滅について相手方が善意・無過失であれば、表見代理が成立し、代理行為は有効となります。

※ なお、表見代理となったために、本人に損害が生じた場合、本人は無権代理人に対して、不法行為または債務不履行を理由に損害賠償を請求することができます。

それぞれの表見代理が成立する「要件」について、確認しておきましょう。

1 代理権授与の表示による表見代理

109条はこのように規定しています。
「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。」
 *「他人」というのは「表見代理人」のことです。

1 意 味
「代理権を与えたと表示しながら、実は代理権を与えていなかった」という場合です。

たとえば──、
① Aが、新聞公告でBを集金の代理人とした旨を「表示」したが、実は何かの事情によって代理権を授与していなかった、
② Bが、Cに対して自分の名義を「表示」して工事することを許容していた、
というような場合です。

2 要 件
この表見代理が成立するには、次の要件が必要です。

① 本人について
本人が、相手方・第三者に対して、ある人に「代理権を与えた旨の表示」をすること。
 ・白紙委任状を交付することは、その所持者に「代理権を与えた旨を表示」することになります。
 ・本人Aが、Bを代理人とする旨の「新聞広告を出す」ことは、「代理権を与えた旨を表示」したことになります。

② 代理人について
代理人として表示された者(表見代理人)が、その「代理権の範囲内」で代理行為をすること。
 ・範囲を超えたときは「権限外の行為の表見代理」が適用されます。

③ 相手方について
代理権の存在について善意・無過失であること。この要件は非常に重要で、3つの表見代理すべてに共通です。
相手方が、代理権がないことを知っていたり(悪意)、または、注意すれば代理権がないことを知ることができたような場合(善意であるが過失あり)、相手方は保護に値しないからです。

109条のただし書きには「ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、または過失によって知らなかったときは、この限りでない」としています。

2 権限外の行為の表見代理

110条は次のように規定しています。
「109条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。」
表見代理の中でも最も適用が多い規定です。

1 意 味
多少の範囲の代理権のある者が、その権限外の行為をすることです。いわゆる「越権行為」ですね。権限外の部分が無権代理となるわけです。

109条の表見代理との違いは、109条はそもそも代理権など全然ないのに、あるかのような外観があった場合の規定であるのに対し、110条は、一応代理権はあるが、それを超えたことをした場合であることです。

2 要 件
この表見代理が成立するには、次の要件が必要です。

① 代理人について
権限外の行為であること。
つまり、その行為については代理権はないが、ほかに「何らかの代理権」(基本代理権といいます)をもっていることが必要です。

【判例】に現れた事例には、次のようなものがあります。
・「借財」の代理権を有する者が、委任状を改ざんして「不動産を売却」した。
・「登記申請手続」の代理権を与えられた者が、権限を越えて「取引行為」をした。
・家屋「賃貸」の代理権を有する者が、その家屋を「売却」した。

※ 「全然代理権がない」場合は、外見上どんなに代理行為らしくみえても、この表見代理は成立せず、本人について効力を生じません。
「本人の関与がまったくない」場合にまで表見代理を認めれば、今度は、本人の利益を害することになるからです。

② 相手方について
善意・無過失であること。
権限外の行為を「権限内の行為」であると信じ、しかも、そう信じることについて正当な理由がある場合でなければなりません。

・本人から、実印・印鑑証明書・委任状などを託された場合には、「正当な理由」があるとされます。
・夫婦の一方が他方の実印などを所持している場合には、必ずしも「正当な理由」があるとは限りません。

3 代理権消滅後の表見代理

112条の規定はこうなっています。
「代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。」

1 意 味
代理権が消滅したにもかかわらず、なお代理人として行為をした場合です。
たとえば、集金の代理人が解雇された後に、代理人として集金したような場合です。

2 要 件
この表見代理が成立するには、次の要件が必要です。

① 代理人について
代理人の代理権が消滅したこと、つまり以前に代理権を有していたことが必要です。
「はじめから」代理権を有していなかった場合には、この表見代理は成立しません。

② 相手方について
代理権の消滅について善意・無過失であること。

4 競合した場合──双方の表見代理が適用される

1 代理権授与の表示と権限外の行為が競合した場合
「代理権授与の表示」のある表見代理人が、その表示された代理権の範囲を越えて「範囲外」の代理行為をした場合です。

2 代理権消滅後と権限外の行為が競合した場合
「代理権消滅後」に、以前の代理権の範囲を越えて「範囲外」の代理行為をした場合です。

1、2ともに、競合した双方の表見代理が適用されます。

2 条文

1 条文の確認

■109条(代理権授与の表示による表見代理)
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。
ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、または過失によって知らなかったときは、この限りでない。

■110条(権限外の行為の表見代理)
109条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

■112条(代理権消滅後の表見代理)
代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。
ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。


(この項終わり)