|公開日 2017.9.27

[今回のテーマ]
■一般的な不法行為の原則

1 一般的不法行為

ビジネスマンのAさんが、マイカーによる家族旅行の途中で、不注意により運転を誤って通行人のBさんを負傷させたとか、あるいは、公園でバッティング練習をしていたAさんが誤って、近くにいたBさんに怪我をさせてしまったというような場合、Bさんは、Aさんの過失によって身体を負傷したとして、治療費などの損害賠償を請求することができます。

このように、故意または過失によって他人の権利・利益を侵害し損害を与えた利益侵害行為を不法行為といいます。

不法行為の社会的機能は非常に大きく、迷惑行為や喧嘩から交通事故、工事災害、医療事故、薬害、名誉毀損など、広い領域で重要な役割を果たしています。
マスコミでは毎日のように取りあげられていますね。

さて、不法行為について、709条は「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。

これは、不法行為を、
① 故意または過失に基づく人の行為によって生じるもの(過失責任主義)とし、
② その責任は行為者(加害者)本人が自ら負うのを原則とする、ということを示しています(自己責任の原則)。

「過失責任主義」というのは、故意または過失に基づいて他人の権利・利益を侵害して損害を与えた場合にのみ賠償責任を負うというもので、近代法の大原則です。

「自己責任の原則」というのは、人は自己の行為についてのみ責任を負い、他人の行為の結果について責任を負わされることはないというものです。

この2つの基本的な立場により、人は、自己の行為について注意を払ってさえいれば、他人に損害を与える結果を生じても、不法行為責任を負わされることはなく、その結果、活動の自由が最大限保障されてきたわけですが、一方、そのために被害者の救済が不十分なまま放置されるという結果をも生んできたのです。

原子力産業をはじめ、巨大な企業による業務災害、公害問題、環境問題、欠陥車問題など各種の危険から生じた損害は、もはや過失責任主義や自己責任の原則では規律することができなくなり、現在では、無過失責任主義や代位責任などの考え方でこの基本的な立場を修正しています。

たとえば、後でみる使用者責任(715条)は「利益の帰するところに損失もまた帰する」という思想を背景に、利益を上げる過程で他人に損害を与えた者は、その利益の中から賠償するのが公平であるとするもので、無過失責任の一種である「報償責任主義」を採用したものです。

また、土地工作物責任(717条)は「自ら危険を作りだした者は、その結果について責任を負うべきである」という「危険責任主義」を採用したものです。

このように、民法の規定する不法行為責任は、近代法の原則である過失責任主義を基礎とする場合と、新しく危険責任主義などの無過失責任論を加味した場合とに分けることができます。

前者を一般的不法行為(709条~714条)、後者を特殊的不法行為(715条~718条)といいます。

先ほど引用した709条の「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」という規定は、一般的不法行為を定めた基本的な条文です。

一般的な不法行為が成立するためには、

① 故意または過失があること
② 権利・利益が侵害されたこと
③ 行為者に責任能力があること
④ 加害行為と損害との間に因果関係があること

の要件を満たすことが必要です。

なお、ここでいう過失というのは、注意義務違反のことですが、これは本人の能力を基準にするのではなく、「一般標準人」を基準とした注意義務をいいます。
一般人として要求される程度の注意義務を欠くことを過失(軽過失)というわけです。


以下、宅建試験でとくに確認すべき点をまとめてみましょう。

1 権利侵害の例

(1) 生命侵害──死者自身の損害賠償請求権
判例は、即死の場合でも、負傷後数時間して死亡した場合でも、まず被害者(死者)自身に損害賠償請求権が発生し、それが相続人に承継されるとしています。
身体傷害の場合には、被害者自身が損害賠償請求権を取得するのに、最も重大な法益である生命侵害にそれが認められないのは、均衡を欠くからとしています。

※ この立場に対しては、人は死亡によって権利主体ではなくなるのであるから、死亡による損害賠償請求権が発生するというのは民法体系に反しており、重大な難点であるとの批判もあります。

(2) 精神的損害に対する慰謝料請求権
財産以外の損害(名誉・プライバシーなどの精神的損害)を受けた被害者は、財産権が侵害された場合と同様に、損害の発生と同時に、その損害賠償を請求する権利、つまり慰藉料請求権を取得します。

また、生命を侵害された被害者と一定の身分関係にある者、つまり「配偶者・子・父母」は、被害者の取得する慰謝料請求権とは別に、被害者の死亡による自己の精神上の苦痛について、自己の権利として固有の慰謝料請求権を取得します。

(3) 慰謝料請求権の相続
慰謝料請求権は、これを放棄したと解される特別の事情がない限り行使できるのであって、賠償を請求する意思を表明するなど格別の行為を必要としません。

したがって被害者が死亡したときは、その慰藉料請求権も、被害者が生前に「請求の意思」を表示したか否かに関係なく、相続人は当然に慰藉料請求権を相続します(最判昭42.11.1)。
また判例は、慰謝料請求権は、被害者の請求の意思表示を必要とするものではないから、被害者が「即死」の場合であっても、相続人は慰藉料請求権を相続するとしています。

2 不法行為債務の履行期限

不法行為によって生じた損害賠償請求権は、いつから履行遅滞になるのでしょうか。

・不法行為があった時からでしょうか、それとも
・被害者が請求した時からでしょうか。

不法行為に基づく損害賠償債務は、被害者による催告がなくても、損害の発生と同時に当然に履行遅滞となります(最判昭37.9.4)。
催告を要しないのです。

被害者の利益を考えてのことだということはおわかりですね。
したがって、被害者は、不法行為の成立時以後の「遅延損害金」も請求できることになります。

3 損害賠償請求権の短期消滅時効

不法行為によって生じた損害賠償請求権は、いつ消滅時効にかかるのでしょうか。

損害賠償請求権は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定めるとされていますが(417条)、もともと金銭債権の消滅時効は、原則10年間と定められています。

しかし、不法行為による損害賠償請求権については、
① 被害者(またはその法定代理人)が、損害および加害者を「知った時」から3年間行使しないとき、または、
② 不法行為の時から20年を経過したときは、時効によって消滅します。

若干の注意点をあげておきましょう。

① 被害者が損害を「知った時」というのは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいいます(最判平14.1.29)。

② 遅延損害金債権の時効消滅
不法行為による損害賠償請求権は、不法行為の時から遅滞になるので、遅延損害金債権も同時に遅滞になります。
損害賠償請求権と遅延損害金債権とは別個の債権ですが、ともに同一事由から発生しており緊密に関連しているので、遅延損害金債権についても724条が適用され、一般債権の10年ではなく、被害者(またはその法定代理人)が損害および加害者を「知った時から3年」で時効消滅します(大判昭11.7.15)。

③ 継続的不法行為による損害の消滅時効
不法占拠のような継続的不法行為については、損害が継続して発生している限り、日々新たな損害が発生しているので、日々発生する損害を知った時から「別個」に消滅時効が進行します(大連判昭15.12.14)。
判例は、かつては「一括して消滅時効が進行する」としていましたが……。

4 不法行為債権に対する相殺と不法行為債権による相殺

相殺の講義でも学習しましたが、再確認しておきましょう。

被害者Bの債権が、Aの不法行為によって発生した損害賠償請求権であるときは、加害者Aは、Bに対して代金債権をもっていても、この代金債権で不法行為債権と相殺することは許されませんでした。
これは、被害者に現実の弁済を受けさせる(現金で治療費・入院費などを受けさせる)ためでしたね。

相殺は、互いの債権額を対等額で「消滅」させるものですから、「加害者」の債権で相殺を許してしまうと、被害者の損害賠償債権は対当額で消滅・減少してしまい、十分な救済を受けられなくなってしまいます。
不法行為債権を受働債権とすることはできない、相殺の対象とすることはできないのです。

以上の趣旨からいうと、「被害者」が相殺するのは許されます。
被害者のほうで相殺による決済を望んでいれば、自分の損害賠償請求権を自働債権として、加害者に対する債務との相殺を認めても支障はないのです(たとえば、裕福な被害者が相殺を利用するなど)。

なお、双方の債権が不法行為によるものであるときは、【最高裁】は相殺を認めていません(最判昭49.6.28)。

5 損害賠償の過失相殺──被害者(債権者)の過失

不法行為を受けた被害者にも過失があったとき、この点は考慮されるのでしょうか。

加害者だけに損害を負担させるのは不公平ですから、その責任を適切に軽減する必要がありますね。

この点について、722条2項に「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」とあるように、被害者の過失を考慮するかどうかは裁判所の自由裁量とされていますから、加害者から「過失相殺の主張」がなくても、被害者に過失があった場合は、裁判所はこれを考慮して、賠償額を定め「減額」することもできます(最判昭34.11.26)。

過失相殺は、債務不履行でも問題になります。
債務不履行における過失相殺を定めた418条では、「債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任およびその額を定める」としています。

したがってこの場合は、債権者に過失があれば、必ず考慮しなければなりません。
考慮してもしなくてもよいというのではないのです。
裁判所が「債権者に過失あり」と認定すれば、必ず過失相殺しなければなりません。

6 債務不履行との競合

客を乗せたタクシーの運転手が誤って交通事故を起こし、乗客を負傷させた場合には、運転手には、運送契約における安全輸送に違反した債務不履行責任と、負傷させた不法行為責任の双方が生じますが、この場合、乗客は、どちらかを任意に主張して損害賠償の請求ができます。

7 正当防衛による免責

暴力団員風のAが、日本刀でBに切りかかってきたので、やむをえず、BがAを殺傷してしまった場合には、BはAに対して損害賠償をする必要はありません。

720条は「他人の不法行為に対し、自己または第三者の権利または法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない」として、正当防衛のための利益侵害行為について免責しています。

他人の不法行為に対して自らの利益を防衛するためにやむを得ず行った加害行為(不法行為)は、正当防衛であって違法性がなく、不法行為責任を負うことはないのです。

8 損害賠償請求権に関する胎児の権利能力

胎児には権利能力がありませんが、損害賠償の請求権については、すでに生まれたものとみなされます。
胎児中に、父親が交通事故で不法行為を受けても、胎児に損害賠償請求権が認められます。

2 責任能力

不法行為によって他人に損害を与えた者に損害賠償責任を問うためには、行為者が一定の判断能力を備えていなければなりません。
この能力を不法行為では「責任能力」といい、このような能力を欠く者を「責任無能力者」といいます。

民法は責任無能力者として、「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えない」未成年者と、加害行為時に責任能力を欠いていた者の2つのグループについて定めています。

1 未成年者

未成年者が不法行為をしたときに、この責任能力を備えていなかったときには、損害賠償責任を負いません。
何歳で責任能力があるのかは一概にいえませんが、【判例】では、だいたい小学校6年生12歳くらいが一応の基準とされています。

2 責任能力を欠く者

加害者が成年者であっても、精神上の障害により「責任能力を欠く」状態で他人に損害を加えた場合には、損害賠償責任を負いません。

ただし、故意または過失によって一時的にその状態を招いたときは、みずから責任を負わなければなりません。

3 責任無能力者の監督義務者の責任

責任無能力者が責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負うのが原則です。
ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、またはその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときには、免責されます。

3 条文とポイントまとめ

1 ポイントまとめ

1 損害賠償の過失相殺
被害者にも過失があった場合、加害者から過失相殺の主張がなくても、裁判所はこれを考慮して、職権により賠償額を定めることができる。

2 死者の損害賠償請求権
「即死」の場合でも、まず被害者(死者)自身に損害賠償請求権が発生し、それが相続人に承継される。

3 慰謝料請求権の相続
慰謝料請求権は、被害者の請求の意思表示を必要とするものではないから、被害者が「即死」の場合であっても、相続人は慰藉料請求権を相続する。

4 不法行為債務の履行期限
不法行為に基づく損害賠償債務は、被害者からの催告がなくても、損害の発生と同時に履行遅滞となる。

5 不法行為債権に対する相殺
不法行為債権を受働債権として相殺することはできない。

6 短期消滅時効
不法行為による損害賠償請求権は、①被害者(またはその法定代理人)が、損害および加害者を「知った時」から3年間行使しないとき、または、②不法行為の時から20年を経過したときは、時効によって消滅する。

7 責任能力
責任能力を欠く状態で他人に損害を加えた場合には、損害賠償責任を負わないが、故意または過失によって一時的に「その状態を招いた」ときは、責任を負わなければならない。

2 条文の確認

■709条(不法行為による損害賠償)
故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

■710条(財産以外の損害賠償)
他人の身体、自由、名誉を侵害した場合または他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、709条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

■711条(近親者に対する損害賠償)
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者および子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。

■712条(責任能力)
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

■713条
精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意または過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

■714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
1 責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、またはその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

■720条(正当防衛、緊急避難)
1 他人の不法行為に対し、自己または第三者の権利または法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
2 前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。

■724条(不法行為による損害賠償請求権の期間制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者またはその法定代理人が、損害および加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。
不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。


(この項終わり)