|公開日 2017.8.10

[今回のテーマ]
■賃借権の譲渡・賃借物の転貸
■敷金の法律関係
■賃貸借の終了

1 賃借権の譲渡・賃借物の転貸

1 賃貸人の承諾

612条は「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸することができず、賃借人がこれに違反して第三者に賃借物の使用・収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる」と規定しています。

そもそも賃貸借は、賃貸人が賃借人を信頼して貸すものですから、その賃借人が変わることは賃料の支払い能力など、賃貸人にとって重大な利害関係を及ぼすことになります。

したがって、この信頼に反して、賃借人による無断譲渡や無断転貸があれば、賃貸人は契約を解除することができるとしたのです。
これが大原則です。

2 賃借権の譲渡

賃借権が、賃貸人の承諾を得て「適法に」譲渡された場合、賃貸人は、その譲渡後に発生した賃料については、旧賃借人に請求することはできません。これは当然ですね。

なぜなら、賃借権が適法に譲渡されると、旧賃借人の地位は譲受人に移転し、旧賃借人は賃貸借関係から離脱するからです。
以後、新しい賃貸借関係は、賃貸人・譲受人(新賃借人)間で存続することになります。

3 土地賃借人の所有建物の譲渡と転貸

土地の賃借人が、その賃借地上に建てた所有建物を「譲渡」する場合と、「賃貸」する場合の土地賃貸人の「承諾」について、確認しておきましょう。

  賃借権の譲渡・転貸

(1) 建物を譲渡する場合
土地の賃借人が、その所有建物を第三者に譲渡する場合、建物の譲渡は、土地賃借権の譲渡を伴うことになりますので、特別の事情のない限り、土地賃借人は、賃借権譲渡について、土地賃貸人の承諾を得る必要があります。

(2) 建物を賃貸する場合
建物の賃借人は、その賃借について、原則として、土地賃貸人の承諾を得る必要はありません。

土地賃借人が、その所有建物を第三者に「賃貸」することは、建物の使用収益であって、賃借地の転貸にはあたらないからです。

もともと建物の所有を目的とする土地の賃貸借では、賃貸人は、賃借人がその敷地上に建物を建築してみずから居住するだけでなく、これを賃貸し、建物賃借人にその敷地を占有使用させることも当然に予想・容認しているものとみるべきですから、建物賃借人は、建物の使用に必要な範囲で、敷地を使用收益する権利を有しているのです。

4 無断転貸がある場合──判例による原則の緩和

さて、612条を文言どおりに読めば、無断譲渡や無断転貸があれば、賃貸人は直ちに契約を解除することができることになります。

しかし判例は、賃借人が無断で賃借物を第三者に使用収益させていても、「賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合」には、無断譲渡・無断転貸を理由に契約を解除することはできないという信頼関係法理を確立するにいたりました(最判昭28.9.25)。

賃貸借は、双方の相互信頼が継続する関係ですから、「信頼関係を破壊するような悪質な無断転貸の場合にだけ」解除できるとしたのです。
無断転貸を形式的に判断せずに、実質的に判断したといえます。

5 適法な転貸がある場合

賃貸人の承諾を得て「適法に」賃借権の譲渡・転貸があった場合の法律関係はどうなるでしょうか。

(1) 転貸関係
適法な転貸借がある場合には、転借人は賃貸人に対して「直接に」義務を負うことになります(613条1項)。これは、賃貸人を保護する規定です。

これにより、賃貸人は、自己の賃借人に対する賃料債権を(転借人が賃借人に負担する賃料の範囲内で)転借人に対しても行使できる(直接賃料を請求できる)わけです。

つまり、転借人の義務は、①転借人が賃借人に対して負う義務の範囲に限定され、同時に、
②賃借人が賃貸人に対して負う義務の範囲によっても限定されるのです。
たとえば、賃借料が転借料より「小さい」ときは、「転借料全額」ではなく、賃借料の範囲内となります。

  転貸借

(2) 債務不履行と転貸借の終了
適法な転貸借がある場合でも、賃料不払いなど賃借人の「債務不履行」を理由に賃貸借が解除されれば、その結果、賃借人は転貸人としての債務が履行不能となり、したがって、賃貸借の終了と同時に、転貸借も終了します。
転借人は、転借権を賃貸人に対抗できず、賃借物を返還しなければなりません(最判昭36.12.21)。

なおこの場合、賃貸人が賃貸借を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、転借人に対してあらかじめ催告する必要はないというのが判例です(最判昭37.3.29)。

(3)合意解除と転貸借の終了
賃貸人の承諾を得て適法な転貸借がなされた場合、賃貸人と賃借人が賃貸借を「合意解除」しても、転借人に不信な行為があるなど特別の事情がある場合を除いて、転貸借は当然には終了しません(最判昭38.2.21)。

同じように、土地賃貸人と賃借人が土地賃貸借契約を合意解除しても、土地賃貸人は、特別の事情のないかぎり、その効果を賃借地上の建物賃借人に対抗できません。

2 敷金の性質と法律関係

建物の賃貸借では、通常、賃借人から賃貸人に対して「敷金」が交付されます。

敷金は、一種の保証金で、賃借人(借家人)が家賃を払えなくなったときや借家を壊したときの損害などに備えて、あらかじめ賃貸人(家主)に支払っておいて、契約が終わって賃借人が家を出て行くときにこれらを清算するというものです。

敷金の性質をもう少し詳しくみると、敷金は、
 ① 契約期間中の家賃はもちろんのこと、
 ② 契約終了後、建物明渡しまでに生じる損害金、そのほか賃貸人が取得する一切の債権を担保するのです(最判昭48.2.2)。

このように敷金は、契約が終了して、建物の明渡し完了時に、賃借人の債務を控除して残額が返還されるものですから、敷金返還請求権は、建物明渡しを完了しないと「具体的」には発生しません。

そのため契約期間中は、賃借人の方から、未払賃料などを敷金から控除するように要求することはできません。賃貸人は、敷金を未払賃料に充当してもかまいませんが、その義務はなく、未払賃料の全額を請求することができます。

ここで、賃貸建物の譲渡、建物賃借権の譲渡があった場合の敷金の運命を確認しておきましょう。

1 賃貸建物の譲渡と敷金の承継


  敷金の承継
                   
契約期間中に「賃貸建物が譲渡」された場合、敷金に関する権利義務関係は、賃借人の承諾がなくとも、未払賃料を控除した残額について、当然に新所有者(新賃貸人)に承継されます(最判昭44.7.17)。

敷金は、契約終了の際に賃借人の賃料債務等の不履行があれば、その弁済として当然これに充当される性質のものであり、したがって、建物の所有権移転に伴って、賃貸人たる地位の承継があった場合には、敷金は、未払賃料の弁済としてこれに当然充当され、その限度において敷金返還請求権は消滅し、残額についてのみ新賃貸人に承継されるのです。

2 建物賃借権の譲渡と敷金の承継


  賃借権譲渡

契約期間中に、適法に賃借権が譲渡された場合には、敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り、敷金に関する権利義務関係は当然には新賃借人に承継されるものではありません。

その理由について、判例は「敷金契約は、賃貸借に従たる契約ではあるが、賃貸借とは別個の契約である。したがって、旧賃借人が賃貸借関係から離脱した以上、(新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するとか、その敷金をもって新賃借人の債務不履行の担保とするとかを約するなどの)特段の事情のない限り、新賃借人の債務についてまで、旧賃借人の敷金で担保しなければならないとすることは、旧賃借人に不利益を与えることとなり、相当でない」としています(最判昭53.12.22)。

敷金の承継については、賃借権譲渡の承諾とは別に、そのためだけの合意が必要なのです。


敷金に関しては、次の点も注意してください。

3 賃料債務との相殺

たとえば、賃貸人が事業の失敗などで倒産しそうになって、どうも敷金を返してもらえそうにないとき、賃借人は、敷金とこれから払う家賃とを相殺することができるでしょうか。

あなたはどう思いますか。

賃借人としては、すでに交付している敷金で家賃の代わりにしたいところでしょう。

しかし残念ながら、賃料支払債務と敷金返還請求権とを対当額で相殺することはできません。

というのも、契約期間中は、敷金返還請求権は具体的に発生していないからです。
敷金返還請求権は、契約終了後、建物明渡し完了時に、賃借人の一切の債務を控除し、なお残額があることを条件として、その残額につき具体的に発生する性質のものですから、契約期間中は、発生・金額が不確定な権利なのです。
未確定の権利と、具体的な対当額について相殺することはできないのです。

4 先履行の関係

敷金返還請求権は建物明渡し完了後に「具体的」に発生するものですから、まず先に建物を明け渡す必要があります。
つまり、建物明渡しと敷金返還とは同時履行の関係にはなく、建物明渡債務が、敷金返還債務より先に履行されなければならないのです(最判昭49.9.2)。

3 賃貸借の終了

1 期間満了と黙示の更新

存続期間の定めのある賃貸借は、その期間の満了によって終了します。

ただし、期間が満了した後、賃借人が賃借物の使用・収益を継続しているにもかかわらず、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと「推定」されます。

これを「黙示の更新」といい、もちろん賃借人をできるだけ保護しようという趣旨です。

前の賃貸借と「同一条件」ですから、敷金関係もそのまま存続しますが、存続期間については別で、「定めのない」ものとなります。
したがって、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができます。

2 期間を定めなかった場合

存続期間の定めがない賃貸借では、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができます。解約申入れがあると、土地については1年、建物については3か月の猶予期間を過ぎて賃貸借は終了します。

3 解約する権利の留保

存続期間に定めがあっても、当事者が契約を解約できるという「解約権を留保」していたときは、いつでも解約の申入れをすることができます。

4 賃借物が滅失した場合

たとえば、賃貸建物が災害や火災などによって滅失した場合のように、賃借人に建物を使用収益させるという賃貸人の義務が全部履行不能となったときは、賃貸借は終了します。

4 条文とポイントまとめ

1 条文の確認

■612条(賃借権の譲渡・転貸の制限)
1 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用または収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

■613条(転貸の効果)
1 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
2 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。

2 ポイントまとめ

 土地の賃借人が、その所有建物を第三者に「譲渡」する場合、特別の事情のない限り、土地賃貸人の承諾を得る必要がある。

 土地賃借人が、その所有建物を第三者に「賃貸」することは、建物の使用収益であって、賃借地の転貸にはあたらないため、土地賃貸人の承諾は不要である。

 賃借人が無断で賃借物を第三者に使用収益させていても、「賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合」には、無断譲渡・無断転貸を理由に契約を解除することはできない。

 適法な転貸借がある場合、転借人は賃貸人に対して「直接に」義務を負う。

 適法な転貸借がある場合でも、賃借人の「債務不履行」を理由に賃貸借が解除されれば、賃貸借の終了と同時に、転貸借も終了する。

 適法な転貸借がある場合、賃貸人と賃借人が賃貸借を「合意解除」しても、転借人に不信な行為があるなど特別の事情がある場合を除いて、転貸借は終了しない。

■敷金をめぐる権利関係
1 未払賃料と敷金の充当
未払賃料について、賃借人の方から、敷金からの充当を主張することはできない。

2 敷金返還請求権の差押え
敷金返還請求権を差押えの対象とすることはできない。

3 建物の所有権移転と敷金の承継
敷金は、原則として未払賃料を控除した残額について、新賃貸人に承継される。

4 賃借権の譲渡と敷金の承継
敷金に関する権利義務関係は、原則として新賃借人には承継されない。

5 賃料債務との相殺
契約期間中は、賃料債権と敷金返還請求権とを相殺することはできない。

6 敷金返還請求権への担保設定
敷金返還請求権に質権を設定するなど、自己の債権者に対して担保提供することができる。

7 先履行の関係
建物明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にはない。先に建物明渡債務を履行しなければならない。

8 敷金が担保する範囲
敷金は、①契約中の賃料債権だけでなく、②契約終了後、明渡し義務履行までに生じる賃料相当の損害金、その他賃貸借契約により賃貸人が取得する一切の債権を担保する。



(この項終わり)