|公開日 2017.7.28|更新日 2018.6.28

今回のテーマは弁済で、いうまでもなく債務の消滅原因です。29年間で5問(四択)の出題ですから頻出テーマではありませんので、基本的な項目だけ押さえておきましょう。
とくに「弁済の提供」「第三者の弁済」は要注意です。

1 弁済と弁済の提供

1 弁済の意味

Aから100万円借りていたBが、支払期限に利息を付けて100万円支払いました。あたりまえのことですが、これが「弁済」です。

弁済は、履行ともいいますが、借りたお金を「返す」とか、売買代金を「支払う」とか、売った建物を「引き渡す」というように、債務者がその債務を履行することによって、債権が本来の目的を達成して消滅することをいいます。
弁済は債務の最大の消滅原因だという点をまずしっかり押さえておきましょう。

2 弁済の提供

民法には「弁済」とは別に「弁済の提供」がありますが、どう違うのでしょうか。

一言でいえば、弁済の提供は誠実な債務者のための制度です。

弁済は、代金や賃料を銀行振込でするというように、「債務者の行為」だけで完了するものもありますが、多くは「債権者の協力」がなければ完了しません。

たとえば土地の売買で、後日、登記所に売主と買主が出向いて所有権移転登記と引換えに売買代金の頭金を支払うという約束がある場合では、買主が小切手を持参して登記所に行っても、売主が来ていなければ、買主は弁済することができません。

債務者がどんなに誠実に弁済の努力をしても「債権者の協力」がない以上、弁済を完了させることはできす、債務を消滅させることはできないのです。

しかし、債務者としては「するべきことをすべてやった」のですから、はたしてこのような場合にまで債務者は、何か契約上の責任を負わなければならないのでしょうか。

こうして、「債権者の協力」なしには債務が消滅しない場合に、「弁済のために債務者としてすべきことをすべてする」ことを「弁済の提供」といいます。

債務者による「弁済の提供」があって、さらに「債権者の協力」があったときに弁済は完了し、債権・債務が消滅するという流れになっているのです。

民法は「弁済の提供」があった後は、債務者は「債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる(492条)と定めていることから、「弁済の提供」というのは、誠実な債務者のための制度だということがわかりますね。

3 提供の程度

1 現実の提供──これが原則
「弁済の提供」は、債権者の協力があれば弁済となるべき行為ですから、当然に債務の本旨に従って行う必要があります。

民法も「弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない」(493条)と定めて、弁済の提供は、原則として現実の提供によることとしています。

では、現実の提供とは何でしょうか。
これは「履行期に履行場所で提供する」ということなのですが、債務の内容によっていろいろと態様がありますので、ここでは金銭債務について一言しておきましょう。

「現金」をもっていくのは現実の提供ということはわかりますが、それでは「郵便為替」をもっていったらどうでしょうか。あるいは「郵便振替払込証書」ではどうでしょうか?
「銀行の自己宛小切手」では?

これらはすべて金銭と同視できるので、有効な弁済の提供となります。

反面、「個人振出の小切手」や「預金通帳」「預金証書」の提供は有効な弁済提供ではありません。個人振出の小切手は信用力がないですし、預金通帳・預金証書はそもそも金銭の支払手段ではないからです。

2 口頭の提供──これは例外
「現実の提供」をしなくていい場合として、2つの例外があります。

1つは、債権者があらかじめその受領を拒んでいるとき
2つは、債務の履行について債権者の行為を要するとき です。

 債権者が受領拒絶しているとき
債権者があらかじめ受領を拒絶した(黙示でもよい)場合には、弁済者は、弁済の準備をしたことを債権者に通知して受領を催告するだけで、弁済の提供となります。

このような場合にまで、現実の提供を要求するのは不公平だからです(受領を拒絶しているんだったら、通知だけでいいじゃん)。

なお、債権者が過大な要求金額を提示して、それ以下なら受領しないというのは受領拒絶になります。

 債権者の行為を必要とする場合
弁済について債権者の協力を必要とするときは、そもそも協力がなければ弁済できないわけですから、まず債権者の協力を要請するため、「口頭の提供」を認めたのです。
この場合も、弁済の準備をしたことを債権者に通知して受領を催告するだけで、弁済の提供となります。

4 効果も重要

前述したように、民法は「債務者は、弁済の提供の時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる」と定めて、誠実な債務者を救済しています。

弁済の提供以後、債務者は履行遅滞の責任を負わず、したがって遅滞に基づく損害賠償、遅延利息・違約金(損害賠償額の予定)の支払いを免れます。

注意義務は軽減され、善良な管理者の注意義務(善管注意義務)を負っていた場合には、「自己の財産におけると同一の注意」で足りることになります。

債権者は、遅滞を理由として契約を解除することはできず、抵当権などの担保権を実行することはできません。また 同時履行の抗弁権を失います。

なお、弁済の提供をしても債権者の受領がないと債務は消滅しないため、債権者がどうしても受領を拒否している場合には、債務者は最終的に供託所に「供託」をして債務を免れる(債務は消滅する)ことになります。

2 弁済の相手

いうまでもありませんが、弁済の相手をまちがったら大変面倒なことになります。

ふつうは、債務者は債権者を知っていますから、債権者に弁済すればいいのですが、銀行等の金融機関などは、債権者である預金者の顔を一人一人覚えていませんから、払い間違いも起こってきます。

債権者の妻だと名乗る女性が債権証書と実印を持ってきたらどうでしょうか。

民法は次のように定めました。

1 債権の準占有者に対する弁済

債権の準占有者というのは、「債権者らしい外観」を有する者をいいます。

たとえば「債権証書の持参人」や「表見相続人」がこれにあたります。
また、債権者の「代理人と称して」借賃の請求をしてきた無権限者も、真実の弁済受領権限があるかのような外観を有していれば、債権の準占有者とされます。

債権の準占有者に対する弁済は、弁済者が善意・無過失のときに限り、有効です。債権は消滅して債務者は債務を免れます。

※ 「物」に対する事実上の支配を「占有」というのに対して、「権利」に対する事実上の支配状態を「準占有」といいます。
準占有には、物の占有に関する諸規定が準用されます(205条)

2 受取証書の持参人に対する弁済

受取証書というのは「領収書」のことです。
受取証書の持参人は、原則として弁済を受領する権限があるとみなされます。

受取証書を持参する者は、債権者から「受領権限を与えられて受取証書の交付を受けた」という推定が強く働くので、これを信じた弁済者を保護したのです。

したがって、弁済者が、持参人に受領権限がないことを知っていたり(悪意)、過失によって知らなかったときは、弁済は無効となります。

弁済者が善意・無過失ならば、その弁済は、受領権限のある者に対してなされたのと同様に有効となり、債権は消滅します。

3 証書関係──終わりよければ

 受取証書の交付請求
弁済したかしないかは大変重要なことですから、後日争いになったときのために、「確かに弁済した」という証拠を確保しておく必要があります。

民法は「弁済をした者は、弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる」(486条)と定めました。

「領収書 金百万円也 但○○代金として ○年○月○日」

こんな一筆があれば、債務者も安心です。
受取証書は弁済(債務の消滅)の証拠となるものですから、弁済と引き換えに交付されなければなりません。
つまり「弁済」と「受取証書の交付」とは同時履行の関係にありますから、弁済者は、受取証書の交付がなされるまで弁済を拒むことができます。

 債権証書の交付請求
債権の成立を証明する債権証書(借用書など)があるときは、「全部を弁済」したときに、弁済者はその債権証書の返還を請求できます。

一部を弁済したに過ぎないときは、債権証書の返還は請求できません。「受取証書」の交付のみ請求できます。
弁済と債権証書の返還は、同時履行の関係にはないという点に注意してください。

3 第三者の弁済──他人が弁済できるの?

1 第三者の弁済の意義

弁済は通常は債務者がするものですが、「第三者」がしてもかまいません。
どうしてでしょうか?

それは、債権者としてはだれから弁済されようと、最終的に債権の目的を達成できるからなんですね。
民法はこの点を明確にして、原則として「債務の弁済は、第三者もすることができる」(474条1項)と定めています。

しかし、第三者が常に弁済できるというわけではありません。
第三者の弁済が許されない場合もあります。

民法は続けて次のようにいっています。
「ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、または当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない」(同条1項但書)


簡単にみておきましょう。
 債務の性質がこれを許さないとき
債務者その人でなければ、弁済の意味がない(債務の本旨に従ったとはいえない)場合をいいます。

有名な演奏家の演奏債務とか人気タレントの出演債務などがこれにあたります。別人が演奏したり出演したのでは意味がありません。

 当事者が反対の意思を表示したとき
特約で債務者自身が弁済しなければならないとした場合です。

 利害関係のない第三者
さらに続けて民法は「利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない」と定めました。

第三者弁済といえばここ、というくらいよく出題されるところです。

弁済は第三者でもすることができますが、利害関係を有しない第三者は「債務者の意思に反して」弁済をすることができません。
弁済が債務者の利益になるとしても、その意思に反して押しつけることはできないという趣旨です。

債務者が恩義を受けることを欲しない第三者による弁済を防止しようとしたもので、これは「武士気質(ぶしかたぎ)」の規定だ、と学生の頃教わったものです。

ここで「利害関係」というのは、弁済をしないことで法律上の不利益を受ける関係をいいます。
たとえば、物上保証人(債務者のために抵当不動産を提供している人)抵当不動産の第三取得者は利害関係を有しますが、債務者の「友人」とか「親族」は事実上の利害関係はあっても、それだけで法律上の利害関係があるとはいえません。

さて、利害関係を有しない第三者が「債務者の意思に反して」弁済することができないということは、いいかえれば利害関係を有する第三者は「債務者の意思に反しても」弁済することができる、ということにほかなりません。

物上保証人や抵当不動産の第三取得者は、自らの利益のために債務者の意思に反しても弁済できる、という点をしっかり押さえておいてください。

2 弁済による代位

最後に、弁済による代位について簡単にふれておきましょう。

物上保証人Cが、債務者Bに代わって債権者Aに弁済すると、CはBに対して、「自分が債権者に支払ったのだからその分を返してほしい」という請求ができるはずですね。
これを求償権といいます。

求償権

このとき、もし債権者Aが有していた抵当権が弁済者Cに移転するとすれば、Cは求償権を確保する、いわば抵当権の付いた債権の取得になり、Cにとっては望ましい結果でしょう。

一方、Aは弁済を受けたのですから抵当権がCに移転しても痛くもかゆくもないし、むしろそうすることで第三者の弁済を促進することになれば、債権者にとっても有利です。

実は債務者にとっても、第三者弁済が促進されることは、弁済する者が増えることになって、自らの債務不履行の危険も減少するという利益もあるのです。

これが「債権者の有した権利を代位する」という代位制度です。

弁済によって債権は消滅したのに、どうして債権者の権利が弁済者に移転するのかという疑問をもった人は、なかなか法的センスのある人です。
まあ、ここでは難しい議論を避けて、「弁済者の求償権を確保するための制度」だということだけ押さえておいてください。

 法定代位
弁済をするについて正当な利益を有する者は「債権者の同意の有無」にかかわらず、弁済によって当然に債権者に代位します。
「正当な利益を有する者」としては、連帯債務者、保証人、連帯保証人、物上保証人、担保不動産の第三取得者、後順位担保権者があります。

 任意代位
弁済をするについて正当な利益を有しない者は、「債権者の承諾」がないと代位することができません。

4 これも見逃すな

弁済に関しては、以下の諸点も確認しておきましょう。

1 弁済の場所

 金銭債務はどこで返済する?
貸金などの金銭消費貸借で返済場所を定めなかったときは、借主は、貸主の現在の住所、つまり、新住所で返済しなければなりません(持参債務の原則)。

 その他の債務は?
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、
特定物の引渡しは、債権発生時にその物が存在した場所において
・その他の弁済は、債権者の現在の住所において、それぞれしなければなりません。

2 特定物の引渡債務

土地や建物の売主のように、債務の内容が特定物の引渡しであるときは、弁済者は「引渡しをなすべき時の現状」で引き渡さなければなりません。

履行期までに特定物の状態にどのような変化が生じても、履行期日の現状で引き渡すことを要し、かつ、これで履行義務は果たされたことになります。

ただし、この変化が債務者(売主)の善管注意義務違反によるときは、債務不履行による損害賠償責任が生じることはいうまでもありません。

3 弁済の充当の順序

債務について、元本のほか、利息、費用を支払うべきときに、弁済額が不足している場合には、債務者の指定がなければ、

①費用 → ②利息 → ③元本 

の順に充当しなければなりません。

2 条文とポイントまとめ

1 条文の確認

♠ 474条(第三者の弁済)
1 債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、または当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。

♠ 478条(債権の準占有者に対する弁済)
債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。

♠ 480条(受取証書の持参人に対する弁済)
受取証書の持参人は、弁済を受領する権限があるものとみなす。ただし、弁済をした者がその権限がないことを知っていたとき、または過失によって知らなかったときは、この限りでない。

♠ 483条(特定物の現状による引渡し)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。

♠ 484条(弁済の場所)
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。

♠ 486条(受取証書の交付請求)
弁済をした者は、弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる。

♠ 487条(債権証書の返還請求)
債権に関する証書がある場合において、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求することができる。

♠ 492条(弁済の提供の効果)
債務者は、弁済の提供の時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。

♠ 493条(弁済の提供の方法)
弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、または債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。

♠ 499条(任意代位)
1 債務者のために弁済をした者は、その弁済と同時に債権者の承諾を得て、債権者に代位することができる。
2 467条の規定(債権譲渡の対抗要件)は、前項の場合について準用する。

♠ 500条(法定代位)
弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。

2 ポイントまとめ

1 弁済の提供とその効果
① 要件 
【原則】現実の提供
【例外】口頭の提供
② 主な効果
・債務者は債務不履行責任を負わない
・債権者の同時履行の抗弁権がなくなる

2 弁済による代位
① 法定代位
弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。
② 任意代位
債務者のために弁済をした者は、弁済と同時に債権者の承諾を得て、債権者に代位することができる。


(この項終わり)