|公開日 2017.5.10


【問 1】 Aは、Bから借り入れた 2,000万円の担保として抵当権が設定されている甲建物を所有しており、抵当権設定の後である平成20年4月1日に、甲建物を賃借人Cに対して賃貸した。Cは甲建物に住んでいるが、賃借権の登記はされていない。この場合に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば、正しいものはどれか。

 AがBに対する借入金の返済につき債務不履行となった場合、Bは抵当権の実行を申し立てて、AのCに対する賃料債権に物上代位することも、AC間の建物賃貸借契約を解除することもできる。

 抵当権が実行されて、Dが甲建物の新たな所有者となった場合であっても、Cは民法第602条に規定されている短期賃貸借期間の限度で、Dに対して甲建物を賃借する権利があると主張することができる。

 AがEからさらに 1,000万円を借り入れる場合、甲建物の担保価値が 1,500万円だとすれば、甲建物に抵当権を設定しても、EがBに優先して甲建物から債権全額の回収を図る方法はない。

 Aが借入金の返済のために甲建物をFに任意に売却してFが新たな所有者となった場合であっても、Cは、FはAC間の賃貸借契約を承継したとして、Fに対して甲建物を賃借する権利があると主張することができる。

(平成20年 問4)



[解説&正解]

 誤り   [抵当権の物上代位性]*372条、304条
債務者Aが、借入金の返済について債務不履行となった場合、抵当権者Bは、Aの有する賃料債権に対して物上代位することができる(抵当権の物上代位性)。
しかし、AC間の建物賃貸借契約を解除する権限まではない。


 誤り   [抵当権設定後の短期賃貸借]
甲建物には先にBの抵当権が設定されており、対抗要件を備えている(177条)。
一方、甲建物の賃借人Cは「賃借権の登記」をしていないが、「甲建物に住んでいる」ので建物賃借権の対抗要件を備えている(借地借家法31条)。
この場合、両者の優劣は177条の原則により、先に対抗要件を備えた抵当権が優先するから、「短期賃貸借期間の限度」であってもCは建物賃借権をBに対抗できず、したがって、抵当権を実行した建物の競落人Dに対しても賃借権を主張することはできない。

※ 短期の賃貸借は、抵当権の競落人にも対抗できるとしていた「短期賃貸借の保護制度」はすでに廃止され、不動産に関する物権変動の優劣は、177条の原則どおり登記の先後によって決せられる。したがって抵当権設定後の賃借権は、原則として、登記の有無、期間の長短に関係なく、抵当権者(したがって競落人)に対抗できない。


 誤り   [抵当権の順位の譲渡]*376条1項
「甲建物の担保価値が 1,500万円」だから、一番抵当権者Bの 2,000万円が実行されれば、二番抵当権者Eの1,000万円は全然回収されない。
この場合、Eは、Bからその順位の譲渡を受けて一番抵当権者となることによって、Bに優先して債権全額を回収することができるのである。


 正しい  [第三取得者と賃借権者の対抗関係]
甲建物の賃借人Cは「賃借権の登記はされていない」場合でも、建物の引渡しを受けて居住しているので、借地借家法上、建物賃借権の第三者対抗要件を備えている。
したがって、賃貸建物の譲渡により、Aの賃貸人としての地位を承継した新所有者Fに対して、建物賃借権を主張することができる。
※ 選択肢2との違いを理解してください。

 対抗要件


選択肢2はあくまでも「抵当権の実行」です。選択肢4は「譲渡」です。

[正解] 4


■ワンランク・アップ  短期賃貸借保護制度はなぜ廃止されたのか
短期賃貸借保護制度は、抵当権が登記された後に賃借権が設定された場合でも、その賃借権が短期(土地5年以内、建物3年以内)であるときは、抵当権に対抗できるという制度でした。
この制度は、抵当権を設定した後でも、抵当不動産を貸せるようにしてその利用を一定限度で保障する役割をもっていたのですが、占有屋等による競売執行妨害にこの制度が悪用されるという弊害があとを絶ちませんでした。
そこで、平成15年8月1日の「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」により、平成16年3月31日以降、短期賃貸借保護制度は廃止され、それに代わって建物明渡猶予制度(395条)が創設されました。

■しっかり読んでおきたい重要条文
*借地借家法31条(建物賃貸借の対抗力等)
1 建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。
*376条(抵当権の処分)
1 抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、または同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権もしくはその順位を譲渡し、あるいは放棄することができる。


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【問 2】 物上代位に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。なお、物上代位を行う担保権者は、物上代位の対象とする目的物について、その払渡し又は引渡しの前に差し押さえるものとする。

 Aの抵当権設定登記があるB所有の建物の賃料債権について、Bの一般債権者が差押えをした場合には、Aは当該賃料債権に物上代位することができない。

 Aの抵当権設定登記があるB所有の建物の賃料債権について、Aが当該建物に抵当権を実行していても、当該抵当権が消滅するまでは、Aは当該賃料債権に物上代位することができる。

 Aの抵当権設定登記があるB所有の建物が火災によって焼失してしまった場合、Aは、当該建物に掛けられた火災保険契約に基づく損害保険金請求権に物上代位することができる。

 Aの抵当権設定登記があるB所有の建物について、CがBと賃貸借契約を締結した上でDに転貸していた場合、Aは、CのDに対する転貸賃料債権に当然に物上代位することはできない。

(平成24年 問7)



[解説&正解]

 誤り   [一般債権者の差押えと物上代位の優劣]*最判平10.3.26
判例によれば、債権について一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合には、両者の優劣は、差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決せられる。
抵当権者Aは、B所有の建物に先に抵当権設定登記をしているので、Bの一般債権者が賃料債権の差押えをしても、Aは賃料債権に物上代位することができる。


●● 正しい  [物上代位の行使時期]*最判平1.10.27
最高裁は「目的不動産に対して抵当権が実行されている場合でも、抵当権実行の結果、抵当権が消滅するまでは、賃料債権に対しても抵当権を行使することができるというべきである」として、抵当権を実行できる場合も、抵当権を実行するとともに、賃料債権への物上代位も認めている。


 正しい  [損害保険金請求権への物上代位]*304条
抵当権は、抵当目的物の売却、賃貸、滅失、損傷によって債務者が受けるべき金銭に対しても行使することができる。したがって「火災保険契約に基づく損害保険金請求権」にも物上代位することができる。


 正しい  [転貸料に対する物上代位]*最判平12.4.14
抵当権者は、原則として、賃借人が取得する転貸料について物上代位を行使することはできない。
抵当不動産の所有者は、抵当不動産をもって被担保債権の履行責任を負担するものであるが、抵当不動産の賃借人(転借人)は、そのような履行責任を負担するものではなく、自己の債権を被担保債権の弁済に当てられるべき立場にはない。また、物上代位を認めると、転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害することにもなるからである。

[正解] 1


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【問 3】 Aは、Bに対する貸付金債権の担保のために、当該貸付金債権額にほぼ見合う評価額を有するB所有の更地である甲土地に抵当権を設定し、その旨の登記をした。その後、Bはこの土地上に乙建物を築造し、自己所有とした。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち正しいものはどれか。

 Aは、Bに対し、乙建物の築造行為は、甲土地に対するAの抵当権を侵害する行為であるとして、乙建物の収去を求めることができる。

 Bが、甲土地及び乙建物の双方につき、Cのために抵当権を設定して、その旨の登記をした後(甲土地についてはAの後順位)、Aの抵当権が実行されるとき、乙建物のために法定地上権が成立する。

 Bが、乙建物築造後、甲土地についてのみ、Dのために抵当権を設定して、その旨の登記をした場合(甲土地についてはAの後順位)、Aの抵当権及び被担保債権が存続している状態で、Dの抵当権が実行されるとき、乙建物のために法定地上権が成立する。

 Aは、乙建物に抵当権を設定していなくても、甲土地とともに乙建物を競売することができるが、優先弁済権は甲土地の代金についてのみ行使できる。

(平成14年 問6)



[解説&正解]

本問では、乙建物が、更地に抵当権が設定された後に建てられたことが最大のポイント。

 誤り   [建物築造は土地抵当権を侵害するか]*369条1項
抵当地上における建物の築造行為は土地の抵当権侵害とはいえず、建物の収去を求めることはできない。
そもそも抵当権は、抵当物が有する交換価値(金銭に換算した価格=競売価格)を把握するだけで、抵当物自体は抵当権設定者(債務者や物上保証人)のもとに置いて、自由にその使用・収益を認める権利なのである。
更地に建物が建つと土地価格が下がることもあるが(建付減価)、反面、大きな収益を生むリゾートホテルなどが建つと土地価格は上昇する。


 誤り   [法定地上権の成立要件──建物存在時期]*388条、最判昭36.2.10
抵当権者Aの抵当権が実行されても、乙建物のために法定地上権は成立しない。
建物のために法定地上権が成立するには、抵当権設定当時に建物が存在していることが絶対に必要で、これは判例の一貫した態度である。
というのも、この時すでに存在していた建物を保護することこそが法定地上権(法律上の地上権)の趣旨だからである。
抵当権者は、土地に抵当権を設定する時に、「建物のない土地」として担保価値を評価しており、後になって建物のために法定地上権を認め土地使用を制限することは、土地の交換価値を下落させ、抵当権者の利益を著しく害することになるのである。

※ 抵当権者が建物築造を事前に承認していても、法定地上権は成立しない(最判昭51.2.27)。
※ 地上権は、通常は当事者の契約によって発生するが(約定地上権)、法定地上権は建物保護のために、法律上強制的に成立させるものだから「法定」というのである。


 誤り   [建物の存在時期]*大判昭11.12.15
「更地」にAの一番抵当権を設定した後に、Dの後順位抵当権設定前に乙建物が築造され、その後、Dの抵当権が実行されても、乙建物のために法定地上権は成立しない。
抵当権が実行されると、抵当不動産上のすべての抵当権(一番抵当権、後順位抵当権)が一括して清算されるが、このとき建物のために法定地上権が成立するかどうかは、一番抵当権設定時が基準とされる。
一番抵当権設定時に建物が存在していない場合、一番抵当権者は「建物のない土地」として、つまり法定地上権による制約がない土地として担保価値を高く評価しているから、その後存在した建物のために法定地上権を認めると、この担保価値を著しく害することになるのである。


 正しい  [抵当地と建物の一括競売]*389条1項
甲地に抵当権を設定した後に、債務者Bの乙建物が建てられた場合、抵当権者Aは、乙建物に抵当権を設定していなくても、甲地と乙建物を一括競売することができる。
ただし、抵当権は甲地だけに設定されているから、乙建物の売却代金から優先弁済を受けることはできない。

[正解] 4


■ワンランク・アップ  法定地上権をめぐって
1 未登記の建物
土地・建物が同一の所有者に属している場合に、土地に対する抵当権設定当時、建物が存在していれば、その保存登記がなくても法定地上権は成立する。
抵当権設定時に建物が実在していれば、土地の抵当権者はこれを前提に担保価値を評価するからである。
2 一方のみの譲渡
同一人が所有する土地・建物のうち、建物だけに抵当権が設定された後に土地が譲渡された場合には、建物の競落人のために法定地上権が成立する。
建物の上の抵当権は、法定地上権を伴うものとして担保価値が評価されるからである。
3 再築の場合
土地に対する抵当権設定当時に建物が存在していれば、後に改築されたり、滅失して再築された場合でも、法定地上権は成立する。
抵当権設定時に建物が存在していれば、それが担保評価の基礎となっているからである。
4 別々に競落された場合
双方に抵当権が設定された後、双方が別人に競落された場合にも、建物のために法定地上権が成立する。

■しっかり読んでおきたい重要条文
*369条(抵当権の内容)
1 抵当権者は、債務者または第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
*388条(法定地上権)
土地およびその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地または建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。
この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
*389条(抵当地上の建物の競売)
1 抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。


(この項 終わり)