公開日 2017.5.10|最終更新日 2017.6.28

 
【問 1】 相続人が、被相続人の妻Aと子Bのみである場合(被相続人の遺言はないものとする。)の相続の承認又は放棄に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 相続の承認又は放棄をすべき3ヵ月の期間の始期は、AとBとで異なることがある。

 Aが単純承認をすると、Bは、限定承認をすることができない。

 A及びBは限定承認をしたが、Bが相続財産を隠匿していたとき、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けられなかった債権額の1/2について、Bに請求できる。

 Aは、Bの詐欺によって相続の放棄をしたとき、Bに対して取消しの意思表示をして、遺産の分割を請求することができる。

(平成10年 問10)



[解説&正解]

 正しい  [承認・放棄をする期間]*915条1項、最判昭51.7.1
相続人が、単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかをしなければならない3ヵ月の期間は、A・Bが、それぞれ自己のために相続開始があったことを知った時から起算される
したがって、3ヵ月の期間の始期は、AとBとで異なるのは当然である。


 正しい  [限定承認の方法]*923条
Aが単純承認をすると、Bは限定承認をすることができない。
限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみすることができるから、1人が単純承認して、他方が限定承認することはできないのである。


 正しい  [法定単純承認]*921条三号、937条
限定承認をしたBが、相続財産を隠匿するなど背信的行為をしたときは、単純承認をしたものとみなされ(背信行為による法定単純承認)、自分の相続分に応じた責任を負わなければならない。
相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けられなかった債権額の1/2(相続人Bの相続分)について、B固有の財産から弁済が受けられる。
※ 相続債権者というのは被相続人の債権者であって、相続人A・Bの債権者ではない。


 誤り   [承認・放棄の取消方法]*919条4項
相続の放棄も意思表示だから、「詐欺によって」相続の放棄をしたときは、これを取り消すことができるのは当然である。
しかし、放棄の取消しは、家庭裁判所に申述しなければならないので、Bに対して取消しの意思表示をしても、遺産分割を請求することはできない。

[正解] 4


■しっかり読んでおきたい重要条文
*919条(相続の承認・放棄の取消し)
4 限定承認または相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
*921条(法定単純承認)
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
三 相続人が、限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部または一部を隠匿し、私にこれを消費し、あるいは悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。
*937条(法定単純承認の事由がある場合の相続債権者)
限定承認をした共同相続人の1人または数人について、法定単純承認の事由(処分または背信的行為)があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、その共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる。


…………………………………………………………


【問 2】 AがBに対して1,000万円の貸金債権を有していたところ、Bが相続人C及びDを残して死亡した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 Cが単純承認を希望し、Dが限定承認を希望した場合には、相続の開始を知った時から3か月以内に、Cは単純承認を、Dは限定承認をしなければならない。

 C及びDが相続開始の事実を知りながら、Bが所有していた財産の一部を売却した場合には、C及びDは相続の単純承認をしたものとみなされる。

 C及びDが単純承認をした場合には、法律上当然に分割されたAに対する債務を相続分に応じてそれぞれが承継する。

 C及びDが相続放棄をした場合であっても、AはBの相続財産管理人の選任を請求することによって、Bに対する貸金債権の回収を図ることが可能となることがある。

(平成19年 問12)



[解説&正解]

 誤り   [相続の承認]*923条
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみすることができるから、Cが単純承認して、Dが限定承認することはできない。


 正しい  [法定単純承認]*921条一号
遺産を売却する、壊すなど、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、相続人は単純承認をしたものとみなされる(処分による法定単純承認)。
※ ただし、保存行為と短期賃貸借は処分にはあたらない。


 正しい  [債務の共同相続]*899条、最判昭34.6.19
C・Dが単純承認をした場合、それぞれが法定相続分により分割された範囲で金銭債務を負担する。
もともと金銭債権や金銭債務は共同帰属という形態に親しまないため、法律上当然に相続分に従って分割され、各共同相続人に帰属するのである。


 正しい  [相続人不存在の財産管理]*951条、952条1項
全員が相続放棄をしたときは、相続人不存在により相続財産は法人とされるが、この場合、利害関係人等の請求によって、相続財産管理人が選任される。
この手続により、債権者Aは貸金債権の回収が可能となることがある。

[正解] 1


■しっかり読んでおきたい重要条文
*899条
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
*921条(法定単純承認)
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき。ただし、保存行為および短期賃貸借をすることは、この限りでない。
*951条(相続財産法人の成立)
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
*952条(相続財産の管理人の選任)
1 相続財産法人の成立の場合には、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。

■ワンランク・アップ  [法定単純承認]
相続人について、次の事由があるときは、単純承認をしたものとみなされます。
1 処分による単純承認
相続財産の全部または一部を処分したとき。ただし、保存行為や短期賃貸借をすることは、処分にはあたりません。
2 期間経過による単純承認
法定期間内に限定承認または相続放棄をしなかったとき。
3 背信行為による単純承認
限定承認または相続放棄後であっても、相続財産の全部または一部を隠匿したり、消費したり、悪意で相続財産の目録中に記載しなかったとき。


…………………………………………………………


【問 3】 甲建物を所有するAが死亡し、相続人がそれぞれAの子であるB及びCの2名である場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 Bが甲建物を不法占拠するDに対し明渡しを求めたとしても、Bは単純承認をしたものとはみなされない。

 Cが甲建物の賃借人Eに対し相続財産である未払賃料の支払いを求め、これを収受領得したときは、Cは単純承認をしたものとみなされる。

 Cが単純承認をしたときは、Bは限定承認をすることができない。

 Bが自己のために相続の開始があったことを知らない場合であっても、相続の開始から3か月が経過したときは、Bは単純承認をしたものとみなされる。

(平成28年 問10)



[解説&正解]

 正しい  [法定単純承認]*921条1号
遺産を売却するなど、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされるが、保存行為と短期賃貸借は処分には該当しない。
不法占拠者に対する明渡し請求は、保存行為にほかならない。


 正しい  [法定単純承認]*921条1号、最判昭37.6.21
賃料債権の支払いを求めて収受領得することは、まさに処分であるから、Cは単純承認をしたものとみなされる。


 正しい  [限定承認の方法]*923条
記述のとおり。
限定承認は全員が共同してのみすることができるから、Cが単純承認をしたときは、Bは限定承認をすることができない。


 誤り   [法定単純承認]*915条1項、921条2号
相続開始を「知らない」場合には、「3か月が経過」しても単純承認をしたものとはみなされない。
3ヵ月の熟慮期間が与えられたのは、この期間内に相続財産を調査するなどして、承認か放棄かを考慮するゆとりを与える趣旨だから、相続人は相続開始を知っている必要がある。

[正解] 4


(この項終わり)