|公開日 2017.5.10


【問 1】 Aが有する権利の消滅時効に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 Aが有する所有権は、取得のときから20年間行使しなかった場合、時効により消滅する。

 AのBに対する債権を被担保債権として、AがB所有の土地に抵当権を有している場合、被担保債権が時効により消滅するか否かにかかわらず、設定時から10年が経過すれば、抵当権はBに対しては時効により消滅する。

 AのCに対する債権が、CのAに対する債権と相殺できる状態であったにもかかわらず、Aが相殺することなく放置していたためにAのCに対する債権が時効により消滅した場合、Aは相殺することはできない。

 AのDに対する債権について、Dが消滅時効の完成後にAに対して債務を承認した場合には、Dが時効完成の事実を知らなかったとしても、Dは完成した消滅時効を援用することはできない。

(平成17年 問4)



[解説&正解]

 誤り   [所有権は時効消滅するか]*167条
所有権は、消滅時効にかからない。
時効消滅する権利は、①債権と、②(債権・所有権)以外の財産権である。
所有権以外の財産権の例としては、地上権や地役権がある。

※ 所有権が消滅時効にかからないのは、近代民法の大原則である「所有権の絶対性」の現れといえる。なお、所有権が取得時効された場合にはその所有権は消滅するが、これは取得時効の反射的効果であって、消滅時効ではない。


 誤り   [抵当権の消滅時効]*396条、167条2項、大判昭15.11.26
抵当権は、債務者および抵当権設定者(物上保証人など)に対しては、その担保する債権(被担保債権)と同時でなければ、時効によって消滅しない。
そもそも抵当権は、債権を担保するために設定される担保物権だから、被担保債権に独立して抵当権だけが単独で時効消滅することはないのである(抵当権の付従性)。
被担保債権が時効消滅すれば、それを担保する抵当権も消滅し、被担保債権が時効中断により10年以上存続すれば、抵当権もまた設定時から10年以上経過しても時効消滅することはない。

※ なお判例は、債務者や抵当権設定者以外の第三取得者、たとえば後順位抵当権者や抵当物件の第三取得者に対しては、被担保債権が存続する場合にも、抵当権だけが単独で20年の消滅時効にかかるとしている。


 誤り   [時効消滅した債権で相殺できるか]*508条
AのCに対する債権がすでに時効消滅していた場合でも、その消滅以前(時効完成前)に、Cの債権と相殺できる状態(相殺適状)にあったときは、Aは時効消滅した債権で相殺することができる。
互いの債権が相殺できる状態にあるときには、両当事者は当然に清算されたように考えているのが通常だから、この期待を保護しているのである。


 正しい  [時効完成後の債務承認]*147条、最判昭41.4.20
消滅時効が完成したにもかかわらず、債務者が債務を承認した以上、「時効完成の事実を知らなかった」としても、以後それに反する主張は許されず、完成した消滅時効を援用することは許されない。
債権者としては「債務者が債務を承認した以上、もはや時効の援用をしない趣旨であろう」と考えるのが通常だから、援用を認めないのが信義則に照らし相当とされるのである。

[正解] 4


■しっかり読んでおきたい重要条文
*167条(債権等の消滅時効)
1 債権は、10年間行使しないときは、消滅する。
2 債権または所有権以外の財産権は、20年間行使しないときは、消滅する。
*396条(抵当権の消滅時効)
抵当権は、債務者および抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
*508条(時効により消滅した債権を自働債権とする相殺)
時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。

…………………………………………………………


【問 2】 Aは、Bに対し建物を賃貸し、月額10万円の賃料債権を有している。この賃料債権の消滅時効に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 Aが、Bに対する賃料債権につき支払督促の申立てをし、さらに期間内に適法に仮執行の宣言の申立てをしたときは、消滅時効は中断する。

 Bが、Aとの建物賃貸借契約締結時に、賃料債権につき消滅時効の利益はあらかじめ放棄する旨約定したとしても、その約定に法的効力は認められない。

 Aが、Bに対する賃料債権につき内容証明郵便により支払を請求したときは、その請求により消滅時効は中断する。

 Bが、賃料債権の消滅時効が完成した後にその賃料債権を承認したときは、消滅時効の完成を知らなかったときでも、その完成した消滅時効の援用をすることは許されない。

(平成21年 問3)



[解説&正解]

 正しい  [支払督促は時効を中断するか]*150条
債権者Aが、賃料債権などの金銭債務等の督促手続としての「支払督促」の申立てをし、さらに法定期間内に「仮執行の宣言の申立て」をしたときは、消滅時効は中断する。


 正しい  [時効利益を放棄できるか]*146条
時効が完成する前(時効期間進行前または進行中)に、あらかじめ時効の利益を放棄することは許されない。悪質な債権者によって濫用されることを防止するためである。
「消滅時効の利益はあらかじめ放棄する」旨約定しても、無効である。


 誤り   [催告は時効を中断するか]*153条
「内容証明郵便により支払を請求した」というのは、催告である。催告しただけでは中断の効力は生じない。
催告は、内容証明郵便とか書留郵便でする裁判外の請求であるが、中断力が弱く、催告後6ヵ月以内に、さらに強力な『裁判上の請求(訴訟の提起)』や『差押え』などをしなければ、完全には時効中断の効力を生じないのである。


 正しい  [時効完成後の債務承認]*147条、最判昭41.4.20
債務者Bが、賃料債権の消滅時効完成後にその賃料債権を承認したときは、「消滅時効の完成を知らなかったとき」でも、その完成した消滅時効の援用をすることは許されない。
時効完成後に債務を承認する行為があった場合は、相手方も債務者はもはや時効を援用しないとの期待を抱くから、信義則上、その債務について時効を援用することはゆるされないとした。

[正解] 3


■しっかり読んでおきたい重要条文
*146条(時効の利益の放棄)
時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。
*150条(支払督促)
支払督促は、債権者が一定の期間内に仮執行の宣言の申立てをしないことによりその効力を失うときは、時効の中断の効力を生じない。
*153条(催告)
催告は、6ヵ月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押えまたは仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。

■ワンランク・アップ
時効の援用権者──物上保証人 *145条、最判昭42.10.27
物上保証人は、債権者が有する被担保債権の消滅時効を援用して、抵当権の抹消を求めることができます。
時効を援用することができる者は当事者ですが、当事者とは、時効により直接利益を受ける者(およびその承継人)をいいます。
消滅時効についていえば、物上保証人は、債権の消滅時効が完成すれば抵当権の実行を免れることになるので、時効により直接利益を受ける者といえるのです。

*145条(時効の援用)
時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。


(この項終わり)