|公開日 2017.5.10


【問 1】 Aの被用者Bが、Aの事業の執行につきCとの間の取引において不法行為をし、CからAに対し損害賠償の請求がされた場合のAの使用者責任に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 Bの行為が、Bの職務行為そのものには属しない場合でも、その行為の外形から判断して、Bの職務の範囲内に属すると認められるとき、Aは、Cに対して使用者責任を負うことがある。

 Bが職務権限なくその行為を行っていることをCが知らなかった場合で、そのことにつきCに重大な過失があるとき、Aは、Cに対して使用者責任を負わない。

 Aが、Bの行為につきCに使用者責任を負う場合は、CのBに対する損害賠償請求権が消滅時効にかかったときでも、そのことによってAのCに対する損害賠償の義務が消滅することはない。

 AがBの行為につきCに対して使用者責任を負う場合で、AがCに損害賠償金を支払ったときでも、Bに故意又は重大な過失があったときでなければ、Aは、Bに対して求償権を行使することができない。

(平成11年 問9)



[解説&正解]

使用者責任は、事業のために他人を使用する者は原則として、被用者・従業員がその事業の執行について第三者に加えた損害の賠償責任を負わなければならない、とするもの。
本問はその基礎知識を問う出題です。

 正しい  [事業執行の範囲──外形理論]*715条、最判昭39.2.4
使用者Aの事業の執行について行われた被用者Bの「行為の外形」から判断して、Bの職務の範囲内に属すると認められるときは、Aは、Cに対して使用者責任を負う。
事業の執行についてというのは、被用者の職務行為そのものには属さなくても、行為の外形から判断して、広く被用者の職務の範囲内に属すると認められる場合を含む(外形理論)。これは確立した判例である。


 正しい  [悪意・重過失がある被害者]*最判昭42.11.2
被用者Bに職務権限がないことを、相手方Cが「重大な過失」によって知らなかったときは、使用者Aは使用者責任を負わない。
悪意があったり、重過失があるような相手方を保護する必要はないからである。

※ 判例は次のようにいう。「行為の外形からみて事業の範囲内と認められる場合でも、その行為が被用者の職務権限内において適法に行なわれたものでなく、かつ、相手方がこの事情を知りながら(悪意)、または、重大な過失によりこの事情を知らないで(善意重過失)、当該取引をしたときは、その行為にもとづく損害は、715条にいう『被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害』とはいえない」。


 正しい  [不真正連帯債務の性質]*大判昭12.6.30
被用者Bの損害賠償債務が消滅時効にかかったときでも、使用者Aの損害賠償債務はその影響を受けず、時効消滅することはない。
被害者に対する使用者・被用者双方の債務は、不真正連帯債務であるから、弁済に相当する事由を除いて、Bについての時効、相殺などは一方の債務者Aに影響を及ぼさないのである(相対的効力)。


 誤り   [使用者の求償権──被用者の故意・過失]*715条3項
被用者Bに「故意又は重大な過失」がなくても、過失(軽過失)があれば、使用者Aは、Bに求償することができる。
使用者責任は、被用者の不法行為を基礎としているから、被用者に故意または過失(軽過失)があればよく、その過失は重過失である必要はない。

[正解] 4


■ワンランク・アップ  [使用者責任の趣旨]
715条は、使用者が被用者の活動によって利益をあげる関係にあることに着目して、利益の存するところに損失をも帰せしめるという見地から、使用者の事業活動中に被用者が他人に損害を加えた場合には、使用者も被用者と同じ内容の責任を負うべきだとしたのです。

■しっかり読んでおきたい重要条文
*715条(使用者等の責任)
1 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
3 第1項の規定は、使用者または監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。


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【問 2】 事業者Aが雇用している従業員Bが行った不法行為に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aに使用者としての損害賠償責任が発生する場合、Bには被害者に対する不法行為に基づく損害賠償責任は発生しない。

 Bが営業時間中にA所有の自動車を運転して取引先に行く途中に前方不注意で人身事故を発生させても、Aに無断で自動車を運転していた場合、Aに使用者としての損害賠償責任は発生しない。

 Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aに使用者としての損害賠償責任が発生する場合、Aが被害者に対して売買代金債権を有していれば、被害者は不法行為に基づく損害賠償債権で売買代金債務を相殺することができる。

 Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aが使用者としての損害賠償責任を負担した場合、A自身は不法行為を行っていない以上、Aは負担した損害額の2分の1をBに対して求償できる。

(平成18年 問11)



[解説&正解]

 誤り   [被用者の不法行為]*715条
使用者Aに、715条に基づく使用者責任が発生する場合には、その前提として、被用者Bについて、709条による不法行為責任が成立している
したがってAの使用者責任が成立しても、被害者に対するBの不法行為責任が免除されることはないのである。


 誤り   [事業執行の範囲──外形理論]*715条、最判昭39.2.4
被用者Bが、使用者Aに「無断で」運転していても、「営業時間中」に「取引先に行く途中」であれば、事業の執行について生じたものと解され、Aに使用者としての損害賠償責任が発生する。
事業の執行についてとは、被用者の職務行為そのものには属さなくても、行為の外形から判断して、広く被用者の職務の範囲内に属すると認められる場合を含んでおり、必ずしも担当業務を適正に執行する場合だけを指すものではないのである。


 正しい  [不法行為債権で相殺できるか]*最判昭42.11.30
被害者は、不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権として、使用者に対する売買代金債務と相殺できる。
被害者の損害賠償債権を受働債権にできないとする民法の趣旨は、被害者に現実の弁済を受けさせることにあるから、損害賠償債権を自働債権として相殺することまで禁止するものではないのである。


 誤り   [求償権の範囲]*715条3項、最判昭51.7.8
使用者Aが使用者責任を負うとしても、本来の責任は、加害者である被用者B自身にあるのだから、その不法行為責任が免除されるわけではない。
そのため、Aが損害賠償責任を負担した場合には、Bに対して求償できるのであるが、その範囲は必ずしも「損害額の2分の1」には限られない。

※ ただし、全額を求償できるものではなく、判例によれば「損害の公平な分担という見地から、信義側上相当と認められる限度」で求償できるとして、使用者の求償権を制限している。
これは、被用者は企業活動の一部として活動しており、それを通して使用者が多大な利益を上げていることや、企業活動に伴う危険性を考慮したためである。

[正解] 3

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【問 3】 Aに雇用されているBが、勤務中にA所有の乗用車を運転し、営業活動のため得意先に向かっている途中で交通事故を起こし、歩いていたCに危害を加えた場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 BのCに対する損害賠償義務が消滅時効にかかったとしても、AのCに対する損害賠償義務が当然に消滅するものではない。

 Cが即死であった場合には、Cには事故による精神的な損害が発生する余地がないので、AはCの相続人に対して慰謝料についての損害賠償責任を負わない。

 Aの使用者責任が認められてCに対して損害を賠償した場合には、AはBに対して求償することができるので、Bに資力があれば、最終的にはAはCに対して賠償した損害額の全額を常にBから回収することができる。

 Cが幼児である場合には、被害者側に過失があるときでも過失相殺が考慮されないので、AはCに発生した損害の全額を賠償しなければならない。

(平成24年 問9)



[解説&正解]

 正しい  [不真正連帯債務の性質]*大判昭12.6.30
被用者Bの損害賠償債務が消滅時効にかかっても、使用者Aの損害賠償債務はその影響を受けず、当然に時効消滅するものではない。
被害者に対する使用者・被用者双方の債務は、不真正連帯債務だからである。


 誤り   [死者自身の損害賠償請求権]*最判昭42.11.1
Cが「即死」の場合でも、使用者AはCの相続人に対して慰謝料賠償責任を負う。

判例は、即死の場合でも、負傷後数時間で死亡した場合でも、財産的損害・精神的損害について、まず被害者・死者自身に損害賠償請求権が発生し、それが相続人に承継されるとしている。
身体傷害の場合には、被害者自身が損害賠償請求権を取得するのに、最も重大な法益である生命侵害にそれが認められないのは、著しく均衡を欠くとしている。


 誤り   [求償権の範囲]*715条3項、最判昭51.7.8
損害を賠償した使用者Aが、その全額を常に被用者Bから回収できるものではない。
求償の範囲は、信義側上相当と認められる限度であって、使用者の求償権は制限される。Bの「資力」には影響されない。


 誤り   [被害者側の過失]*712条、714条1項、722条2項、最判昭34.11.26
幼児Cのように被害者本人に事理弁識能力がなくても、監督者である父母などの「被害者側」に過失があるときは、過失相殺が認められており(被害者側の過失の法理)、使用者Aが「損害の全額を賠償しなければならない」ものではない。
722条の過失とは、単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく「被害者側の過失」をも包含する趣旨なのである。

[正解] 1


■しっかり読んでおきたい重要条文
*712条(責任能力)
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。
*714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
1 責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、またはその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。


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【問 4】 Aの被用者Bと、Cの被用者Dが、A及びCの事業の執行につき、共同してEに対し不法行為をし、A、B、C及びDが、Eに対し損害賠償債務を負担した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 Aは、Eに対するBとDの加害割合が6対4である場合は、Eの損害全額の賠償請求に対して、損害の6割に相当する金額について賠償の支払をする責任を負う。

 Aが、自己の負担部分を超えて、Eに対し損害を賠償したときは、その超える部分につき、Cに対し、Cの負担部分の限度で求償することができる。

 Aは、Eに対し損害賠償債務を負担したことに基づき損害を被った場合は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、Bに対し、損害の賠償又は求償の請求をすることができる。

 Dが、自己の負担部分を超えて、Eに対し損害を賠償したときは、その超える部分につき、Aに対し、Aの負担部分の限度で求償することができる。

(平成14年 問11)



[解説&正解]

本問は、使用者責任と共同不法行為責任との混合問題です。こういう問題で点差がついてきます。

 誤り   [全額の連帯責任]*719条1項
使用者Aは、加害者「BとDの加害割合が6対4」であっても、被害者Eに対し全額の賠償責任を負わなければならない。
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは共同不法行為として、各人が連帯して損害全額を賠償する責任がある。

被用者Bは、Eに対し損害全額の責任を負い、使用者Aは、その指揮監督下にある被用者Bと一体をなすものとして、Bと同じ内容の責任を負うのである。
加害割合6対4は、内部的な負担部分として考慮されるだけである。


 正しい  [負担部分の求償]*最判平3.10.25
使用者Aが、加害者B・Dの過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、他方の使用者Cに対し、Cの負担部分の限度で求償することができる。
各使用者間の求償は、責任分担の公平を図るために認められているからである。


 正しい  [使用者の求償権]*715条3項、最判昭51.7.8
記述のとおり。問題文は、判旨をそのまま記述したもの。
使用者Aが、被用者Bの不法行為により、使用者としての損害賠償責任を負担したことにより損害をこうむった場合は、「損害の公平な分担という見地から、信義則上相当と認められる限度」において、Bに対し、損害の賠償または求償の請求をすることができる。

 正しい  [被用者の求償権]*最判昭63.7.1
Cの被用者Dが、自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分について、Bの負担部分(=Aの負担部分)の限度で、一方の使用者Aに対し求償することができる。
被害者Eとの関係においては、使用者Aと被用者Bは一体をなすものであり、Aは、Bと同じ内容の責任を負うのである。

[正解] 1



(この項終わり)