公開日 2017.5.10|最終更新日 2017.10.4

【問 1】 両当事者が損害の賠償につき特段の合意をしていない場合において、債務の不履行によって生ずる損害賠償請求権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 債権者は、債務の不履行によって通常生ずべき損害のうち、契約締結当時、両当事者がその損害発生を予見していたものに限り、賠償請求できる。

 債権者は、特別の事情によって生じた損害のうち、契約締結当時、両当事者がその事情を予見していたものに限り、賠償請求できる。

 債務者の責めに帰すべき債務の履行不能によって生ずる損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時からその進行を開始する。

 債務の不履行に関して債権者に過失があったときでも、債務者から過失相殺する旨の主張がなければ、裁判所は、損害賠償の責任及びその額を定めるに当たり、債権者の過失を考慮することはできない。

(平成22年 問6)



[解説&正解]

 誤り   [損害賠償の範囲──通常損害]*416条1項
債務不履行によって「通常生ずべき損害」(通常損害)については、両当事者がその「損害発生を予見していた」かどうかに関係なく、債権者は賠償請求できる。


 誤り   [損害賠償の範囲──特別損害]*416条2項
「特別の事情によって生じた損害」(特別損害)であっても、当事者がその事情を予見し、または予見することができた(予見可能であった)ときは、債権者は、賠償請求できる。「予見していたものに限る」わけではない。


 正しい  [損害賠償請求権の消滅時効]*最判平10.4.24
履行不能によって生ずる損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の「履行を請求し得る時」からその進行を開始する。
判例は、「債務不履行による損害賠償請求権は、本来の履行請求権の内容の変更であり、本来の履行請求権と法的に同一性を有すると見ることができるから、履行不能によって生ずる損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時からその進行を開始するものと解するのが相当」としている。


 誤り   [過失相殺の主張]*418条
債務不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は職権でその過失を考慮して、損害賠償の責任・その額を定めることができる。
「債務者から過失相殺する旨の主張」がなくてもよいのである。

[正解] 3


■しっかり読んでおきたい重要条文
*416条(損害賠償の範囲)
1 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、または予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
*418条(過失相殺)
債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任およびその額を定める。


…………………………………………………………


【問 2】 債務不履行に基づく損害賠償請求権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 AがBと契約を締結する前に、信義則上の説明義務に違反して契約締結の判断に重要な影響を与える情報をBに提供しなかった場合、Bが契約を締結したことにより被った損害につき、Aは、不法行為による賠償責任を負うことはあっても、債務不履行による賠償責任を負うことはない。

 AB間の利息付金銭消費貸借契約において、利率に関する定めがない場合、借主Bが債務不履行に陥ったことによりAがBに対して請求することができる遅延損害金は、年5分の利率により算出する。

 AB間でB所有の甲不動産の売買契約を締結した後、Bが甲不動産をCに二重譲渡してCが登記を具備した場合、AはBに対して債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができる。

 AB間の金銭消費貸借契約において、借主Bは当該契約に基づく金銭の返済をCからBに支払われる売掛代金で予定していたが、その入金がなかった(Bの責めに帰すべき事由はない。)ため、返済期限が経過してしまった場合、Bは債務不履行には陥らず、Aに対して遅延損害金の支払義務を負わない。

(平成24年 問8)



[解説&正解]

 正しい  [契約締結前の信義違反]*最判平23.4.22
判旨そのままの出題である。
契約締結前における信義則上の説明義務違反に基づき契約締結したために被った損害は、その後に締結された契約に基づくものではなく、不法行為により発生したものであるから、不法行為による賠償責任を負うことはあっても、契約上の債務不履行による賠償責任を負うことはない。


 正しい  [法定利率──金銭債務の特則]*419条1項、404条
金銭消費貸借契約において利率の定めがない場合でも、その債務不履行による遅延損害金は、年5分の利率により算出される。


 正しい  [二重譲渡と履行不能]*415条
二重譲渡における一方の譲受人Cが登記をすれば、完全に所有権を取得するから、一方の譲受人Aに対するBの債務は履行不能となる。
したがって、AはBに「債務不履行に基づく損害賠償請求」をすることができる。


 誤り   [金銭債務の特則]*419条3項
金銭の支払いを目的とする金銭債務については、債務者は、その不履行が不可抗力によることを証明しても、遅延損害金を支払わなければならない。
つまり、返済期限の経過(履行遅滞)が借主Bの責めに帰すべき事由によるものではなくても、Bは債務不履行となり、Aに対して遅延損害金の支払義務を負うのである。

[正解] 4


■ワンランク・アップ
[金銭債務で返済期限を定めなかったら、いつから履行遅滞?]
履行期限を定めなかった場合、①普通の債務(たとえば、建物の引渡しなど)では、債務者は、履行の請求を受けた時(催告の時)から履行遅滞となります。
ところが、②金銭消費貸借(お金の貸し借り)では、貸主は相当の期間を定めて催告することとなっていますから、催告の時からではなく、相当期間経過後から遅滞となります。
借主は、「4月末日までに返還せよ」と4月10日に催告されたら、4月末日経過後から履行遅滞となるのであって、4月10日からではありません。

*591条(返還の時期)
1 (消費貸借について)当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。

■しっかり読んでおきたい重要条文
*419条(金銭債務の特則)
1 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない
*404条(法定利率)
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年5分とする。
*415条(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。
債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。



(この項終わり)