|公開日 2017.5.10


【問 1】 Aが、Bに建物を3,000万円で売却した場合の契約の解除に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 Aが定められた履行期に引渡しをしない場合、Bは、3,000万円の提供をしないで、Aに対して履行の催告をしたうえ契約を解除できる。

 Bが建物の引渡しを受けて入居したが、2ヵ月経過後契約が解除された場合、Bは、Aに建物の返還とともに、2ヵ月分の使用料相当額を支払う必要がある。

 Bが代金を支払った後Aが引渡しをしないうちに、Aの過失で建物が焼失した場合、Bは、Aに対し契約を解除して、代金の返還、その利息の支払い、引渡し不能による損害賠償の各請求をすることができる。

 特約でBに留保された解除権の行使に期間の定めのない場合、Aが、Bに対し相当の期間内に解除するかどうか確答すべき旨を催告し、その期間内に解除の通知を受けなかったとき、Bは、契約を解除できなくなる。

(平成10年 問8)



[解説&正解]

 誤り   [弁済の提供と契約解除]*493条、533条、最判昭29.7.27
売主Aが「履行期に引渡しをしない」場合でも、買主Bは代金の提供をしなければ、催告をしただけで契約を解除することはできない。
Aには同時履行の抗弁権があるから、履行期に引渡しをしなくても履行遅滞にはない。したがって、Bが契約を解除するには自ら代金を提供して、Aの同時履行の抗弁権を消滅させてAを履行遅滞にしなければならない。
履行の提供のない単なる催告は、Aを履行遅滞にすることはできず、したがって、その催告に基づく解除は効力を生じない。


 正しい  [解除と使用利益の返還義務]*545条、703条、最判昭51.2.13
契約が解除されれば、双方の債権・債務ははじめにさかのぼって消滅するため、すでになされた履行は法律上の原因を失うから、不当利得として互いにこれを返還する原状回復義務を負うこととなる。
原状回復義務により、履行がなかったと同一の財産状態(原状)を回復させるためには、買主Bには、建物返還とともに、解除までの間に建物を使用したことによる利益(2ヵ月間の使用料相当額)も返還させることが公平といえる
売主Aは、受領した代金に利息をつけて返還することになる。


 正しい  [履行不能による契約解除等]*543条、545条2項
引渡しをしないうちに、売主Aの「過失で建物が焼失した」というのは、Aの建物引渡債務が、Aの責めに帰すべき事由(故意・過失)により履行不能になったということである。
この場合、買主Bは、履行不能を理由に契約を解除して、①代金の返還、②受領時からの利息の支払い、③履行不能による損害賠償の各請求をすることができる。


 正しい  [催告による解除権の消滅]*547条
買主Bの「解除権の行使に期間の定めのない」場合、売主Aは、Bに対し相当の期間を定めて、契約を解除するかどうか確答せよと催告できる。
この催告期間内にAが解除通知を受けなかったときは、Bの解除権は消滅し、もはや契約を解除することはできない。

※ 解除する旨の通知をしないときは「解除権が消滅する」のであって、契約が「解除されたものとみなされる」のではないことに注意。
解除権者は確答しないまま催告を放置したわけだから、その解除権を消滅させて契約を存続させることにより相手方を保護したのである。

[正解] 1


■しっかり読んでおきたい重要条文
*543条(履行不能による解除権)
履行の全部または一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
*545条(解除の効果)
1 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
*547条(催告による解除権の消滅)
解除権の行使について期間の定めがないときは、相手方は、解除権を有する者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その期間内に解除の通知を受けないときは、解除権は消滅する。
*703条(不当利得の返還義務)
法律上の原因なく他人の財産または労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした受益者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。


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【問 2】 Aが、B所有の建物を代金8,000万円で買い受け、即日3,000万円を支払った場合で、残金は3ヵ月後所有権移転登記及び引渡しと引換えに支払う旨の約定があるときに関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。

 Aは、履行期前でも、Bに残金を提供して建物の所有権移転登記及び引渡しを請求し、Bがこれに応じない場合、売買契約を解除することができる。

 Bが、履行期に建物の所有権移転登記はしたが、引渡しをしない場合、特別の合意がない限り、Aは、少なくとも残金の半額2,500万円を支払わなければならない。

 Bが、Aの代金支払いの受領を拒否してはいないが、履行期になっても建物の所有権移転登記及び引渡しをしない場合、Aは、Bに催告するだけで売買契約を解除することができる。

 Aが、履行期に残金を提供し、相当の期間を定めて建物の引渡しを請求したにもかかわらず、Bが建物の引渡しをしないので、AがCの建物を賃借せざるを得なかった場合、Aは、売買契約の解除のほかに、損害賠償をBに請求することができる。

(平成8年 問9)



[解説&正解]

 誤り   [履行期前の履行の提供]*136条
履行期限は互いに「3ヵ月後」と約定しているから、この履行期前に買主Aが残金を提供したとしても、これは自らが有する期限の利益を放棄したにすぎず、これによって売主Bが履行遅滞となることはない。
したがって、Aは履行遅滞を理由に契約を解除することはできない。
Bは、3ヵ月後まで(履行しなくていいという)期限の利益を有しているのだから、約定どおり3ヵ月後に履行すればよい。


 誤り   [同時履行の約定と一部履行]*533条
売主Bが「所有権移転登記はしたが、引渡しをしない」という一部履行にすぎない場合、買主Aは、特別の合意がない限り、残金の半額2,500万円を支払う必要はない。
残金支払いと移転登記・引渡しについては、「引換えに」という同時履行の約定があるから、売主Bが登記・引渡し(全部履行)をするまで、Aは残金5,000万円の支払いを拒むことができるのである。


 誤り   [弁済の提供と契約解除]*493条、533条、最判昭29.7.27
売主Bが、履行期に登記・引渡しをしない場合でも、代金の受領を拒否しているわけ(受領遅滞)ではないから、買主Aは、Bに「催告するだけ」で契約を解除することはできない。
Bには同時履行の抗弁権があるから、期間が過ぎたというだけでは履行遅滞とはならないのである。
Bの履行遅滞を理由に契約を解除するためには、Aは自ら履行の提供をして、Bの同時履行の抗弁権を消滅させ、Bを履行遅滞にする必要がある。
Aは、残金5,000万円を提供(履行の提供)してはじめて、契約を解除できるのである。


 正しい  [契約解除と損害賠償の範囲]*545条3項、416条
履行期に履行の提供を受けながら、建物の引渡しをしない売主Bは履行遅滞にあるから、買主Aは契約を解除し、損害があればその賠償を請求できる。
損害賠償の範囲は、原則として、債務不履行から通常生ずべき損害である(相当因果関係)。
買主Aは、売主Bの履行遅滞が原因で、賃料を払って「Cの建物を賃借せざるを得なかった」という損害を受け、この損害と不履行との間には相当因果関係があるから、その分の損害をBに請求することができる。

[正解] 4


■しっかり読んでおきたい重要条文
*136条(期限の利益とその放棄)
1 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
2 期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。
*416条(損害賠償の範囲)
1 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
*545条(解除の効果)
3 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。


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【問 3】 Aは、A所有の土地を、Bに対し、1億円で売却する契約を締結し、手付金として1,000万円を受領した。Aは、決済日において、登記及び引渡し等の自己の債務の履行を提供したが、Bが、土地の値下がりを理由に残代金を支払わなかったので、登記及び引渡しはしなかった。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち誤っているものはどれか。

 Aは、この売買契約を解除せず、Bに対し、残代金の支払を請求し続けることができる。

 Aは、この売買契約を解除するとともに、Bに対し、売買契約締結後解除されるまでの土地の値下がりによる損害を理由として、賠償請求できる。

 Bが、AB間の売買契約締結後、この土地をCに転売する契約を締結していた場合で、Cがやはり土地の値下がりを理由としてBに代金の支払をしないとき、Bはこれを理由として、AB間の売買契約を解除することはできない。

 Bが、AB間の売買契約締結後、この土地をCに転売する契約を締結していた場合、Aは、AB間の売買契約を解除しても、Cのこの土地を取得する権利を害することはできない。

(平成14年 問8)



[解説&正解]

 正しい  [履行請求と契約解除]
買主Bに債務不履行があっても、売主Aは契約を解除せずに、Bに残代金の支払いを請求し続けることができる。
契約を解除するか、引き続き履行の請求をするかは、当事者の自由である。


 正しい  [損害賠償の額]*最判昭28.12.18
売主Aは、手付金を受領していても、買主Bの債務不履行を理由に契約を解除するとともに、解除までの土地の値下がりによる損害の賠償を請求できる。
この場合の損害賠償の額は、履行期における時価ではなく、解除当時における時価を標準として定められる。
つまり、履行期の時価と解除当時の時価の差額(値下がり分)が、Bの債務不履行により、Aに通常生ずべき損害といえるのである。


 正しい  [解除権の発生事由]*541条~543条
契約を解除するには、
① 相手方に債務不履行があるか(法定解除権)、
② 当事者があらかじめ特約によって定めた解除事由が発生しなければならない(約定解除権)。
売主Aは「決済日において、登記及び引渡し等の自己の債務の履行を提供」しており、
債務不履行はない。したがって買主Bは、Cの代金不払いを理由にして、契約を解除することはできない。

※ またAは、すでに登記及び引渡し等の自己の債務の履行を提供して「履行に着手」しているから、Bは手付放棄による契約解除もできない(557条1項)。


 誤り   [解除前の第三者と登記]*545条1項但書、●最判昭33.6.14
契約を解除しても、解除前にすでに取引関係に立った第三者の権利を害することはできないが、この第三者が保護されるためには、登記などの対抗要件を備えていることが必要である。
BC間では「転売する契約を締結」しているだけで、第三者Cは登記を備えていないから、解除したAは、Cの権利を害することができるのである(自己の所有権を主張できる)。

[正解] 4


■ワンランク・アップ  [解除の遡及効の制限]
契約が解除されると、その効果として、契約上の債権・債務ははじめにさかのぼって消滅し、契約をしなかった状態に戻ります(解除の遡及効)。
そうすると、解除がある前に権利を取得した第三者も、解除がなされたことにより、はじめから権利を取得しなかったこととなり、まったく責任がないのに権利を失ってしまいます。
そこで民法は、この第三者の権利を保護するために、解除をしても「第三者の権利を害することはできない」と定めて、解除の遡及効を制限しました。
ただし、この第三者が保護されるためには、善意・悪意に関係なく、登記などの対抗要件が必要です。


(この項終わり)