|公開日 2017.5.10


【問 1】 不法行為による損害賠償に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 不法行為による損害賠償の支払債務は、催告を待たず、損害発生と同時に遅滞に陥るので、その時以降完済に至るまでの遅延損害金を支払わなければならない。

 不法行為によって名誉を毀損された者の慰謝料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなかった場合でも、相続の対象となる。

 加害者数人が、共同不法行為として民法第719条により各自連帯して損害賠償の責任を負う場合、その1人に対する履行の請求は、他の加害者に対してはその効力を有しない。

 不法行為による損害賠償の請求権の消滅時効の期間は、権利を行使することができることとなった時から10年である。

(平成19年 問5)



[解説&正解]

 正しい  [不法行為債務の履行期限]*最判昭37.9.4
不法行為による損害賠償債務は、被害者からの「催告」がなくても、損害発生と同時に当然に履行遅滞となる。これは被害者の利益を図る趣旨なのである。
したがって、加害者は、不法行為成立時以後、完済に至るまでの遅延損害金を支払わなければならない。
※ 結局、被害者は、①本来の損害賠償と、②遅延損害金を請求することになる。


 正しい  [慰謝料請求権の相続]*710条、711条、最判昭42.11.1
不法行為によって財産以外の損害(名誉・プライバシーなどの精神的損害)を受けた被害者は、財産上の損害を受けた場合と同様、損害の発生と同時に、その賠償を請求する権利、つまり慰藉料請求権を取得する。

慰謝料請求権は、これを放棄したと解される特別の事情がない限り行使できるのであって、賠償を請求する意思を表明するなど格別の行為を必要とするものではない。
したがって被害者が死亡したときは、その慰藉料請求権も、被害者が生前に「請求の意思」を表示したか否かにかかわらず(生前に意思表示がなくても)、当然に金銭債権として相続の対象となる。


 正しい  [不真正連帯債務]*719条、最判平6.11.24
共同不法行為による加害者1人1人の損害賠償債務は、不真正連帯債務であって、弁済に相当する事由(弁済、代物弁済、供託)以外には絶対的効力はない。
これは、被害者の利益を優先して保護するためである。
「履行の請求」など1人に生じた事由は、当人だけにその効力が生じ、他の加害者には効力を生じない。


 誤り   [不法行為による損害賠償請求権の消滅時効]*724条
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効期間は、権利行使できることとなった時から、つまり、
① 被害者またはその法定代理人が、損害および加害者を知った時から3年間、
または、
② 不法行為の時から20年間、である。

[正解] 4


■ワンランク・アップ  [不真正連帯債務──被害者を有利に]
民法719条は、共同不法行為者は、各人が「連帯して」損害賠償責任を負うと定めていますが、ここにいう連帯というのは、いわゆる連帯債務ではなく、不真正連帯債務と解されています。

連帯債務だと、債務者の1人について生じた事由(時効、相殺、免除など)は、ほかの債務者にも効力が及ぶため(絶対的効力)、債権としては効力が弱くなり、債権者(被害者)に不利となります。
しかし、そもそも不法行為者にこのように有利な地位を認める理由はなく、むしろ被害者(債権者)の債権の効力を強める必要から、弁済に相当する事由以外には絶対的効力を認めない連帯債務が、判例や学説により形成されたのです。
民法が定める真正の連帯債務ではないという意味で、これを不真正連帯債務と呼びます。

■しっかり読んでおきたい重要条文
*709条(不法行為による損害賠償)
故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
*710条(財産以外の損害の賠償)
他人の身体、自由、名誉を侵害した場合、または他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
*711条(近親者に対する損害の賠償)
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者および子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
*719条(共同不法行為者の責任)
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。(以下略)
*724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者(またはその法定代理人)が、損害および加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。
不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。


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【問 2】 Aが、その過失によってB所有の建物を取り壊し、Bに対して不法行為による損害賠償債務を負担した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 Aの不法行為に関し、Bにも過失があった場合でも、Aから過失相殺の主張がなければ、裁判所は、賠償額の算定に当たって、賠償金額を減額することができない。

 不法行為がAの過失とCの過失による共同不法行為であった場合、Aの過失がCより軽微なときでも、Bは、Aに対して損害の全額について賠償を請求することができる。

 Bが、不法行為による損害と加害者を知った時から1年間、損害賠償請求権を行使しなければ、当該請求権は消滅時効により消滅する。

 Aの損害賠償債務は、BからAへ履行の請求があった時から履行遅滞となり、Bは、その時以後の遅延損害金を請求することができる。

(平成12年 問8)



[解説&正解]

 誤り   [過失相殺の主張がないときは?]*722条2項、最判昭34.11.26
722条2項には「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」と規定されている。
したがって、被害者Bにも過失があった場合、加害者Aから「過失相殺の主張」がなくても、裁判所はこれを考慮して(裁判所の自由裁量)、職権により賠償額を定めることができるので、賠償金額を減額することもできるのである。


 正しい  [共同不法行為責任の性質]*719条1項
被害者Bは、Cより過失の軽微なAに対しても、損害全額について賠償請求することができる。
共同不法行為の場合、各不法行為者の過失の軽重に関係なく、各人が連帯して全損害を賠償しなければならないのである。


 誤り   [不法行為による損害賠償請求権の消滅時効]*724条
「1年間」が誤り。
不法行為による損害賠償請求権は、被害者またはその法定代理人が、損害および加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効消滅する。
※ 不法行為の時から20年を経過したときも、同様。


 誤り   [不法行為債務の履行期限]*最判昭37.9.4
不法行為に基づく損害賠償債務は、損害発生と同時(不法行為と同時)に当然に履行遅滞となる。「履行の請求」があった時から遅滞となるのではない。被害者の利益を優先しているのである。
したがって、被害者Bは、不法行為の成立時以後の遅延損害金も請求できることになる。

[正解] 2


■しっかり読んでおきたい重要条文
*722条(過失相殺)
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる


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【問 3】 Aが故意又は過失によりBの権利を侵害し、これによってBに損害が生じた場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 Aの加害行為によりBが即死した場合には、BにはAに対する慰謝料請求権が発生したと考える余地はないので、Bに相続人がいても、その相続人がBの慰謝料請求権を相続することはない。

 Aの加害行為がBからの不法行為に対して自らの利益を防衛するためにやむを得ず行ったものであっても、Aは不法行為責任を負わなければならないが、Bからの損害賠償請求に対しては過失相殺をすることができる。

 AがCに雇用されており、AがCの事業の執行につきBに加害行為を行った場合には、CがBに対する損害賠償責任を負うのであって、CはAに対して求償することもできない。

 Aの加害行為が名誉毀損(きそん)で、Bが法人であった場合、法人であるBには精神的損害は発生しないとしても、金銭評価が可能な無形の損害が発生した場合には、BはAに対して損害賠償請求をすることができる。

(平成20年 問11)



[解説&正解]

 誤り   [慰謝料請求権の相続]*710条、711条、最判昭42.11.1
不法行為によって慰藉料請求権を取得した被害者が死亡した場合、被害者が生前に請求の意思を表示したか否かに関係なく、相続人は当然に慰藉料請求権を相続する。
判例によれば、慰謝料請求権は被害者の請求の意思表示を必要とするものではないから、被害者が「即死」の場合であっても、相続人は慰藉料請求権を相続するのである。


 誤り   [正当防衛]*720条
他人の不法行為に対して自らの利益を防衛するためにやむを得ず行った加害行為(不法行為)は、正当防衛であって違法性がなく、不法行為責任を負うことはない。


 誤り   [使用者の求償権]*715条3項
使用者Cが損害賠償責任を負担した場合には、被用者Aに対して求償することができる。そもそもCが使用者責任を負うとしても、本来の責任は、加害者である被用者A自身にあり、その不法行為責任が免除されるわけではないのである。


 正しい  [法人の名誉毀損]*710条、723条、最判昭39.1.28
法人の名誉権が侵害され、無形の損害が生じた場合でも、金銭評価が可能であるかぎり、名誉侵害に基づく損害賠償請求をすることができる。

※ 判例は「被害者が自然人であろうと、いわゆる無形の損害が精神上の苦痛であろうと何であろうとかかわりないわけであり、法人の名誉権に対する侵害の場合たると否とを問うところではないのである」としている。

[正解] 4


■しっかり読んでおきたい重要条文
*715条(使用者等の求償権)
3 使用者が損害賠償責任を負う場合においては、使用者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
*720条(正当防衛)
1 他人の不法行為に対し、自己または第三者の権利、または法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
*723条(名誉毀損における原状回復)
他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、または損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。


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【問 4】 不法行為に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 不法行為による損害賠償請求権の期間の制限を定める民法第724条における、被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう。

 不法行為による損害賠償債務の不履行に基づく遅延損害金債権は、当該債権が発生した時から10年間行使しないことにより、時効によって消滅する。

 不法占拠により日々発生する損害については、加害行為が終わった時から一括して消滅時効が進行し、日々発生する損害を知った時から別個に消滅時効が進行することはない。

 不法行為の加害者が海外に在住している間は、民法第724条後段の20年の時効期間は進行しない。

(平成26年 問8)



[解説&正解]

 正しい  [損害賠償請求権の期間の起算点]*724条、最判平14.1.29
判例は、「被害者が損害を知った時」とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時としている。


 誤り   [不法行為による損害賠償請求権の期間]*724条、大判昭11.7.15
「10年間」が誤り。
不法行為による損害賠償請求権は、不法行為の時から遅滞になるので、遅延損害金債権も同時に遅滞になる。
損害賠償請求権自体と遅延損害金債権とは別個の債権であるが、ともに同一事由から発生しており緊密に関連しているので、遅延損害金債権についても724条が適用され、一般債権の10年ではなく、3年で時効消滅する。


 誤り   [継続的不法行為による損害の消滅時効]*大連判昭15.12.14
不法占拠のような継続的不法行為については、日々発生する損害を知った時から別個に消滅時効が進行するというのが、判例である。
損害が継続して発生している限り、日々新たな損害が発生しているから、それらの新たな損害を知った時から別個の時効が進行するというのである。
※ 「一括して消滅時効が進行」するというのは、かつての判例の見解である。


 誤り   [時効の停止事由]
不法行為の加害者が海外に在住している間でも、時効は停止することなくそのまま進行する。民法上、海外在住は、時効の停止事由とはされていない。

[正解] 1


(この項終わり)