|公開日 2017.5.10


【問 1】 Aの所有する土地をBが取得したが、Bはまだ所有権移転登記を受けていない。この場合、民法の規定及び判例によれば、Bが当該土地の所有権を主張できない相手は、次の記述のうちどれか。

 Aから当該土地を賃借し、その上に自己名義で保存登記をした建物を所有している者

 Bが移転登記を受けていないことに乗じ、Bに高値で売りつけ不当な利益を得る目的でAをそそのかし、Aから当該土地を購入して移転登記を受けた者

 当該土地の不法占拠者

 Bが当該土地を取得した後で、移転登記を受ける前に、Aが死亡した場合におけるAの相続人

(平成10年 問1)



[解説&正解]

 主張できない [土地賃借権の対抗要件──建物保存登記]*最判昭49.3.19
土地・建物の賃貸借については、借地借家法により賃借権の登記に代わる簡便な対抗要件が認められている。
つまり、土地の賃借権は、賃借権自体の登記がなくても、賃借人が登記ある建物を所有するときは、これをもって土地賃借権を第三者に対抗することができるのである(借地借家10条)。
賃借地上に「自己名義で保存登記をした建物」を所有している土地賃借人は、すでに土地賃借権の対抗要件を備えているから、所有権移転登記のないBは、土地賃借人に土地所有権を対抗できず、したがってまた、賃貸人たる地位を主張することもできない。


 主張できる  [177条の第三者──背信的悪意者]*最判昭43.8.2
「高値で売りつけ不当な利益を得る目的」というように、権利取得の方法がきわめて不誠実な背信的悪意者に対しては、Bは登記なしに土地所有権を主張できる。
177条は、不動産に関する物権変動は、「その登記をしなければ第三者に対抗することができない」と定めているが、「登記をしなければ対抗できない第三者」というのは、すべての第三者ではなく、対立する第三者に「登記がないこと(登記の欠缺)を主張するについて正当な利益を有する第三者」をいう。
背信的悪意者は、Bに「登記がないこと(登記の欠缺)を主張する正当な利益を有する第三者」にはあたらないのである。

※ なお、背信的悪意者からの転得者は、自身が背信的悪意でない限りは「第三者」に含まれるというのが判例である(最判平8.10.29)。


 主張できる  [不法占拠者に対しても登記必要か]*最判昭25.12.19
不法占拠者には占有を正当づける何の権利もないから、Bは登記がなくても、不法占拠者に対し土地所有権を主張して土地の明渡しを求めることができる。

※ 不法占拠者は不動産に対する侵害者であって、取引の当事者ではないから、はじめから「登記により物権変動を対抗する」という対抗問題とはならない。
なお、賃料不払いなどの債務不履行により賃貸借契約を解除された賃借人が、引き続き賃借物を占有している場合も、不法占拠者にあたる。


 主張できる  [相続人は177条の第三者か]*177条
不動産に関する物権変動は、その登記をしなければ、第三者に対抗することができないが、この第三者とは「物権変動の当事者およびその包括承継人」以外の者をいう。
相続人は、被相続人Aの包括承継人であって、契約当事者であるAの売主としての地位をそのまま承継するから、そもそも「第三者」にはあたらない。
買主Bは登記がなくても、Aの相続人に対して(あたかもAに対して主張できるように)土地所有権を主張できるのである。

[正解] 1


■しっかり読んでおきたい重要条文
*177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
不動産に関する物権の得喪および変更は、その登記をしなければ、第三者に対抗することができない
*借地借家法10条(借地権の対抗力)
1 借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。


…………………………………………………………


【問 2】 Aは、自己所有の建物をBに売却したが、Bはまだ所有権移転登記を行っていない。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち誤っているものはどれか。

 Cが何らの権原なくこの建物を不法占有している場合、Bは、Cに対し、この建物の所有権を対抗でき、明渡しを請求できる。

 DがAからこの建物を賃借し、引渡しを受けて適法に占有している場合、Bは、Dに対し、この建物の所有権を対抗でき、賃貸人たる地位を主張できる。

 この建物がAとEとの持分1/2ずつの共有であり、Aが自己の持分をBに売却した場合、Bは、Eに対し、この建物の持分の取得を対抗できない。

 Aはこの建物をFから買い受け、FからAに対する所有権移転登記がまだ行われていない場合、Bは、Fに対し、この建物の所有権を対抗できる。

(平成16年 問3)



[解説&正解]

 正しい  [不法占有者に対しても登記が必要か]*最判昭25.12.19
不法占有者Cには、占有を正当づける何の権利もないから、Bは登記がなくても、Cに対し建物の所有権を主張して、その明渡しを請求できる。
そもそも不法占有の場合は、取引関係に立った物権相互間の優劣を決める対抗問題とはならないのである。


 誤り   [建物賃借権の対抗要件──引渡し]*最判昭49.3.19
建物賃貸借は、賃借権自体の登記がなくても、建物の引渡しがあれば、以後その建物について物権を取得した者に対抗することができる(借地借家31条)。
建物賃借人Dは建物の引渡しを受けているから、すでに建物賃借権の対抗要件を備えており、したがってBは、建物所有権の移転登記をしていない以上、Dに対して建物所有権を対抗することができず、また賃貸人たる地位も主張できない。


 正しい  [共有持分の譲受人に登記は必要か]*最判昭46.6.18
共有持分の譲受人Bは、その譲渡について登記がない限り、共有者Eに対し、自らの共有持分の取得を対抗できない(つまりは、共有物の分割請求ができない)。
Aの共有持分の譲受人Bにとって、他の共有者は177条の「第三者」にあたるのである。


 正しい  [前々主に対しても登記が必要か]*最判昭39.2.13
Bは所有権移転登記がなくても、Fに対して建物の所有権を対抗できる。
建物が、F→A→Bと順次譲渡された場合、FはAの前主であって、はじめからBとは177条の対抗関係にはないのである。
もともとFは売主として、Aに対し登記移転に協力する義務があるのだから、新所有者Bに登記がないこと(登記の欠缺)を主張することは許されない。

[正解] 2


■しっかり読んでおきたい重要条文
*借地借家法31条(建物賃貸借の対抗力)
1 建物の賃貸借は、その登記がなくても建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。


…………………………………………………………


【問 3】 Aは、自己所有の甲地をBに売却し引き渡したが、Bはまだ所有権移転登記を行っていない。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち誤っているものはどれか。

 Cが、AB間の売買の事実を知らずにAから甲地を買い受け、所有権移転登記を得た場合、CはBに対して甲地の所有権を主張することができる。

 Dが、Bを欺き著しく高く売りつける目的で、Bが所有権移転登記を行っていないことに乗じて、Aから甲地を買い受け所有権移転登記を得た場合、DはBに対して甲地の所有権を主張することができない。

 Eが、甲地に抵当権を設定して登記を得た場合であっても、その後Bが所有権移転登記を得てしまえば、以後、EはBに対して甲地に抵当権を設定したことを主張することができない。

 AとFが、通謀して甲地をAからFに仮装譲渡し、所有権移転登記を得た場合、Bは登記がなくとも、Fに対して甲地の所有権を主張することができる。

(平成15年 問3)



[解説&正解]

 正しい  [二重譲渡と登記]*177条
典型的な二重譲渡の問題である。
不動産に関する所有権移転や抵当権設定などの物権変動は、その登記がなければ第三者に対抗できない
したがって土地が、①A→B、②A→Cと二重譲渡され、B・Cが互いに対抗関係に立つ場合には、先に登記を備えたCが完全に所有権を取得し、登記のないBに対して甲地所有権を主張できることになる。
この場合、第三者Cは善意である必要はなく、「売買の事実」を知っている悪意でもよい。

 対抗要件


 正しい  [背信的悪意者は177条の第三者か]*最判昭43.8.2
「Bを欺き著しく高く売りつける目的」というように、権利取得の方法がきわめて不誠実な背信的悪意者Dは、登記のないBに対して甲地の所有権を主張できない。
物権変動があってもその登記をしなければ対抗できない「第三者」とは、「登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者」である。
背信的悪意者Dは、Bに登記がないこと(登記の欠缺)を主張する正当な利益を有する第三者にはあたらない


 誤り   [先に対抗要件を備えた抵当権]*177条
甲地について先に抵当権設定登記をしたEは、Bに対してその抵当権を主張できる。
Bが、甲地について先に所有権を取得していても、その登記がなければ所有権を第三者Eに対抗できないから、結局Bは、Eの抵当権によって制限された所有権を取得することになる。


 正しい  [虚偽表示と177条の第三者]*最判昭34.2.12
A→Fの仮装譲渡は、虚偽表示によるものであり無効であるから、はじめから所有権は仮装譲受人Fに移転しておらず、Fの移転登記も虚偽の登記として無効である。
Bは登記がなくても、無権利者Fに対して甲地の所有権を主張できる。

[正解] 3


(この項終わり)