|公開日 2017.5.10


【問 1】 買主Aと売主Bとの間で建物の売買契約を締結し、AはBに手付を交付したが、その手付は解約手付である旨約定した。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち正しいものはどれか。

 手付の額が売買代金の額に比べて僅(きん)少である場合には、本件約定は、効力を有しない。

 Aが、売買代金の一部を支払う等売買契約の履行に着手した場合は、Bが履行に着手していないときでも、Aは、本件約定に基づき手付を放棄して売買契約を解除することができない。

 Aが本件約定に基づき売買契約を解除した場合で、Aに債務不履行はなかったが、Bが手付の額を超える額の損害を受けたことを立証できるとき、Bは、その損害全部の賠償を請求することができる。

 Bが本件約定に基づき売買契約を解除する場合は、Bは、Aに対して、単に口頭で手付の額の倍額を償還することを告げて受領を催告するだけでは足りず、これを現実に提供しなければならない。

(平成12年 問7)



[解説&正解]

 誤り   [解約手付の額]*大判大10.6.2
判例は、売買金額に比べ手付金が些少であっても、解約手付として有効であるとしている。


 誤り   [解約手付と履行の着手]*557条、最判昭40.11.24
買主Aは、代金の一部を支払うなど自ら「履行に着手した」場合でも、相手方である売主Bが「履行に着手していない」場合には、解約手付を放棄して契約を解除できる。

※ 相手方が履行に着手する前であれば、自分が履行に着手していても、手付額の損失を覚悟して契約を解除できるというのが、解約手付の趣旨である。
相手方の履行の着手という制限をおいたのは、せっかく履行に着手した相手方に損害を与えないためである。


 誤り   [解約手付と損害賠償]*557条2項
買主Aが、解約手付の約定により契約を解除した場合、Aに債務不履行がない以上、売主Bは「手付の額を超える」損害を立証できても、損害賠償請求はできない。
そもそも解約手付による解除は、手付額だけの損失を覚悟すれば契約を解除できるという趣旨であって、債務不履行による解除ではないから、解除しても損害賠償の問題は生じないのである。


 正しい  [手付受領者は口頭のみで解除できるか]*557条、最判平6.3.22
手付を交付した買主Aが解除するには、解除の意思表示だけで足りるが、手付を受領した売主Bが解除する場合には、単に口頭で手付の倍額を償還することを告げて「受領を催告する」だけでは足りず、手付を現実に提供しなければならない。
条文では、売主は、手付の倍額を償還して解除できるとされている。

[正解] 4


■しっかり読んでおきたい重要条文
*557条(手付)
1 買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
2 第545条3項(解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない)との規定は、前項の場合には、適用しない。


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【問 2】 Aは、Bから土地建物を購入する契約(代金5,000万円、手付300万円、違約金1,000万円)を、Bと締結し、手付を支払ったが、その後資金計画に支障を来たし、残代金を支払うことができなくなった。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち誤っているものはどれか。

 「Aのローンが某日までに成立しないとき、契約は解除される」旨の条項がその契約にあり、ローンがその日までに成立しない場合は、Aが解除の意思表示をしなくても、契約は効力を失う。

 Aは、Bが履行に着手する前であれば、中間金を支払っていても、手付を放棄して契約を解除し、中間金の返還を求めることができる。

 Aの債務不履行を理由に契約が解除された場合、Aは、Bに対し違約金を支払わなければならないが、手付の返還を求めることはできる。

 Aの債務不履行を理由に契約が解除された場合、Aは、実際の損害額が違約金よりも少なければ、これを立証して、違約金の減額を求めることができる。

(平成6年 問6)



[解説&正解]

 正しい  [解除条件付売買契約]*127条2項
「Aのローンが某日までに成立しないとき、契約は解除される」旨の条項は、解除条件である。解除条件付契約は、解除条件が成就した時からその効力を失う
したがって、「ローンがその日までに成立しない」という条件が成就すれば、改めて解除の意思表示をしなくても、契約は当然に効力を失うことになる。


 正しい  [解約手付と履行の着手]*557条、最判昭40.11.24
買主Aは、売主Bが履行に着手する前であれば、中間金(代金の一部)を支払って自ら履行に着手していても、手付を放棄して契約を解除し、すでに支払った中間金の返還を求めることができる。


 正しい  [解除の効果]*545条1項、420条3項、703条
当事者は、債務不履行に備えてあらかじめ損害賠償の額を予定することができるが、「違約金は賠償額の予定と推定される」ため、買主Aは、債務不履行を理由に契約を解除されれば、約定どおり、違約金1,000万円を支払わなければならない。
ただ契約が解除されると、契約ははじめにさかのぼって消滅し、Bに支払われた手付は法律上の原因を失い不当利得となるため、Aは、手付については返還を求めることができる(手付解除とは異なることに注意)。


 誤り   [違約金の性質]*420条3項
本問の場合、違約金の定めがあるから、買主Aの債務不履行を理由に契約が解除された場合に、Aは、実際の損害額が違約金よりも少ないことを「立証」しても、その減額を求めることはできない。
違約金は賠償額の予定と推定されるから、実際の損害額を証明しても、予定額の増減を請求することはできないのである。
買主Aが減額を求めるには、賠償額の予定という推定そのものをくつがえして、違約金が賠償額の予定ではないことを立証する必要がある。

[正解] 4


■しっかり読んでおきたい重要条文
*420条(賠償額の予定)
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。


(この項終わり)